第2話親父を倒すと妹が現れるらしい
───俺はふと考えた事がある。いくら娯楽に飢えているとはいえ、何故ここまでジャンケンが世界に広がったのだろうかと。
少し広まる位で良かった。庶民の遊びとして流行すればそれでいいと思っていた。
それが重要な決め事までジャンケンに委ねるようなイカれた世界になるとは思っていなかった。知ってるか? この世界、死刑を宣告されてもジャンケンで勝ったら減刑されるんだぜ。
あまりにイカれてて聞いた俺が腰を抜かしてしまった。ただこの時に行われるジャンケンはBO10、6本先取が勝利条件であり、受刑者の相手はジャンケン
意味が分からない?俺もだ。
知っているか?この国、いやこの世界には騎士と呼ばれる階級の者がいる。言ってしまえば職業の1つでしかないのだが、騎士になっているのはその9割近くが貴族だ。
それもあって職業と言うより騎士という階級扱いされている。ジャンケン聖騎士と呼ばれる者たちはその騎士の中でも選ばれたエリートという事になる。
ジャンケンで騎士のエリート?と疑問に思うだろう。この世界はイカれている。その前提で話をしよう。
この世界の騎士が戦場でする事が何か知っているか? 剣で敵を倒すこと?違う。槍で敵を貫くこと?違う。弓や銃で相手を撃ち抜くことか?違う。
ジャンケンだ。
奴らは戦場で剣を抜いて戦うのではなく、ジャンケンによって相手を倒そうとする。ジャンケンに負けた者は潔く勝者に降る。それが戦場のルールらしい。イカれてやがる!
この世界も治安が良い所はいいが、やはり生活に苦しんだ者が賊になる事がある。そんな彼らがどうするか分かるか?
村や町を襲い食料や金銭を奪おうとする。その時に使われるのがジャンケンだ!
ふざけている訳ではない。彼らは生きる為にジャンケンで食料や金銭を奪おうとする。自分で言ってて頭が可笑しくなりそうだ。
どこまでもジャンケンに支配されている。剣や弓で血なまぐさい争いをする時代は終わった!戦いは全てジャンケンで行う!
───イカれてるぜぇ。
俺がこの世界にジャンケンを広めたのは5歳の時だ。たった12年で世界がジャンケンに支配されている。何故、誰もこの変化に驚かない?何故皆が当たり前のようにジャンケンを受けて入れている?
あまりの事態に流石の俺も震えたさ。そして調べた。古い書物を漁ってその原因を突き詰めた。聞いてくれ。大事な話になるだろう。
事の始まりは神話となる。神々がまだ下界にいた時の話だ。
───この世界はジャンケンによって生まれた。いや、決してふざけている訳ではない。神々がこの世界を作る時にどんな風にするか悩み、意見が割れたそうだ。1人の神が作るなら簡単だが何人もの神が意見を出し合えば当然なかなか纏まらない。
その時に使われたのがジャンケンだ!
ジャンケンに勝利した神によって、この世界は作られそして事ある毎にジャンケンが行われた。
この世界に生み出す生命はどうする?みたいな事で意見が割れたらジャンケン。
この土地の形どうする?で話が纏まらなければまたジャンケン。ジャンケンで勝者を決めて楽する事を覚えたらしい。
そうして神がジャンケンによって様々ものを決めてこの世界が誕生した。
世界が出来上がり、人類や生物の環境がある程度安定すると神は下界から去った。ジャンケンについて神が残したものが残っていたが、今の世まで語り継がれる事はなかった。
神話を読んで俺は理解した。ここまでジャンケンが世界に影響を残しているのは神が何かやったのだと。
下界から姿を消したが消えた訳ではない。教会の神父やシスターなんかが神の声を聞いたという話を聞いた事がある。
『困ったらジャンケンをしなさい』と宣託があったらしいが、肝心のジャンケンが分からずどうしたらいいか困ったそうだ。
つまり神が世界の常識を変えたのだ。ヤツらジャンケンに支配されてやがる!!
俺がジャンケンを世界に広げた時、神々はきっと喜んだだろう。ジャンケンの魅力に漸く気が付いたと!そして常識まで変えやがった。
見事なまでにイカれた世界だ。だが俺にとっては好都合。常勝無敗のジャンケンマスターの俺が生きるのに相応しい世界と言える。
リリベルに負けてただろって? ふっ。2本取られただけだ。この世界のジャンケンは基本BO5、3本先取した方が勝ち。
時と場合によって勝利条件は変わるが基本は先に3勝した方が勝者となる。戦場でも同じルールでジャンケンが行われているぜ!
リリベルとのジャンケンは3-2で俺の勝ち。最初の2回は相手の癖を見るためにわざと負けたのさ。癖を読んだ俺はその後三連勝した。見事な勝利だ!
この世界で家族以外とのジャンケンは初めてだったが、やはりジャンケンのヒロちゃんの実力は伊達ではなかった!
「何やら楽しそうだなジャック」
「そう見えるかい、父さん」
「そうだな。表情には出ていないが仕草で分かるぞ。お前の親父だからな」
現在俺はマーガレット伯爵の屋敷を後にして、馬車で屋敷まで帰っている所だ。俺の対面には貴族服に身を包んだ立派なカイゼル髭を生やした男が座っている。短く切り揃えた金髪と髭が男らしさを感じさせる。なかなかダンディな男だ。
切れ長の碧眼と右目の下の泣きボクロが特徴だな。流石は俺の親父だ。なかなかにイカスじゃないか。
しかしまぁこの言葉遣いにも慣れたものだ。神に前世で俺がモテなかった理由を指摘され、悪い所を徹底的に直した。ふふふ、天才でありながら努力する。努力する天才を越えられる存在はこの世に存在しない!
パーフェクトな俺にかかればハーレムを作るのは容易いだろう。何故なら俺にはジャンケンがある。リリベルは今回はダメだったが、既に癖は見抜いた。次は確実に勝たせて貰う。
「リリベルとジャンケンをしてね」
「ほぅ!俺たち以外とジャンケンをしたのか?結果はどうだった?」
「どうにか勝てたよ」
「流石はジャックだな、俺以外には負ける姿が予想出来ん」
「父さんでも俺には勝てないよ」
「ほぅ!このジャンケンマスターに強気だなジャック!」
「俺が出ていない大会だよ。出ていたら結果は違うさ」
俺と親父の間でバチバチと火花が散る。もちろんはそんな気がするだけだがな!
親父が語るジャンケンマスターとは年に一回行われる国で1番ジャンケンが強い者を決める大会で優勝した者に与えられる称号だ。
ジャンケンに全てが委ねられるこの世界ではその称号が持つ力はあまりに強い。既に5回大会が行われているが親父が5連覇している。
つまりこの国最強のジャンケンの使い手は親父となる。流石だな親父!
この大会参加人数が果てしなく多い。なんなら全国民が参加していると言っていい程だ。そんな大会を勝ち抜き優勝する。連覇する事など凡人には不可能だろう。だが、天才である俺の親父は当然凡人ではない。前代未聞の5連覇を成し遂げだ真のジャンケンマスター。
だが、それは俺が出ていないからだ。出ていれば結果は違う!
「1本勝負といかないかい、父さん?」
「いいだろう。ジャンケンの生みの親とはいえこの俺は越えられんぞ息子よ」
お互いにニッと笑みを浮かべる。同レベルのジャンケンの使い手が対峙した時にだけ発生する、空間が揺れる音がしたな。何を言ってるか分からない?
それはお前がジャンケンについてにわかだからだ!同レベルの実力者がジャンケンをしようとすればそのオーラで空間が揺れるに決まっているだろう!
自分で言ってて意味が分からないぜ!早い話ジャンケンに支配された神の仕業だ!
「父さん、俺は『グー』を出すよ」
「この俺に心理戦を仕掛けるか。流石だな」
「心理戦を勝ち抜いてこそ真のジャンケンマスターだよ、違うかい?」
「ジャック。お前の目の前にいる存在が、全ての心理戦に勝利した最強の存在だ!
