第2話 空き巣・ジャンケン

改めて見渡せば、なんとも質素な家だった。

娯楽に関する用品は何もない。壁にはシミ一つない。生活感を感じない...


「散歩でもする?」


フリルは無理やり俺の手を掴むと、外へと引っ張り出した。

ブワッ、と薫ってくるのは...肉か何かを焼いたモノか。

それに、やけに騒々しい。


「...商業区?」


「そう!住むならここが便利でしょ~」


ふと、ジャラジャラと音を立てる自分の服が気になった。

豪華な装飾が幾つか施されていて、あまりにも目立ちそう。


「服買ってくれない?」


「あとで請求するからね!」


「お皿、洗うんで...」


しょうがないなあと言って、巨大な通りをズンズン進んでいく。

魚、野菜、謎の豆、野菜、謎の豆、謎の豆...なんなのあの豆は。

肥大化した枝豆みたいな...


「なあ店の前にいっぱい干してある、あの豆は何なの?」


「あれは"大きめの豆"だよ」


「...」


更に歩き続けると、ようやく衣類の並ぶ店が目立ってきた。

早く着替えたい。明らかに通行人の訝しむ視線を感じる。

と、フリルが立ち止まった。

このお店かな?


「ここにしよっか」


「オススメなの?」


「無難!!」


非常に有難い。


________________________________


「ふぃ~~、買った買った...」


店の奥から出てきたフリルは、両手に紙袋を携えていた。

多くない?


「俺も選びたかった」


「君は優柔不断そうだからな~、私がまとめて買っちゃったほうが早いって!」


一理あるかもしれない。もしこの服を着たら人の目にどう映るだろうかとか、いちいち考えるだろうな、俺は。


「...というか」


「ん?」


「暫くあの家に泊めてくれるってこと?こんなに衣類準備してもらって...」


「そのつもりだけど...」


女神なのかも。

彼女のジャージが、数段増しで光輝いて見えた。

ありがとうございます。俺は深くお辞儀をした。


「...着替えたい」


「あ、そうだったね、おうち戻ろっか」


目についた野菜等、随時説明してもらいながら家へと戻った。

表札はない。庭もない。


「...あれ」


「鍵、開いてる...」


フリルは怪訝な顔をしていた。どうやら不審な事態に遭遇したらしい。


「空き巣?」


「...わからない、ちょっと待ってて」


と、制止する間もなく、彼女は家の中へと入っていった。

すぐさま、女の子の悲鳴が聞こえる。

迷わず声のする方へ駆け込んだ。

廊下の突き当り、左を向いてリビング...


野球帽を目深に被った女が、フリルの首元にナイフを突きつけていた。

俺を見つけるなり、そいつは言う。


「動くな!!!!解放してほしければ...」


「"ジャンケン"だ」


...は???



「ただしお前が出す手はこちらが指定する、指定された通りにやらなかったらこの女は死ぬ。」


「4回勝負だ。ただお前は従ってろ」


まったく意味が分からない。

出す手を指定されるジャンケン?そんなの負けるに決まって...


「第一手目、お前は"チョキ"を出せ。じゃーんけーん...」


考える間もなく開戦する。ここは一旦従わないと...


「ポン」


「...ポン」



お互いに"チョキ"だった。



「え?」


「ふう...次は"グー"だ。ミスるなよ。じゃーんけーん...」


あいこ狙い?何のために?...そもそもこのジャンケン、どうなったら勝ちなんだ?

ルール説明は一つだけ..."従う"ことだけ...

時間がない。


「ポン」


「ポン」


お互いに"グー"。


野球帽女は何故か汗をかいていた。ナイフを突きつけられているフリルは、これまた何故か彼女を励ましていた。


「頑張って!!落ち着いて!!!」


..."混沌"とはこういう状況を説明するためにある言葉だろうな。


「次は何を出せばいい?」


もう俺から聞いちゃおう。


「"チョキ"で...」


「はい、じゃーんけーん...」


「ポン」


「ポン」


お互いに"チョキ"。

紛れもないあいこだ。


...と、何か不穏な視線を感じ、自分の手から2人の女性へと、ゆっくり目を移した。

ゾッとしてしまった。

ジーーーーーーーーーッとこちらを見ていたのだ。

一つの所作も見逃すまいといった凝視...体の動きが完全に止まっていて、眼球だけが止めどなく働いている。


―――その口が、2つ、ゆっくりと開く。


「「...どう?」」


どう??????????????????


「どうって...急に始まったジャンケンに訳のわからないルール...おまけにこんなに見つめられて...意味がわか、、、らない」


あ、またこれだ。

世界が一瞬止まったかのような...不思議な違和感。


「フリル、前と同じだよ。一瞬...変な...」


「...ロイナ、大丈夫だと思う」


ロイナ?


「そう...オッケー」


何か仕組まれてる?


「じゃあ最終戦と行こうか」


従ってていいのか?これ。


「"チョキ"を出しなよ、それで終わり」


"終わり"...



じゃーんけーん...












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

みんな命懸けで俺のことを守ってくれるんだが!? @seinen_gappi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