第26話 村と酒場
「トウレンの森の近くには小さいが村がある。まずはそちらに寄るとしようぞ」
というステラシアの一言でその村によることになったアリサたち。村に着くころには日が傾いて空は真っ赤に染まっていた。
村は特段寂れているわけではなく、ごく平均的な農村の様相を呈しているが、トロイアの街を目にしているからどうしても比べてしまう。
「ここもトロイアの領地内なんですか?」
「まあそうであるな。我がトロイアの庇護下にある村だ。かかか! 堪能するとよいぞ!」
「おい、もうそろそろ人目に付く。布で包むぞ」
「クラムはつれんのぉ……」
ステラシアはぼやぼや言いながらクラムに包まれていく。アリサはそんな二人を横目に近くにいた村の人に声をかける。その人は見た目は恰幅の良い女の人で、アリサに気づいて作業をしていた手を止め立ち上がる。
「すみません、旅の者なのですが少しよろしいですか?」
「あら、あんたたち旅人かい? シスターさんってことは、巡礼の旅でそっちの人は護衛ってとこかい」
「その通りです、よくお気づきで。それでこのあたりで一夜を明かしたいのですが、宿場などはありますでしょうか」
流れるように嘘を吐いたなこいつ。まあこの手の嘘も旅の方便か。
村の女はロクに手入れもしていない髪をかきむしり、村の家が集まっている方を見る。
「そうさなぁ、この村に宿なんて大層なものはないけど、一個だけある酒場に行きゃあ部屋くらいは貸してくれるさ」
「なるほど、ありがとうございます。その酒場はどちらに?」
「ちょうどいい、私も行くところだったんだ。ついてきな」
そう言って村の女はざっざっと前を歩いていく。
「クラムさん、行きますよ」
「わかってるよ。……よいしょ」
「うお、もう少し丁寧に扱わんか。にしても酒場か、どんな酒が出るか楽しみじゃの」
「あんた飲み食いはできるんだな……」
酒場は村の中央にあった。一見すると他のとこより少し大きい程度の家屋だが、明らかに村の人たちが集まって大賑わいだ。
村の女は騒ぐ連中にも負けない大声で酒場の店主に向かって叫ぶ。
「おーいマスター、旅の人が一泊したいってよ!」
「おー、バネッサか! いいとこに来たな、今肉が焼けたとこだ! 後ろのやつも入れ入れ!」
「いいねえ! ほら、あんたたちも遠慮しないで!」
扉を開けた向こうからは香辛料の効いたいい匂いが漂ってくる。バネッサと呼ばれた村の女はずかずかと入っていき、笑顔でアリサたちを中に招いている。
アリサたちが酒場に入ろうとすると、布にくるまれたステラシアがバネッサに聞こえない声で二人を呼び止める。
「待てぬしら、入る前に話がある」
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