カチカチ山ifルート(ウサギがタヌキにとどめを刺さなかった場合)
山口遊子
第1話
おいらはタヌキのぽん太。背中のやけどのあとがいまだにひりひりするし、山道を歩いているとき、うしろのほうで、カチッ、とかボーとか音がすると、びっくりして飛び上がってしまう。
ちょっと前まではなんともなかった池の水がいまはこわい。それというのも、あのにくいウサギ、うさ吉のせいだ。
いたずらしてやった爺さんがおいらになにかするならまだわかる。おいらにあんなひどいことをする権利があいつのどこにあるんだ?
などど、少し前のことを思い出していたぽん太のところにウサギのうさ吉が通りがかって一言。
「やあ、ぽん太じゃないか。いたずらばかりしてると、またひどい目にあうぞ」
そう言ってうさ吉は楽しそうにぴょんぴょん跳ねながらじぶんのねぐらに帰っていきました。
『何言ってるんだ! おまえがおいらをひどい目あわせたんじゃないか。ふん、楽しんでるのはいまのうちだ。おいらには、とっておきがあるのさ』
そう言ってぽん太は手にした小さな壺を見てにんまり笑いました。
その壺の中には、山の木から垂れて来た樹の蜜が入っていて、いいぐあいに発酵してるようで蓋を取ると甘い匂いが辺りに立ち込めます。
『いけない、いけない。ここで、蓋を開けちゃいけない。危ないところだった』
急いで壺の蓋を締めるぽん太。周りを見渡して誰もいないことを確かめ、それからうさ吉のねぐらに向かって歩いていきました。ぽん太は歩きながら口元が緩んでしまうのを必死にこらえています。
「おいらもうさ吉のおかげで心を入れ替えることが出来たみたいだ。お礼にいいものをもって来たぞ。ほれ、受け取ってくれ」
うさ吉のねぐらにやってきたぽん太は、そう言って、さっきの壺をうさ吉に渡しました。
「そうかい、ありがとよ」
うさ吉がもらった壺の蓋を開けると、えも言われぬいい香りがします。我を忘れてうさ吉は鼻先を突っ込んで舐め始めました。小さな壺だったのですぐに中身が無くなってしまいます。うさ吉の顔や手は樹の蜜がついてべとべとです。
「どうだい。おいしかったろう。もっと欲しけりゃ自分でとってくればいい。おいらがそのおいしい樹の蜜が取れる木を教えてやるよ。すぐそこだからついてきな」
ふらふらとぽん太のあとを付いて行くうさ吉。うさ吉は樹の蜜がよっぽどおいしかったのか、自分の手に付いた樹の蜜をまだ舐めています。
「うさ吉、あそこに大きな木が見えるだろ、あの木の幹からその樹の蜜が垂れてくるんだ。こっちから行くと歩きやすいぞ」
「なんか、ブンブン音がしないか?」
「あれは、ブンブン山のブンブン鳥の鳴き声さ。おいらはここで待ってるから、さっさと行ってきな。ブンブン鳥がやってきて先に樹の蜜を食べちゃうぞ」
それを聞いたうさ吉は向こうに見える大きな木に走って行きました。
「ビエーーーー! ヒエーーーー! ドエーーーー!」
大きな木の裏側には発酵した樹の蜜の大好きなスズメバチの大きな巣があったのです。
にんまり笑ってぽん太は自分のねぐらに帰っていきました。
翌日。
ねぐらの中で体中をハチに刺されたうさ吉が寝ていました。
そこにやってきたぽん太。
「うさ吉、昨日の蜜はおいしかったろう?」
「……」
うさ吉は文句を言ってやろうとしましたが体中が痛くて何も言えません。
「あれ? まさかハチに刺されたんじゃないのか? それは大変だ。ちょうどいい薬があるから刺されたところに塗ってやるよ」
ぽん太は懐から小さな壺を取り出すと、うさ吉の腫れあがって毛の抜けた部分に壺に入っていた薬らしきものを塗り付けていきました。
熱を持っていた腫れがひんやりとしてうさ吉は気持ちよくなりました。
痛みに昨日から寝ていなかったうさ吉ですが気持ちよくなったことでそのまま眠ってしまいました。
「今日はうさぎ鍋だな。ふふふ」
顔を醜くゆがませたぽん太が懐から包丁を取り出しました。
おしまい。
カチカチ山ifルート(ウサギがタヌキにとどめを刺さなかった場合) 山口遊子 @wahaha7
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