ジャンケンを制するとハーレムを作れるらしい
かませ犬S
第1話 ジャンケンを制するとハーレムが作れるらしい
諸君、ジャンケンというものを知ってるだろうか?
三種類の指の出し方、所謂グー・パー・チョキで三すくみの関係を構成して、その強弱関係により勝敗を決める日本に古くから存在する遊戯である。その起源は遥か昔だ。
軽い要件を決める時や迷った時に使われる事が多い勝負方法でもある。
さて、何故俺がジャンケンについて話すか疑問に思うだろう。単純な話だ。俺がジャンケンが好きだからだ。何故ジャンケンが好きか、語り尽くせない程あるが1番大きな理由はジャンケンで勝つことで対戦相手が俺に惚れるからだ。
何も世迷言を言っているんだと思うだろうが、それが浅はかというものだ。
俺は転生者だ。察しのいい人間は気付いただろう。そういう
事のきっかけはコンビニにお菓子を買いに行った帰りだろう。猛スピードで突っ込んできた車に撥ねられて俺は死亡した。
その後に現れた神を見て頭のいい俺は直ぐに察したさ。神様転生の流れだなと。神が話す内容は俺の予想通りのものだった。
神の不手際で俺を死なせてしまい、代わりに異世界に転生させてあげるというものだ。当然能力付きだ。
異世界に転生する事が分かった時に俺はどうしたいか考えた。バトル漫画のようにカッコイイ展開は望んでいない。ラブコメのように女の子に囲まれた生活をしてみたいのだ。
31年生きてきたが、女の子と付き合った事もなければ告白した事もない。現実の女の子との生活を夢見ながらギャルゲーや漫画を読む日々。当然ながら女の子との接点はない。彼女が欲しいと思いながら行動出来なかったのが俺だ。
こうして異世界に転生出来るというのなら、俺の31年の人生で出来なかった女の子とイチャイチャする生活を送りたい。
だがギャルゲーやアニメや漫画から得た知識で言えば、主人公は女の子に惚れられるように努力している。ギャルゲーなら自分磨きして相手の事を考えて行動しているし、アニメや漫画なんかはヒロインの為に我武者羅に頑張ってる姿が見える。
同じ事が俺に出来るかと言われれば無理だ。出来れば楽して女の子に好かれたい。
現実で考えれば不可能な話ではあるが、それを可能にする力がある。そうチート能力だ。
だから神に求めた。女の子に楽して好かれる能力が欲しい。
答えは無理。そういう能力はあるにはあるが、渡すことは出来ないらしい。
この神はなかなか出来る人物で俺に代わりのモノを提案してきた。
無条件で好かれる能力は渡す事は出来ないが、何かしらの勝負事に勝つ事で対戦相手を惚れされる能力なら渡す事が出来ると。有能な神だ。
さて、ここで重要になってくるのがその条件となる勝負事だ。当然だが命のやり取りや、怪我が予想される勝負事はしたくない。
負けた時のリスクを負いたくないのだ。俺が得意なものが何か考えたが、残念ながらこれだ!というものが直ぐには浮かばなかった。
ゲームなんかは好きで良くやっていたが、その腕前はたまに家にやってくる親戚のガキをボコボコにして泣かす位のものだ。プロゲーマーなんかとやれば瞬殺されるだろう。
オセロやトランプなんかなら安全でいいかと思ったが、そこまで俺は強くない。
その時俺の幼少期の記憶が蘇った。そうだ、あったじゃないか!俺が無敗の強さを誇った勝負事が!
───そう、それこそがジャンケンだ。
小学生の頃の俺はジャンケンで無敗の強さを誇った。給食の余りのプリン争奪戦で負けた事は一度もない。ジャンケンマスターのヒロちゃんとは俺の事だった。
勝負に時間もかからず一瞬で着く。ルールも簡単だ。命の危険もない。この時の為に作られたような遊戯だ。
俺は勝負事を決めた。そして神からチートを貰った。
『ジャンケンで勝ったら対戦相手が俺に惚れる』。なんて楽なんだ。ギャルゲーのような好感度稼ぎも、漫画やアニメのようなイベントすら必要ない。ただジャンケンで勝つだけで女の子に好かれるのだ。素晴らしい能力と言えるだろう。
だが、用心深い俺は念には念を入れた。神に確認を取った。俺が転生する世界に俺よりジャンケンが強い者がいるかと。
神は答えた。比べようがないと。
どうやら俺の強さそこまで突出したものらしい。比べる相手が出てこない程俺は強かったようだ。流石はジャンケンのヒロちゃんの異名を誇った俺だ。こうして俺はチートを貰って異世界へと旅立った。
俺の出生は貴族の長男だった。どうやらこの世界は貴族階級が存在するらしい。
俺の家は伯爵の爵位を持つ貴族だった。出来ればもう少し爵位が上の家が良かったが贅沢は言ってられない。貴族として上級階級に生まれた事を喜ぶとしよう。そしてこのチート能力を使って女の子のハーレムを作るのだ!
