第15話 勇者狩り

「やっと穴から出られた~! さあ魔剣を探すぞ~!」

「魔王討伐だろ」



 穴を抜け外に出ると、そこはどこかの山の中だった。揺れる草花やさわさわと音を立てる木々をアリサは興味深そうに見ていた。



「ここが魔界か。なんか思ってたより普通だね」

「どういうのを想像していたんだ?」

「もっとおどろおどろしい感じのを想像してたんだけど」

「どういうのだよ」

「まあとりあえず麓まで降りようか」



 そう言ってアリサは歩き始める。幸いにも穴の前には道らしきものがあったため、それをたどっていけばよさそうだ。


 と、思っていたんだが、周りからガサガサと明らかに風に揺れる草木が立てる音じゃないものが聞こえる。


 アリサもそれに気づき、俺に手をかける。



「魔物……いや、これは人かな」

「だろうな。来るぞ」



 目の前の茂みから一人、厳つい様相の男がのっしのっしとやってくる。男は汚れてはいるが胸部を守る鎧をつけており、その腰には剣を携えている。


 そして、意外にも男の顔には笑みが張り付いている。



「やあやあシスターさん。こんな物騒な場所に一人でどうしたのかな?」

「あなたこそ、山道を歩く旅人には見えませんが」

「わっはっは! 俺は勇者なんでね、ここいらの魔物を討伐しろと依頼されて来たんだよ」

「そうですか。……5人」

「は? シスターさん、何か言ったかい?」



 男がすっとぼけた表情を浮かべたその瞬間、アリサは背後に対して剣を振るう。


 キィン……!


 甲高い音とともに弾かれた矢じりが地面に落ちる。アリサは自身に向かって放たれた矢を剣で弾き防いだのだ。



「わざわざ私の前に姿を出したのは、私が他に仲間を連れてないかの確認ですね?」

「へえ……ただのシスターってわけじゃなさそうだ」



 アリサが男の方に向き直ると、男はその鞘から鈍く大きな剣を引き抜く。その立ち方、構え方を見るに、ただの盗賊ではなさそうだ。



「だがこれは忠告してやるよ。今すぐその剣と金目の物を置いていくってんなら、命だけは見逃してやる」

「それはできません。あなたのような方々を、勇者として見過ごすわけにはいきませんので」

「わっはっは! なら殺すまでだ」



 ザッザッザ……と、アリサの周囲を囲むように殺意の気配が充満する。


 多対一、それに相手は複数の遠距離攻撃持ち。そして何より、こいつらはこの手の行為に手慣れている。

 さすがのアリサもこれは厳しいか……? もしもの時は、俺が奥の手を使うしかない。


 アリサは俺を構え、ゆっくりと呼吸を整える。



「俺たちは勇者狩りだ。命がいらないってんなら、俺たちが有効に活用してやる」



 男はその鈍く大きな剣をアリサに向かって振り下ろした―――


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