第25話 本物を探しに
「どうじゃ? 関所は突破したかの?」
「したんですがまだ周りに人いるんで静かにしてもらえませんかね……」
のんきな赤ん坊のようにきゃいきゃい騒ぐ斬首姫をクラムは抱え、クラムとアリサは無事にトロイアを出国する。のんびりと荷車を運ぶ旅人を横目に、二人は早歩きで次々と抜かしていく。ひとまず人気のない地点まで行こうということだ。
「というか、本当にいいんですか? 一国の主ですよねあんた。こんな簡単に国を離れて大丈夫なんですか」
「そうわしを警戒するなクラム! 治政はわしがおらんでもなんとかなる! 逆にクーデターの一つでもあった方が面白かろう!」
「全然面白くないですよ……。そもそもなんで俺たちを信用したんですか。このままステラシア様をどこかへ連れ去るかもしれませんよ」
「かかか! それもよいな!」
「よいなではなくて……」
「聖剣に気づいたから、ですか?」
クラムとステラシアの話に口をはさむアリサ。え、俺?
アリサの言葉に、ステラシアは先ほどとは打って変わって大人しくなる。どうやら当たりのようだ。
「……かか、アリサはよう見とる」
「聖剣を見たことがあったんですか?」
「ない。が、聖剣が抜かれたことなどとうに魔世界に知れ渡っておる。そんな中、神官長からとんでもない神聖を帯びた剣を携えた者がやってきたと聞けば、誰だって聖剣だとわかるわ」
「なるほど、それで私たちを呼んだんですね」
「うむ。そんなやつらが魔剣を解呪しろなどと喚いておれば、一目見たくなるのが王の性というものじゃ」
まあ確かに言われてみるとそうか。とんでもないやつが隠れもせずにやってきたからな。会えるなら会っとくべきだ。
だが、ステラシアの説明を聞いてクラムはのどに引っかかるようにうーんと唸り声をあげている。
「まだ納得できんか? 昨日も言ったろう、ぬしら此世界の者が一枚岩ではないよう、魔世界もまた同様じゃ。聖剣の保持者は最も忠実な魔王の敵対者……つまり、敵の敵は味方じゃ」
「……だとして、ステラシア様は俺たちに何をさせたいんだよ」
「ぬしらにはわしの体を探してほしい」
え、体?
「はあ? 玉座に座ってなかったか?」
「ありゃ偽物じゃ。わしの魔力で動く人形じゃ。よくできておろう?」
「はい、とても」
「……」
「わしの本当の体は色々あって奪われて……まあ早い話、魔王直下のものどもに奪われたってわけじゃな! かかか!」
「かかかじゃないですよ……」
なんかとんでもないこと話してないかこの王妃。普通に国家機密に値する情報だろ。
「それでそいつらに返せと言っても、そいつらはあくまで賊の仕業だと主張しおっての。実際手元には置いておらんだろうし、無理に追及したら被害を被るのはトロイアじゃ」
「はぁ……」
「しかしの、最近になって東にあるトウレンの森にその賊とやらが潜伏しておることを突き止めたんじゃ」
「なら、国力を上げて攻め入ればいいじゃないですか」
「そうはできん。あまりにわしに都合の良い情報すぎるのじゃ。下手にトウレンの森に戦力を割けば残った本国が何をされるかわかったものではない」
「なるほど、敵の罠だと判断したんですね」
「その通りじゃ。じゃが、体を取り戻したいのも事実。故に、敵国に気づかれぬよう隠密で行動でき、かつ少数で戦力のある駒が欲しかったんじゃが……トロイアとつながりが薄く、聖剣所持という戦力も申し分ないぬしらはわしらにとっても渡りに船じゃったというわけじゃ」
少数で戦力を求めるとなると、トロイア国内でも数が限られてくるだろう。だから、そこが動けば敵に感づかれやすい。だが、俺たちは外部の者だ。アリサもクラムも何かに所属しているわけではないから、ステラシアが言う敵にとっても同行が掴みずらい存在だ。
ステラシアが俺たちを信じる理由も多少は納得できる。信じねばならないほどに切羽詰まっている、ともいえるがな。
「というわけで改めて頼もう。ぬしらにはトウレンの森にあるであろうわしの本当の体を取り戻してほしいのじゃ」
「ステラシア王妃、一つ確認なのですが、依頼達成の暁には魔剣の解呪は手配していただけるということで間違いないのですね?」
アリサはクラムの抱えるステラシアの首に向かって、真っすぐに視線を向ける。
まあ、こいつにはそれが一番重要だよな。
「ああ、約束しよう。もちろん、他に欲しい物があるのなら手配しようぞ」
「いえ、解呪だけで十分です」
「そうか。クラムはどうする?」
「……俺はいいよ」
「かか! 無欲なやつらじゃの!」
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