飴玉のような星が降る夜に
二〇〇〇年八月。夏休み真っ盛りだった私は、校庭に天体観測に出かけた。冬に咲いた向日葵のことも、ユウという密やかな友人のこともすっかりと忘れるほど、少年時代に浸っていた。
ほのかに秋の足音が聞こえる穏やかな夜だった。
遥か彼方に煌めく星に浮かれていた私は、場違いな双眼鏡をぶら下げて校庭までの道を走った。教師たちが天体望遠鏡を揃えていることは知っていたが、自分だけの「武器」とも呼べる双眼鏡が私を強くさせているような気がしていた。拳銃を初めて忍ばせた人間は世界が違って見えると言うが、きっと当時の私もそれと似たようなものだったのだろう。
「星の煌めきは遠くの宇宙で、星の命が尽きたときの最期の光なんだ。何光年と離れているから、僕らには消滅の光しか見えない」
額に汗をかく私の耳に声がした。
「消滅の光を流れ星と呼び、願いを込める。死んだ後に、誰かの願いを叶えるなんてロマンチックだと思わないかい?」
まただ。走り続ける私の足が徐々に遅くなった。息切れのせいだけではない。
「地球は美しい」
ユウ。私は立ち止まり、あたりを見渡した。もちろん、彼の姿はなく夕闇と星明かりがあるだけだった。
ユウが聞かせてくれた話だ。そうだ。言葉を交わした数は少なかったかもしれないが、その分深い言葉を交わしたではないか。
「ユウ!」私の声は闇に溶ける。
彼はもうここにはいない。
私は深呼吸しながら、何かが溢れ落ちないように夜空を見上げた。
そのときだ。遠くの空で、星が流れた。それは祈る間も無く、消えていった。
望遠鏡など、必要ないのだ。心から見ようと思えば、見えるものはある。そこにいなくとも、そこにいるのだ。
私は泣いていた。子供だった当時、その涙の意味はわからなかった。私はただただ、わけもわからずに泣いていた。
涙を拭くと、そこには星があった。一際輝く、美しい星が。それはどんなときでも輝いている。誰の上にも平等に降り注ぐ光だ。
これが、私の人生に影響を与えた出来事だ。
このときから、私の進む道は決まっていたのだ。
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