そう意気込んだのはいいが、大きくなるとこの世界にジャンケンという遊戯が存在しない事に気付いた。これではチートを使えない。せっかく貰ったチートが宝の持ち腐れになってしまう。
だが俺は頭が良かった。凡人とは出来が違ったのだ。ジャンケンがないなら作ればいい。ジャンケンを知らないなら広めればいい。
無から有を生み出すのは難しいが、既にジャンケンは出来上がっておりそのルールは単純なものだ。家が貴族というのも相まってジャンケンという遊戯を世界に広めるのは簡単だった。
どうやらこの世界は娯楽が少ないようで俺が発案したジャンケンは面白いように世界に広がった。親父が社交界、果ては仕える王にまでジャンケンを発案した為だ。娯楽に飢えたこの世界にあっという間にジャンケンが浸透し、なんと国技にまでなってしまった。
職業にまでジャンケンが関わっている。大事な決め事の時にもジャンケンが使われるからだ。勝負師と呼ばれる職業があり、言ってしまえばジャンケンの代行者だ。ジャンケンに自信がない者の代わりにジャンケンをする者の事を言う。当然だが勝率が高い者が好かれ、多くの指名を集める。イカれた話だ。
政治における重要な決め事の時にまでジャンケンが使われる程だ。どうやら俺は世界を変えてしまったようだ。カードゲームであらゆる事を決めるように、ジャンケンでこの世界は決めてしまうらしい。
どこまでもイカれた世界だ!だが俺にとってはどこまでも好都合!
さて、現在の俺の年齢17歳。貴族として成人まで後1年といった所だ。ジャンケンは世界に浸透した事で困り事は解決した。
なら俺がチートを使ってハーレムを作っているかと聞かれれば答えはNOだ。俺は今に至るまで一度もチートを使っていない。直ぐに使うにような奴がいればそいつは思慮の浅い愚か者だろう。
俺にはしっかりと叡智がある。
俺がチートと使ってこなかった理由は2つある。1つは年齢による行動範囲だ。幼い頃はどうしても行動範囲が限られる。親と共に行動しないとろくに動く事も出来ない。
これではまだ見ぬ美少女や美女に会うことが出来ない。そうだとも!俺は美少女や美女に会いたい。好かれるならやはり容姿が優れた女性の方が男としては嬉しいだろう。
さて話を戻そう。行動範囲もそうだが、年齢が幼ければ出来る事も少ない。
仮にチートを使って好かれたとしても体が幼けれれば大人の関係には進めないだろう。そうだとも!俺は美少女や美女と大人の関係になりたい!
前世では大人のお店でしか体験をした事がない。俺はチートを使って色んな女の子と大人の関係を持ちたいのだ!
そしてもう1つ。俺は今の所家族以外とジャンケンをしていない。どうしてジャンケンをしないの?なんて考える奴がいればそいつは間違いなく凡人だ。
俺にはしっかりと叡智がある。
はっきり言おう。俺はジャンケンにおいては最強だ。何故なら俺こそがこの世界のジャンケンの生みの親だからだ。俺よりもジャンケンに詳しい奴はこの世界にいないだろう。
神も言っていた。俺が最強だと。比べようがないほど突出してしまっているのだ。
そんな俺が公に出てジャンケンをすればどうなると思う? 当然だが俺に勝てる奴はいないだろう。向かうところ敵無しのジャンケンマスターが誕生してしまう。
俺としては望む所ではあるが、そうなると対戦相手が減る事が予想される。
必ずジャンケンをしないといけない場面なら相手も応えるだろう。
だが、そうじゃない場合だ。ジャンケンに限った話ではないが、勝負事というものは勝者と敗者が決まる。そして人というものは勝ちたい生き物だ。勝ちと負けなら当然、勝ちの方がいい。
さて、ここで問題だ。今からジャンケンする事になった。その相手が向かうところ敵無し、常勝無敗のジャンケンマスターなら対戦するだろうか?
