第20話 「力が欲しいか……」

 『牙天がてん太刀たち』でグレッグを斬りつけると、アリサは俺を鞘に納める。

 そして、無傷のままグレッグの前に立つ。


 斬られたグレッグにも刀傷は無い。だが、グレッグは動きを止め、口から汚い呼気音と共に吐血する。その顔には、苦悶と困惑の表情を浮かべていた。



「馬鹿、な……! 何故……!」


「力の流れを見るに『不正反射ターニングポイント』は全身に纏うタイプのスキルだと判断しました。ですので、あなたの内側だけ切った」



 第四のスキル、『牙天がてん太刀たち』は”斬らないこと”に特化した斬撃スキルだ。これでアリサはグレッグの表面を斬らず、内側にのみ刃を通した。『牙天がてん太刀たち』はその性質上居合でのみ発動可能故に、鞘が無いと習得できない。


 危なかった……、腕が吹き飛んだときはかなりビビったぜ。先に鞘を取りに行かせておいて本当に良かった。



「なんてもん、連れてきやがったんだ、クラムの野郎……」



 そう言ってグレッグは力なく倒れる。周囲を回っていた炎も消え、洞窟内の温度が下がっていく。



「アリサ! 大丈夫か!」

「クラムさん……腕ありますか」

「あ、ああ」

「ありがとうございます」



 アリサはクラムが拾ってきた左腕を肩に付け、回復魔術をかける。みちみちと肉がくっつく音がすると、元通りの腕が戻る。



「いたた……さて、魔剣を探しますか!」

「待て待てアリサ! 怪我したばっかだぞ、回復魔術は体力を消耗する。少しは休もうぜ」

「いえ、私は大丈夫ですクラムさん。さあ、蔵まで案内してください! 早く早く!」



 実際左腕が飛んだ時にアリサはかなりの量出血している。だというのになんだこの元気さは。腕飛んだ人間はもっとしおらしくあるべきだぞ。


 まあでもこいつがこうなる理由も理解できてしまう。アリサなら魔剣があると聞いて動かずにはいられないだろうしな。



 クラムは渋々アリサを案内し、略奪品が多く保管されている蔵に向かう。



 蔵は暗闇に覆われており、クラムが明かりをつけるとその全体像を映し出す。槍、剣、盾、鎧……誰かが身に着けていたであろう物たちから奪った直後の姿のまま、床を埋め尽くすように置いてある。


 ある種の壮観さと、吐き気を伴う嫌悪感を感じる。アリサはただ黙ってそれを眺めていた。



「ここだ。奪った物のほとんどがこの蔵に保管されている。……いや、捨てられていると言った方がいいな」

「……そうですか」

「魔剣だが、俺は見たことが無いな。グレッグが持っているところも見かけていない。ここに置いていたら誰かに盗られるだろうし、違う場所にあるんじゃないか?」


「いえ、魔剣はここにあります」



 そう言うとアリサは引き寄せられるように壁の方へ歩く。そして、壁の前に立つと、その壁にそっと手を触れる。



「うん、ここだ」



 アリサは俺を引き抜き、壁を斬りつける。切断された壁は崩れていき、その向こうにあるもう一つの空間が露わになる。



 空間には、鎖で雁字搦めにされた剣が禍々しい雰囲気を醸しながら地面に転がっていた。



 ……こいつの剣に対する嗅覚は異常だな。



「嘘だろ、こんな場所が……って、おいアリサ! 不用意に近づくな!」



 驚いているクラムを横に、アリサは真っすぐにその剣へと近づく。クラムの制止虚しくアリサはその剣を持ち上げる。すると、ジャラッと鳴る鎖の音と共に低く荘厳な声がその空間に響き渡る。



「力が欲しいか……」



 声は確かに剣の方から聞こえた。


 剣が……喋っただと!?



「な、なんだこの声は……! まさか、魔剣の声なのか?!」

「力が欲しいか……」

「まあ力なんてあって困るものじゃないし、貰えるなら欲しいな」

「アリサさん?!」



 剣はアリサの言葉を聞くと、不気味な笑い声を響かせる。



「ククク……我もだ……」



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