無重力と時の狭間

ジミーがスペースデブリに飲み込まれた後、私は彼の後を追おうとした。が、ロドチェンコのワイヤーに捕まってしまった。

 「待て、テンマ! 早まるな!」

 「離してください、ボス。このままじゃジミーが」

 「わかってる。わかってるがいまはだめだ」

 「俺もボスに賛成だぜ、テンマ。俺たちまで死んだんじゃ全滅だ。洒落にならん」ロドリゴもワイヤーを飛ばし、私のポッドに巻きつけた。

 「ジミーはまだ死んでないですよ!」私は珍しく感情的になっていた。「このままじゃ死んでしまいます。彼を見捨てろって言うんですか?」

 「そうじゃない。態勢を立て直すと言っているんだ」ロドチェンコが怒鳴った。彼は宇宙服を羽織るのも忘れていた。

 「そういうこった。なあ、嬢ちゃんからもなんとか言ってやってくれよ。ターミナルへ戻ろうって……嬢ちゃん?」

 「マッチャさんなら救難信号を飛ばしながらターミナルへ戻りましたよ」私は深呼吸した。覚悟は決まった。「もう、戻る必要なんてないでしょう? ジミーの救出に向かいます」

 「ならん! 許可できない」

 「俺は許可なんて求めていませんよ、ボス」

 「無謀すぎる」

 「そうだぜ、テンマ。おまえ一人でクルー全員を危険に晒すきか?」

 「そうやって何もしないのはもうやめたんだ」私は言った。ただの独り言だ。「あのときだってそうだ。俺が行動していれば、ユウはもう少しまともな世界があったかもしれない」

 「あ? なんだって?」

 「おい、ボス。見てみろよ、磁場が乱れてやがる」ロドリゴは左腕のパネルを叩いた。「相当強いぜ。嫌な予感がする」

 「これは異常だ……テンマ、わかったか、磁場が……おい!」

 私はポッドを抜け出していた。宇宙服に包まれた肉体が重力の穴に引き込まれていく。

 もう声は聞こえない。私自身の鼓動だけが、静かに鼓膜を叩いている。

 私は重力の先にある新世界に向かってひたすらに泳いだ。

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