第16話 手加減の仕方
迫りくる大剣を、アリサは寸前で避ける。振り下ろされた大剣はブオンと大きな音を立てながら空を切り、そのまま衝突した地面を抉り取る。とてつもない火力だ、当たればただではすまないだろう。
そして、それと同時に四方から矢が放たれアリサに襲い掛かる。
「おい当たるぞ!」
「……」
アリサは集中した眼差しのまま矢を弾き落とす。砕けた矢じりが地面に落ちる前に、追従するように男が大剣で再度切りかかる。
が、これもアリサは身を翻して躱した。男は目をぎょろりとアリサに向け、気味の悪い笑みを浮かべる。
「おいおいシスターさん、剣の振り方も知らねえのか? 避けてばかりじゃ戦いになんねえぜ」
「……」
「俺たち勇者狩りは悪行が理由で勇者をやめさせられたクズどもの集まりだ。こんなくそったれな世界の唯一の楽しみが、お前みたいな魔世界に来たばかりのルーキーを狩ることなんだよ」
そう言うと男はブツブツと詠唱を始める。すると、男の輪郭が淡く光り始める。
「
男は叫びながら一歩踏み込む。それは今までに見せた倍の速度で、一瞬にしてアリサとの間合いを詰め、大剣を振り下ろした。アリサがそれを避けると、男はすぐさま二撃目を繰り出す。
目前まで迫った大剣をアリサはギリギリで躱し、大きく後方に飛ぶ。男との距離を取り、体勢を立て直そうとすると今度は矢での攻撃が始まる。
「どうだ? 四方からの一斉掃射! いつまでそうやって耐えられるか見ものだなあおい!」
敵ながらに見事だ。男に近づけば素早く火力の高い大剣の攻撃、そして離れれば弓矢による猛追。中々にいい連携をしている。勇者を狩っているというのも嘘じゃなさそうだ。
それにしてもアリサの避ける技能はなんなんだ? なんでさっきの大剣の二撃目を避けられたんだ。本当にシスターなのかよ。今も矢の嵐を平然と弾き落としてるし。
というか、さっきから避けてばっかでなんで攻撃しないんだこいつは。
「おいアリサ、お前なんで反撃しないんだよ」
「……」
「おい聞いてんのか!」
アリサは俺の言葉にも反応せず、ずっと集中した眼差しのままだ。浅い呼吸で一点をじっと見つめている。
そうか、敵の猛攻をしのぐために集中しているのか。剣の技術のすごさで忘れていたがアリサは剣を握ってまだ日が浅い。これほどの敵に囲まれることも初めてだろう。
だからこそ、今もアリサは大剣の一撃を避けるためにじっと男の出方を見ているのだ。
そう、アリサの視線は男を……ん?
「……お前、もしかしてあの大剣が見たいだけ?」
「うん!!!」
声でっか……
目前で避けたのはギリギリまで剣を見たかっただけかよ。
「お前の趣味の時間にするのもいいが、結局あいつらを倒さないとどうしようもないぞ」
「そうだよね……でもなあ」
「なにごちゃごちゃ喋ってんだ! お前今どういう状況かわかってんのか!」
男は合図し矢の攻撃を止めさせ、自分でアリサに突撃してくる。
「ここは教会みたく神は見てねえぞ。教えてやる、人はな、簡単に死ぬし簡単に殺せるんだよ……!」
激高するその一撃一撃に男の怒りが感じ取れる。男の魂を込めたその剣閃も、アリサにあと一歩届かない。
「ちょろちょろと、舐めてんのか俺たちを!」
「そうじゃなくて……私、ちゃんと剣を持ったのが最近なんですよね」
「はあ? だから攻撃できねえってか」
「違うんです。その……手加減の仕方がわからなくて、恥ずかしい話」
「……は?」
「できるだけあなたたちには生きて更生してほしいのです。でも、おそらくやりすぎちゃうんですよね。こんな風に」
アリサは男との間合いを離す。そして、生まれた一瞬の隙に呼吸を整える。
「……『白閃・
アリサは剣を振るった。
剣先から放たれた白い閃光は黒い影に覆われ、狭間へと消える。斬撃は影を伝い、茂みに隠れていた弓手たちを切り刻んだ。
「ぎゃああああああああ!」
バリエーションのない断末魔が周囲でこだまする。そして、先ほどまで絶え間なく放たれていた矢の雨がピタリと止んだ。
「あれ、やりすぎたかも……調整が難しいな」
一撃で4人の撃破。十分すぎる戦果だが納得がいってないらしく、俺のことを首をかしげながら見つめている
一方、一瞬で仲間を大半失った男は、血気盛んだった顔を青白くしてアリサを見ていた。
「ありえん……! クズどもとはいえ、元は最前線で戦ってた勇者だぞ……?」
「そうですか、私は現勇者ですので」
「……っは、ああそうかよ。ここからはもう容赦しねえ、望み通り殺してやる。はああああああ……
男の輪郭が強く光り始め、男の姿が目の前からいなくなる。とてつもない風と共に、アリサの周囲に物体が移動する音が駆け巡る。
男が高速移動をしながらアリサの周りを回っているのだ。
「お前が認知するよりも速く、お前の死角に不可避の一撃を与える! こいつでお前を地獄に送ってやる!」
「うーん、手加減の方法……」
こんな時でもアリサは殺さない方法を思案していた。正直、戦闘中に能天気すぎるとしか思えないがな。
だとしても、今の俺の所有者はアリサなのだ。アリサが手加減したいというなら、俺はそれに文句を言わない。
「あ、そうだ。思いついた!」
そう言ってアリサは俺を鞘に納める。
……まさか、居合切りである第四のスキルを使うのか……? だが、あのスキルを当てたらこの男は確実に死ぬぞ!
「こいつで死ねやああああああああ!」
「えいや!」
「ぐはぁっ!」
ゴオン!
アリサは俺を鞘に入れたまま高速移動で向かってくる男にぶつけた。とてつもない打撃音が響くと、男はそのまま倒れて地面に伏した。
居合とか全然関係なかった。
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
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