毒を喰らわば白衣まで

@m_shoushou0808

第1話

「こんなに待たせるなら、一旦電話切ってからかけ直ししてくださいよ!」


PHSの向こう側の人物はそう言い放った。

日常の生活でこんな風に罵倒・一方的に怒りを込めて怒鳴りちらされることは普通はないような。とぼんやり思いつつも、相手の反応に内心腹の上あたりジリジリしながらも、声のトーンを抑えつつ


「大変お待たせして、すみませんでした。気が回らず、お忙しいなかお待たせして申し訳ございませんでした」


わざと慇懃にしてみたが、電話の向こう側の人物は、まだ、どこにそんなエネルギーがあるのかという勢いで、また同じフレーズを喚きちらす。

何度同じセリフを言えば、気が済むのか、全く同じボルテージ・セリフを繰り返す。

麻里子はこの時やっと気づいた。

ああ、いつものやつだ。

仕事のストレスの八つ当たり。


たいてい、八つ当たり場所に困っているとき、うっぷんを晴らしたい時、この集団は、我々を標的にすることがよくある。


白衣の大天使様。


看護師というだけで、病院組織の中では独立した巨大勢力、彼らは、どんなに理不尽な行いをしても誰からも文句を言われない。それは、病院長でさえ暗黙のルールとして、口出しできないのだ。何故ならば、看護師という一大組織は、それだけ絶大な権力を手にしているからだ。


麻里子は、思った。

テレビドラマや、小説、映画、アニメ、漫画、あらゆるジャンルにおいて、医療ものでは医師、看護師のヒーロー・ヒロインが輝いている。患者を救うことに崇高な使命をもって働いている。しかし、実際はどうだろうか?

看護師もしかり、医師もしかり。


そうだ、そうだ。

少なくとも、私がいつも仕事場で感じていること、知ったことを誰かに知ってほしい。そして、参考にしてほしい。病院という箱ものの中のモンスターたちがいかに自分びいき、身内びいき、独りよがり、井の中の蛙状態であるのか。

自分にとって利益がないとみればどこまでも相手を下に見る、酷い態度と口調、蔑みと小ばかにした表情を平気でする人たちの集団が病院の中の医療従事者だと、麻里子は、大学卒業後、17年病院組織で働いているが常々感じていたことだ。

病院で働いていようと元は人間、いや、今も人間。されど、一般社会人としての常識を持ちえない医療従事者がなんと多いことか、一般企業ならとっくに倒産、されど、医療機関は、そう簡単に倒産しない。

自分の仕事になんの希望も見えてこなかった麻里子だが、今日から、日記を書くことにしよう。


そう、タイトルは・・・『毒を喰らわば白衣まで』。

病院の中の些細な出来事を文章に起こしたらどうだろう。


ああ、これで少しは明日の仕事も行けそうな気がする。

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