第29話 魂は迷い、葬ること能わず

迷葬魂セラフ・ゴーストじゃ。強くはないが厄介じゃぞ」



 襲い掛かってくる迷葬魂セラフ・ゴーストの一撃をアリサは後退しながら避ける。突如として現れた敵に対し、アリサは迷いなく俺の鞘に触れる。



「……いや」


 が、抜かずに鎖に巻かれている魔剣を構えた。


「おいアリサ、なんで俺を使わない!」

「聖剣さん、これは彼らのためなんです」

「彼ら? もしかしてこのゴーストたちのことを言ってるのか?」

「はい、そうです」



 飛んできた一匹の迷葬魂セラフ・ゴーストに向かってブオンと魔剣を振り回す。物理無効のゴーストにはほとんど空を斬っているようなものだが、その迷葬魂セラフ・ゴーストはひどく苦しみだす。


 クラムの腕の中にいるステラシアは愉快そうに笑う。



「かか、面白いことをするのう」

「どういうことだ、何をしたアリサ」

「魔剣の穢れに触れさせたんです。クラムさんは彼らが何故人を襲うのか知っていますか?」

「……魔物だからじゃないのか」


「違います。ゴーストは魔物が発生する以前から此世界にもいました。彼らは地に囚われた魂を核にして魔力で体を構成しています」



 苦しむ迷葬魂セラフ・ゴーストにさらに追撃で二撃魔剣を振るうアリサ。迷葬魂セラフ・ゴーストはより強い苦しみで、声にならない叫びをあげている。



「魂は聖職者の祈りによってこの世界から旅立ちます。ですが、正しい祈りを受けられない魂はその地に囚われ続けます。そんな彼らが望むのは、自らの消滅です。そして、魂を消滅させる方法は一つ、魂に穢れを貯めこませることです」


「穢れを貯めて消えたいから人を襲うってことか」

「そのとおりです」

「……お前はシスターなんだから、祈りで昇天させられるんじゃないのか」


「若輩である私の祈りで昇天するかはわかりませんが、強い聖属性を備えた聖剣を振るえば彼らを祓えるでしょう」



 アリサの言う通り、俺はゴースト系に対し特別強く出られる。それはシスターであるアリサも承知しているはずだ。そもそも、それを知らずとも鎖巻きの魔剣なんか使うべきではないが。



「なら、なんでだ」

「何故でしょうか、彼らの誰一人として昇天を望まずに消滅を欲しているのですよ。だから魔剣を振ってみたのですが」

「かか! ほとんど当たりじゃ」


 アリサの話を聞いてことさら大きく笑うステラシア。


「じゃが、少しだけ違っとる。こやつらは消滅を欲しておるんじゃない、苦しみを欲しておるんじゃ。まあ見とれ」



 ステラシアの目は苦しみ悶える迷葬魂セラフ・ゴーストを見ている。そのゴーストはアリサの攻撃によって穢れが貯めこまれている。が、いつまでたっても消滅しない。



「……消えないですね」

「そうじゃ、こやつらは穢れを貯めて消えることもなく、祈りによって昇天することもない」

「なんだそれは、不滅じゃないか。どう対応しろと」

「言うたじゃろう、強くはないが厄介じゃと」

「……こんなのがいるのなら先に言ってくれないですかね、ステラシア様」


「かかか! 一匹二匹来るとは思うとったが、迷葬魂セラフ・ゴーストがここまで集まるとは思うとらんかったわ! 全然想定外じゃ!」

「そうすか……」


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