答えはNOだ。最初から負けが分かっている勝負を受けるものはいない。突出した強さというものは時に孤独を生んでしまうのだ。
俺がジャンケンをすれば王者になるのは間違いない。だが、それで女の子に対戦を避けられてはチートを使う事が出来ない。
前世に素晴らしい格言があった。
『能ある鷹は爪を隠す』正にその通りだ。俺はジャンケンの発案者でありながら一度も公で、ジャンケンをしてこなかった。
家族以外とは使用人ともした事がない。何度か誘われたが全て断ってきた。
するとどうだろうか? 俺の実力が気になる者たちが色々な噂を立てる。『実は弱い』『強すぎるからしないだけ』。正解は後者だが、弱いからしないのだろうと噂は広がった。
俺の予定通りだ。これなら女の子も俺との対戦を断らないだろう。
弱いと噂されるがジャンケンの発案者である為、俺の名前は世界中に広がっている。そんな俺と対戦出来ることを女の子は光栄に思う筈だ。そして受けてから気付くのだ!
目の前にいるのが怯えるか弱い子猫ではなく、屈強で偉大な力を誇る獅子であると!
そしてチートにより女の子は俺に惚れる。完璧だ。ハーレムを作る準備は出来た。随分と時間はかかってしまったがな。
───さて、現在俺はとある貴族の屋敷にいる。親父の仕事の付き添いでやってきたのだが、既にやる事を終えて暇していた。
そんな俺に声をかけて、綺麗な庭園で俺の為にお茶を入れてくれているのがこの屋敷の主人マーガレット伯爵の長女リリベルだ。
彼女との関係は一言で言えば婚約者だ。
領地が近く親同士の親交が深かった為に割と早く決められた。親が決める婚約者というのはこの世界では珍しくない。
目の前のリリベルを見てみる。可愛らしい少女だ。美少女と言っていい。歳は俺と同じだった筈だ。
手入れのされた澄み渡る空のような水色の髪。腰まで伸びた髪を見ると洗う時、大変だろうなと思ってしまう。
髪と同色の水色の瞳はぱっちり二重。少しタレ目気味だろうか? 全体的に整った容姿だ。
胸はそこまで大きくないか? 巨乳好きな俺からすれば残念ではあるが、柔らかければ万事OKだ。彼女にプレゼントとして送った白いドレスを着てくれている。よく似合っている。まるで妖精のようだ。
ここで1つ話をしておこう。親父の仕事の付き添いできたが俺の本命は彼女だ。察しいい人は気付いているだろう。俺はリリベルに対してチート使うつもりだ。
婚約者なら必要ないんじゃない?って思った奴。実に浅はかだ!
彼女との関係は言ってしまえば親が決めた婚約者だ。彼女がいやいや結婚した場合、その家庭に愛はないだろう。俺に隠れて愛人を作る可能性まである。そういう事が貴族では稀にある。
結婚する以上、彼女には俺を愛して欲しい。別に愛人なんて作られたら発狂してしまうだろう。だからこそチートを使う。
ジャンケンに勝って彼女を惚れされる。そうすればその先の事を気にする必要はないのだ。
「ジャック様、お味はいかがですか?」
リリベルが入れたお茶をに1口飲むと彼女が感想を聞いてきた。
俺の名はジャック! 伯爵の爵位を持つフォレスト家の長男だ。見事な自己紹介だ。我ながら惚れ惚れする。
こちらを見るリリベルが少し不安そうだ。直ぐに答えた方がいいだろう。
「美味しいよ、ありがとうリリベル」
「良かった…」
「リリベルが入れてくれた、それだけで俺の心が暖まるようだよ」
「ジャック様!」
さて、お茶も飲んだ所でそろそろ本題に持っていきたい所だ。ここで問題となるのが俺が家族以外とジャンケンをしてこなかった事だ。何故急に?と相手は疑問に思うだろう。
その疑問に対する返答もしっかり準備している。抜かりは無い。流石俺だ。
「リリベル1つお願いをしてもいいかな?」
「私にですか?」
少し不安そうだ。
「俺とジャンケンをしてくれないか?」
「ジャック様と!? でも今まで一度もされてないとお聞きしましたが」
「ジャンケンの発案者だから、みんなに期待されていてね。その期待に応えるのが怖くて今まで出来なかったんだ」
「ジャック様…」
「家族とはしてきたけど、そろそろ俺も公でするべきだと思ったんだ。成人すれば嫌でもジャンケンをしないといけない」
自分で言っててアレだがやはりイカれた世界だと思う。大事な決め事をジャンケンに委ねるのは間違っているぜ!
