肆 鈴の刻印 その二

その日投稿したシマダさんは、あちこち怪我を負っているようでした。

腕や足に包帯を巻いて、顔にも痣が付いていました。


その頃になるとクラスの皆は、彼女に殆ど関心を持たなくなっていたのですが、僕はあの事故の時に見た彼女の顔が何となく気になっていたので、それとなく観察していたのです。

そんな僕の様子に、クラスの女子の一人が気づいていたようです。


「コヤマ君。シマダさんのこと、気にしてるの?」

授業の合間の休憩時間に、急にその子が話し掛けてきたので、僕は少しドギマギしてしまいました。


「あの怪我気になるんでしょ?昨日私見たんだよね」

その子は思わせぶりに言った後、前日偶々目撃したことを話してくれました。


その日の前日、階段から転落して亡くなった生徒の仲間四人が、シマダさんを校舎裏に呼び出したらしいのです。

それをその子が、二階から見ていたようなのです。


その連中はうちの学校のヤンチャグループで、転落死した生徒もそのグループのメンバーでした。

その連中は、仲間が転落死したのは、シマダさんのせいだと、因縁を付けていたそうです。


まったくの言いがかりでした。

でもそいつらは、シマダさんが呪いを掛けたの何だのと、一方的に主張して、彼女を殴ったり突き飛ばしたりしたそうです。


でもシマダさんは一切抵抗せず、されるがままになっていたらしいのです。

見かねたその子が、先生を呼ぼうとした時、丁度先生たちが駆けつけてきて、シマダさんを助けたそうです。


他に現場を目撃した子がいて、先生に通報したんですね。

結局ヤンチャグループの連中は、職員室に連れて行かれ、シマダさんは医務室で手当てを受けたらしいです。


事件の経緯を話してくれた子は、最後に一つ、気になることを僕に告げました。

シマダさんが暴行を受けている間中、リンリンと鈴の音が鳴っていたというのです。


それを聞いて僕はハッとしました。

あの日僕が聞いた鈴の音も、幻聴じゃなかったんだと思ったからです。


そしてまた、事件が起こりました。

悲惨な事件でした。


うちのヤンチャグループ四人が、他校の不良グループからリンチを受け、殺されてしまったのです。

ほんの三年前の事件なので、皆さんも覚えているでしょう?

あの事件のことです。


うちの学校の四人は、以前からその連中と揉めていて、ずって目を付けられていたらしいのです。

そしてあの事件の時に、十数人から殴る蹴るの暴行を受け、全員殺されてしまいました。


中学生の子供だから、余計に加減が分からなかったのでしょうね。

四人の死体は、それは惨たらしいものだったそうです。

リーダー各の一人の生徒は、原形を留めない程、顔を潰されていたらしいです。


僕の学校は、それはもう騒然としました。

毎日マスコミの人が大勢押しかけてきて、登下校する生徒を捕まえては、事情を聞こうと躍起になっていました。

僕も何度か呼び止められましたけど、それはしつこかったですよ。


学校からは、絶対何も話すなと言われていたので、僕も他の生徒もいつもマスコミの人から逃げるようにしていました。

毎日本当に嫌でした。


その騒ぎが漸く収まり、一学期が終わろうとしていた頃でした。

学校の中で、妙な噂が流れ始めたんです。

その噂は、シマダさんに関するものでした。


階段から転落死した生徒も、リンチを受けて死亡した生徒たちも、みんな彼女の呪いを受けたんだと言うんです。

根拠はというと、死ぬ直前にシマダさんに酷いことをしたから、彼女の恨みを買い、呪い殺されたということでした。


冷静に考えると、そんなことはあり得ないのですが、中学生の子供のことです。

しかしその噂は、あっという間に学校中に広まりました。

そしてシマダさんは、以前にも増して孤立して行ったのです。


それでも彼女は、以前と変わらず教室の隅でポツンと一人座って、日々を過ごしていました。

そんな状況の中でも、学校を休むこともなかったのです。


そんなある日のことでした。

その日はクラブの練習もなかったので、下校準備をしていた僕は、シマダさんに声を掛けられたのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る