カクヨミ短歌俳句コンテスト参加作品 短歌20首連作の部

菜の花のおしたし

第1話 看護師が読んだ短歌

癌患者

桜がみたい

ぽつり言う

冬の公園 

車椅子でゆく

(がんかんじゃ さくらがみたい ぽつりいう ふゆのこうえんくるまいすでゆく)


腹水で

膨らんだ腹

水を抜いてと

すがりつく手

苦痛伝播する

(ふくすいで ふくらんだはら みずをぬいてと すがりつくて くつうでんぱする)


若き母

慟哭響く

小児科の

吾子逝きたりを

知り項垂れる

(わかきはは どうこくひびく しょうにかの

あこいきたりを しりうなだれる)


同僚の

浮腫んだ足

見る度に

産休まで

無事を願いて

(どうりょうの むくんだあし みるたびに

さんきゅうまで ふじをねがいて)


三谷さん

亡くなったんだ

悔しくて

純45度を

ビンごと煽る

(みたにさん なくなったんだ くやしくて

じゅん45どを びんごとあおる)


無礼講

ちゃんぽん酒

くぅきくわ

トイレ満員

丼に吐く

(ぶれいこう ちゃんぽんざけ くぅきくわ

といれまんいん どんぶりにはく)


眠たさに

コーヒータバコ

ワンセット

朝の四時半

ひとときのホッ

(ねむたさに こーひーたばこ わんせっと

あさのよじはん ひとときのほっ)


コール鳴る

訪室すれば

あぁやばい

息止まるわね

身震いひとつ

(こーるなる ほうしつすれば あぁやばい

いきとまるわね みぶるいひとつ)


モルヒネの

アンプル捨てた

新人よ

やっぱりやったか

総出でさがす

(もるひねの あんぷるすてた しんじんよ

やっぱりやったか そうででさがす)


一秒

生きてた人が

死んでいる

この人だれ?

わからなくなる

(いちびょう いきてたひとが しんでいる このひとだれ? わからなくなる)


十一

みそか夜は

消灯時間

遅くなり

紅白流れ

こんなんもええ

(みそかよは しょうとうじかん おそくなり

こうはくながれ こんなんもええ)


十二

弔いを

済ませた医師に

塩をふる

振り切らないと

戻れない気持ち

(とむらいを すませたいしに しおをふる

ふりきらなきと もどれないきもち)


十三

新人が

採血失敗

交代す

どんだけ刺したの

刺せるトコ無い

(しんじんが さいけつしっぱい こうたいす

どんだけさしたの させるとこない)


十四

清拭で

背中の刺青

見つけたり

しわくちゃ過ぎ

絵柄わからん

(せいしきで せなかのいれずみ みつけたり 

しわくちゃすぎ えがらわからん)


十五

録音

された肺の音

ひたすらに

脳に焼き付けた

私の時代

(ろくおん されたはいのおと ひたすらに

のうにやきつけた わたしのじだい)


十六

日勤と

深夜入りの間

二時間を

家に帰らず

シャワー浴びる

(にっきんと しんやいりのま にじかんを

いえにかえらず シャワーあびる)


十七

酔い潰れ

夜空の月

私達

何ができたの

泣きながら問う

(よいつぶれ よぞらのつき わたしたち

なにができたの なきながらとう)


十八

偶然に

退院された

人出逢う

元気そうです

皆に報告

(ぐうぜんに たいいんされた ひとであう

げんきそうです みなにほうこく)


十九

研修医

生意気過ぎる

仕返しだ

時間外指示

受けられません

けんしゅうい なまいきすぎる しかえしだ

じかんがいしじ うけられません)


二十

妄想だよ

白衣の天使

プライド

エベレスト並み

男気ばっちり

(もつそうだよ はくいのてんし ぷらいど

えべれすとなみ おとこぎばっちり)












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カクヨミ短歌俳句コンテスト参加作品 短歌20首連作の部 菜の花のおしたし @kumi4920

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