何というでもない日々の連続
すみはし
日常なんてこんなもんさ
その日も僕はただいつも通りの日常を過ごしていただけだった。
本来ならここから始まるのは都会とは決して呼べないけれどド田舎とも言い難い、車があればしいて言うなら便利だなというくらいの、観光名所だって何もないから外からも人があまり来ないただの街の日常の話。
まぁ期待しないでほしいのは今から始まるお話は残念ながら、時を超えた男女が入れ替わる話でもなく、両親が豚になってしまって湯屋で働く話でもなく、小さな巨人を目指してバレー部で頑張るような話でもないのでラブもロマンスもファンタジーも情熱にも期待しないでほしい。
毎日登校するたびにご丁寧に机に書かれたよくある暴言や淫語、汚らしい落書きを消すところから始まる少年の話だってところかな。
この分かり切った落書きの犯人たちには可哀想なことに頭脳明晰な人はいないから、この行為が始まってから一週間もすれば語彙が尽きて、机に書かれるのは同じ言葉の繰り返しになっているのは、気分のいいものではないにしろ最早残念にさえ思う。
一部からくすくすと笑い声が聞こえる中、僕はただ黙々と慣れた手つきで雑巾で机をこする。
笑っているのが主犯達、それ以外のクラスメイト達は繰り返されるこの行為が当たり前になっているため見向きもしないし、もう僕のほうを見ることも話題にすることもない。
朝のルーチンワークをこなしたころに先生が見て見ぬふりをしながらいつもどおり朝礼が始まる。
休み時間ごとに僕は寝たふりをして何とか友達の一人もいない現実から逃れようとするのだけど、その平穏すらかなわずに毎度毎度いじめっ子達に呼び出されパシられたり殴られたり蹴られたり、本来僕たちの年齢では禁止されているはずの煙草を押し付けられたりと、わかりやすいいじめ行為を受けている。
おかげで僕の腹部や脚は青タンだらけだし、毎日繰り返されてしまうためいつまでたっても治らないので水泳の授業は持病のせいにして休んでいる。
もしこれがループものだったら、毎日繰り返されるこの暴行も重ねて傷になることもなく、傷跡がどんどん醜く変色していくこともないのだろう。わかっていれば鉄板でも仕込んでいつかは仕返ししてやりたいくらいだけど、今やってもさらにひどい仕打ちが待っているだけだろうからやめておく。
あぁ、そういえばぼくの地方では殴られたり蹴られたり、普通の人ならぶつけてできたアザのことを青タンと呼ぶのだけど、一般的には青あざといえばいいのだろうか、など少しどうでもいいことを考えてできたケガから目をそらす。
問題になる可能性があるから保健室にはいかないよう念を押されているため今では湿布、傷薬、絆創膏は常備し自分である程度手当てができるようになってしまった。背中だけは手も届かないのでどうしようもないのが欠点だけど。
もし女の子が怪我をしていたならいつでも傷の手当てをしてあげられるので、そういったシチュエーションからラブコメが始まらないかと夢に見ながら寝る前は翌日が来ることが怖くて泣いていることは内緒である。
煙草を食べさせられたときは、『あぁ、なんだか最近流行りのチェンソー男が戦うアニメみたいだな』と思ったけれど、主人公のように100円をもらえるわけでも、食べたふりでごまかせたわけでもなく、ただただ苦くて不味い塊を舌と唾液で火を消しながら必死で噛みほぐし飲み込んだのはたぶん忘れないと思うし、舌を火傷して暫く給食を食べるのも苦労したことも忘れないと思う。
その後きっちり飲み込んだことを確認され、某お笑い芸人のフリのように「吐くなよ」と念を押されながら腹部を何度も蹴り上げられたので、こみ上げる吐き気を我慢しながらもどこかでこれはもしや吐くべきなのかとさえ考えてしまって、ちょっと笑いそうになってしまったし、その笑いのせいで余計負担がかかり吐き気がひどくなってしまったので耐えるのに苦労した。
あとはこの思い出に一つ追記するとしたら近い将来肺だのなんだのわからないけれど、どこか内蔵を悪くしたらこのせいだろうなとぼんやり考えていたりもした。
何というでもない日々の連続 すみはし @sumikko0020
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます