第3話 魔剣士学園への推薦

 先の騒動から数日後。

 俺は珍しくギルドからの呼び出しを受けていた。


 一体なんだろう。

 まさか、騒ぎを起こしたせいでギルドから除名されるなんてことはないよな?


 一抹の不安を抱きながら、俺はギルドの受付へと向かった。


「あ、おはようございます、アン・ノウンさん。お身体の調子はもう大丈夫なんですか?」


「…………え?……あ、ああ。……それで要件は?」


 いかんいかん。

 数日人に会っていないうちに、魔剣のせいで体調を崩したという設定を忘れかけていた。


「はい、実はですね……」


 俺の質問を聞いた受付嬢は、カウンターテーブルの下から一封の封筒を取り出した。


「こちらをどうぞ。ギルドにアン・ノウンさん宛てのお手紙が届いたんですよ」


「……手紙?」


 そんなものが届く心当たりはなかった。

 俺はその手紙を受け取ると、封を切って中に入っていた紙を広げた。


「……キリヴァリエ魔剣士学園……特別推薦状?」


 どっかの学校の推薦状?

 聞いたこともない学園だけど、どうして俺に?


 すると、受付嬢が驚いたように言った。


「ええ!キリヴァリエ魔剣士学園の推薦状ですか!?すごいじゃないですか!!」


「……そうなのか?」


 この世界の教育事情について全く詳しくないのでいまいちピンとこない。


「当然です!キリヴァリエといえば世界一の魔剣士養成機関ですよ!受付嬢の私でも知っているぐらい有名です!」


「……ほう。しかし、なぜ俺に」


「きっと、アン・ノウンさんの冒険者としての活躍が学園まで伝わって、才能を見込まれたんですよ。実際、先日も大活躍だったらしいじゃないですか」


「…………」


 確かに、手紙の中には「貴殿のご活躍を~」とか、そういう旨のことが書かれている。


 にしても魔剣士の学校かあ~。

 今更通ったところで、何か学べるとは思わないけどなあ。

 現にこうして魔剣士として仕事しているわけだし……。


 ………………。


 ……あ、でもそうだ……。


 ……そういえば俺……。


 高校卒業、してなかったんだ……。



「迷ってるなら、行ってみればイイんじゃね?」


 いつの間にか受付嬢の隣にいた人物が言った。

 浅黒い肌をした初老の男。イヤリングやネックレスといった貴金属をたくさん身に着けた、いかにもなチャラ男風だ。


「あ、マスター!いつからいらっしゃったんですか?」


 受付嬢にマスターと呼ばれた男は「どうも~」と爽やかに笑った。


 そうだ、この男が俺が所属している冒険者ギルドのギルドマスターである。

 俺も数回しか対面したことはないが、異世界では珍しいタイプの人物なので、よく記憶に残っている。


「だってほら、世界一の魔剣士学園に行けば、君のそのアブナイ魔剣を制御する方法が見つかるかもしれないじゃん?」


 マスターは腰に下げた俺の剣を指さしながら言った。


「………………は?……え、ああ」


 危ない危ない、また設定を忘れていた。普通に「は?」とか言っちゃったよ。

 まだ他人から不意に設定に関する話題を振られると反応が遅れるんだよなあ。

 気を付けないと。


「……しかしいいのか?働き手が減ってしまうのはギルドにとって損失だと思うが」


「いやいや、そこは気にしなくていいよ~。君一人に頼りきってるほど弱小のギルドじゃないんだしさ。それに、学校に通いながらでも冒険者として働いてもらうことは何の問題もなくできるよ?」


 マスターはニカっとわざとらしい笑みを俺に向けてきた。

 どうやら学園に通ったとしても、こき使うつもり満々のようだ。


「あと、キリヴァリエの学生が所属してるとなるとうちのギルドにも箔が付くし、君を経由してキリヴァリエ出身の子がうちに入ってくれるかもしれない。そう考えると、結構いいことあるんだよねえ~」


 なるほど。

 あくまでギルドとしてのメリットを考えて、俺に入学を進めているわけだ。


「ま、最終的に決めるのはノウンくんだけどさ。入学するなら期限が決まってるし、早めに決めといた方がいんじゃない?」


「…………」


 なんか、返答を急かして判断を鈍らせる悪徳セールスみたいな物言いだな……。

 まあそんなことはいい。なにせ俺の答えは、もう既に決まっているのだから。


「……分かった。キリヴァリエ魔剣士学園の推薦を受けよう」

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