みんな命懸けで俺のことを守ってくれるんだが!?

@seinen_gappi

第1話 奪還・スープ

満足満足...

あ~...最高な毎日だったなあ...

来世でもまた...こういう...幸せを...


________________________________


気が付くと俺は、ボソボソと何かを唱え続ける集団の中にいた。

聞き取れない。自分が発音したことのない言葉だろう。

起き上がることは難しく、首と目だけを動かして周囲の様子を窺う。

例の集団は白い装束に黒いアイマスクと不気味な格好をしていて、部屋の照明はロウソクがポツポツと置いてある程度。

自分は中心に横たわっていて...似たような服装をさせられているな。

ちょっと装飾が豪華になってるけど。


...ところで、俺は誰だっけ?


「あ、あの」

 

どうやら口も動くらしい。

ひとまず状況の確認がとりたくて、一番近い位置の白装束さんに話しかけてみた。


「...!!!!!!!!!」


瞬間、この大きな部屋が、音で揺れた。

俺が声を発したことが相当に嬉しかったようで、各々が歓喜に溢れた叫び声をあげていた。泣いてる人さえいた。


「えぇっと...」


お、手足もそろそろ動きそうだ。

ゆっくりと起き上がり、この混乱を収めるべく、一つアクションを起こしてみた。

パン、と手をたたく。なるべく、音が出るように。


「静粛に!!!!!」


俺という存在が何なのかまだ分からないが、恐らくこんなセリフは吐いたことないだろうな。

出来るだけイケメンボイスになるよう心掛けた。


シン――――と、音が止んだ。

え?こんな上手くいく?


「...あの~」


やけにピリついた雰囲気の中、目の前にいた人に言葉を投げてみる。


「僕って誰で、ここって、どこです?」


あれ、そういえば言葉通じるのかな。

"静粛に!!!"は雰囲気で伝わったと思うんだけど...


「...あなたは、器ですよ」


どうやら会話できるみたい。女の人だ。


「...ウツワ?」


「ええ、私たちが待ちわびた器...あなたは...グェ」


その後は聞けなかった。

急に、押し倒されたかのように、床に突っ伏したのだ。



「奪還!!!!!」


そして、ジャージ姿の女の子が飛びだしてきて、俺を抱えた。

訳が分からない。


「ンギュ」


あ、また誰か倒れた。


「重い!!!やっぱりおんぶさせて!!!!」


...もういいや。あとは全部流れに身を任せよう。

一度降りて、渋々背中に乗っかる。なんか男として情けないや。


「脱出!!!!!」


ドミノ倒しのように崩れていく白装束さんたちを尻目に、俺は運ばれていく。

眠い。寝よ。展開早すぎ。



________________________________


「...ん」


「あ、起きた?」


ジャージ姿の女の子が、鍋をかき回しながらこちらを一瞥した。


「いい匂いがしたんで...」


ミネストローネのような、洋風スープの薫りが漂っていた。

味の察しも付く。まず間違いなく美味しい。


「私、スープ作りが得意でさ」


「いただいても?」


「...」


ピタっと、彼女の動きが止まった。

あれ...こういうのって断られることあるのか。


「あ、ダメ?」


「...いや、ごめん、全然いいよ!どうぞどうぞ!」


????


「本当に大丈夫?」


「食べて食べて!!!全然!!!超美味しいからさ!!今回のは自信作なの!新鮮な野菜ばっか使ってさ!!調味料だってこだわってるんだよ!!!一般的なレシピとは一味も二味も違うね!!火の加減すら気を付けたんだよ!!絶対に美味しいから!!!」


急に早口でまくし立ててきた。


「わかった、わかった...」


もしや"毒殺"でも企んでいて、一瞬、今から殺す相手の顔を見たことで躊躇でもしたんじゃないかと推察してしまったが、それはないだろうな。

あの怪しい集団の中からわざわざ助け出してきたんだし。


いいか、細かいことは..お腹空いた...


「いただきます!」


まずはスープを一口。うん、優しいお味...

大きめに刻まれた野菜と一緒に食べると、野菜本来の旨さが目立って中々いい塩梅だった。


「凄く美味しい。でもさ、食べてる間ずっと見つめてくるのやめない?」


そう、彼女は俺の咀嚼中、ジーーーーーーーーーーッと視線を浴びせてきていた。

食べにくいにも程がある。


「ど、どう?」


「いやだから...美味しいよ、とても」


「...」


...感想が足りない?


「まず口に入れるとさ、仄かな酸味が広がるんだよ。そこへ後を追うように甘みが繋がってきて...極めつけは細かすぎない野菜だね。新鮮なものを使ってるって言ってたけど、それを感じられた。あ、、とは...ん?」


「どうしたの?」


「なんか...一瞬...ごめん、気のせいか。とにかく美味しかったよ!」


言葉に詰まったわけではない。"あとは"と発する時に、何か違和感を覚えたのだ。



「...なるほど」


「え?」


「次回はもうちょっと濃い味付けにしようかな!」


「ああ、そういう...」

 

...何やら煮え切らないが。


「あ」


と、俺はここで重要なことを思い出した。


「名前、聞いてもいい?」


こんな大切なことはない。

人付き合いはまず、名前を覚えてから...


「私はね~~、」


えっへんと胸を張って、黒髪ロングが俺の前に立ちはだかった。


「フリル!」



...ジャージで?
































  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る