「勇気を出してみたんだ。そして、家族以外の最初の相手はリリベル。君がいいと思ったんだ」
「ジャック様の初めての相手」
何故か頬を染めているが、この様子だとジャンケンを断る事はないだろう。俺の予定通りに進んでいる。怖いくらいだ。
「俺とジャンケンをしてくれるか?」
「はい!私で良ければ!」
ふふふ、この勝負で負ければ自分がどうなるかなんて予想にもしてないだろう。リリベル、君は俺にジャンケンに負けて惚れる事になる。
さて、これでリリベルとジャンケンをする事になった。
思慮の浅い人間は直ぐにでも始めるだろう。だが、ジャンケンは非常に奥が深い遊戯だ。心理戦でもある。ジャンケンは始まる前から駆け引きは行われているのだ。
ジャンケンを意識した時から人は何を出そうかと考える。それが表情や仕草にも現れるのだ。それを如何に読み取って自分優位で進めるか、それによって勝負を分ける。浅はかな者ほどその事を軽視するが、俺は違う!
リリベルの表情を見る。少し高揚しているか?
彼女も表情から俺が出す手を読み取ろうとしているようだ。だが、甘いなリリベル。
俺は家族以外とジャンケンをしていないが、その間無為に過ごしていた訳では無い。表情から俺が出す手がバレないように鍛えた。
この鍛え抜かれたポーカーフェイス。鉄仮面と言っても過言じゃない表情から、俺が繰り出す手が読めるかな?
リリベルと 目を合わせると彼女の視線が泳いだ。俺から目線を逸らす事で考えを読ませないつもりか? 甘いなリリベル。
目は確かに合わなくなったが、表情に出ているぞ!先程と違って顔が赤くなっているな!
それだけでは凡人は分からないだろうが、俺には分かる。ジャンケンのヒロちゃんと呼ばれ、ジャンケンマスターになる事が確約された俺を甘くみたな。
顔が赤い。即ちレッド。赤いものか。ふっ、直ぐにでも思い浮かんださ。
───赤いもの、即ち闘牛!
彼女は顔を赤くする事で俺の興奮を誘い、闘牛士のようにヒラリと俺を躱す気でいる!
我武者羅に突っ込む闘牛は『グー』。それをヒラリと躱そうとしている事から彼女が出そうとしているのは『パー』だ!
ふふふ、俺が家族以外とするのが初めてだと知って油断したな。確かにこの世界では家族以外とした事はないが、前世において俺は小学生の頃無敗を誇った!
「それじゃあ始めようか」
「はい!」
リリベル、君が出そうとしてる手は既に分かった。見つめ合う事でより顔が赤くなったな。そこまでして俺を興奮に誘うつもりか?
甘いな。すでに君の考えは読んでいる。闘牛のように君に突っ込むと思ったかい?
チートを発動する。1日に1回しか使えない能力だが、発動する瞬間がバレる事はない。チートを使ったのは俺以外に分からないようになっている。
リリベル、君はこのジャンケンで負けて俺に惚れる事になる! 勝負は一瞬だ!
「「ジャンケンポン!」」
───『グー』だと!?バカな!?俺はリリベルの考えを読み切った筈! ヒラリと躱そうとするその『パー』を切り裂く為に『チョキ』を選択したというのに。
「あ、私の勝ちですね」
「ふふ、リリベルは強いな。負けてしまったよ」
「ジャック様…」
「もう1回いいかな? 負けたままは悔しいや」
「はい!何度でもお相手します!」
リリベル、君はなかなかに強かなようだな。まさか俺がチョキを出す事まで読んでいたとは。俺の方も油断したようだ。
ジャンケンの世界から随分と離れていたからな。雰囲気を忘れていたようだ。このピリつくようなジャンケンの勝負の雰囲気をな!
チートはもう使えないが、彼女の癖を見ておこう。次にやる時に確実に勝てるように。
「「ジャンケンポン」」
なにぃ!ここで『パー』だと!?
───この物語は神から貰ったチート能力に固執する余り、既に出来上がったハーレムに気付かず
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