あえて乗ろうじゃないか。俺は『パー』を出そう」
ふふふ、楽しくなってきたぜ。流石親父だ。俺が心理戦を仕掛ければ直ぐさま乗ってきた。バカな凡人はこの駆け引きの意味を理解出来ないだろう。
真の強者にしか至れない領域がある。俺は常に先をいく。親父の意図も全てを見抜く。親父と同様に俺の意図を見抜こうとするだろう。これから行われるのはお互いの意図の読み合い。そして高度な騙し合いだ。相手の言葉を信じるか裏をかくか、言葉のやり取りでその難易度は跳ね上がる。
親父は『パー』を出す気でいる。それなら俺は『チョキ』を出せば勝利出来る。だが親父もまたそれを呼んで『グー』を出してくるだろう。だがそこまでは俺も余裕で読める。当然『パー』を出すさ。
凡人はそこで終わりだが親父はジャンケンマスター。更に呼んでくる事が予想出来る。こちらの『パー』を見抜いて『チョキ』を出してくるはずだ。だがそこで俺の最初の言葉が脳裏に過ぎる。
俺は『グー』を出すと言った。深読みし過ぎた結果『チョキ』を出して負けという可能性すらある。凡人は勝負に出る勇気が出ずあいこで茶を濁そうと『グー』を出すに違いない。
だが、親父はここで勝負に出てこれる男だ。俺の『グー』に勝つために『パー』を出す、それを俺が読んでいる事を計算に入れ親父は『グー』を出してくるだろう。
え?凡人と結局同じだって? 駆け引きすら出来ないバカと一緒にするな!それすら分からないから浅はかなのだ!
俺は親父の手を読んでいる。俺が出す手は『パー』だ!!!
「いくよ、父さん」
「お前に教えてやろえ。決して越えられない王者の壁というものを」
『ジャンケンの生みの親』ジャックVS『ジャンケンマスター』ルイス!
空中にカラフルな文字が浮かび上がった。イカれてやがる。神の仕業だ!どれだけ俺たちのジャンケンを楽しみにしてるんだ!
ルイスというのは親父の名前だ。ルイス・フォレスト。伯爵の爵位を持つ貴族だが、爵位以上の価値を持つ称号『ジャンケンマスター』の所持者だ。彼の言葉には王族すら動く。
意味が分からないだろう? 俺も分からない。
さて、親父との戦いといこうじゃないか!いくぞ親父ぃぃぃ!
「「ジャンケンポン!!」」
親父が出した手は俺の読み通り『グー』。やはり俺の読み勝ちだ!
「『パー』だと!?俺の考えを読んだというのか!?」
「当然だよ父さん。俺はジャンケンの生みの親だぜ」
「負けたぜ、ジャック。お前が最強だ」
燃え尽きたプロボクサーのように真っ白になった親父が力無く椅子に倒れる。俺の強さにどうやら失神してしまったようだ。
『勝者!ジャック・フォレスト!!!、
カッコイイ!結婚して!!!』
空中に文字が浮かんでいる。ふふふ、俺の勝利を祝ってくれ。俺こそが最強だ!!直ぐに文字が消えたから読み切れなかったが結何とかって書いてなかったか?
カッコイイの文字は読み切れた。神すら俺の強さとイケメンさに見惚れてしまったようだ。罪な男だな。
それから暫くして屋敷に着いた。負けたショックでピクリとも動かない親父の肩を叩いてから馬車を出る。その時に一声かけるのを忘れない。
「先に降りるよ元『ジャンケンマスター』」
ビクッ!と親父の体が跳ねた。よく見ると蟹みたいに泡を吹いている。どんだけショックだったんだ親父!? 非公式の戦いだからジャンケンマスターなのは変わらないが…。
俺が上だと印象付けようと言ったが、トドメの一撃になったらしい。使用人に親父の事を任せ、屋敷に入る。もう少ししたら夕食だ。その前に少しだけ休むとしよう。
このやたら広い屋敷にも既に慣れた。この豪華な作り!正に上級階級の暮らしじゃないか!?
見たか平民よ!ジャンケンマスターの俺に相応しいゴージャスな生活だ!
鉄仮面故に顔には出ないが笑いが堪えきれないぜ。俺はこの世界で全てを手に入れる。ジャンケンマスターである俺には容易い事だ。
自室の扉を開けると、ベッドの上で俺の下着を頭から被り『お兄様お兄様!』と騒ぐ妹の姿見えた。
なるほど。この世界ではこのような事も平気で起こるのか。
───イカれてるぜぇ。
ジャンケンを制するとハーレムを作れるらしい かませ犬S @kamaseinux
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ジャンケンを制するとハーレムを作れるらしいの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます