第12話 鞘を手に入れるための非常に困難な道
「ふんふふ~ん」
アリサは鼻歌を歌いながら森の中のけもの道を歩いていく。周辺の魔物はあらかた倒したからか、もうアリサに襲ってくるような気配はない。
「……ずいぶん上機嫌だな」
「そりゃあ上機嫌になりますとも! こんな綺麗な剣に美しい鞘があるなんて知ったからね!」
「……ああ、そうね」
俺がこいつに鞘があることを伝えてから、魔物狩りのパフォーマンスが明らかに上がった。もしかしてこいつ、鞘も対象なのか……?
「ここらへんでいいかな」
森の中をずんずん進んでいたアリサは、少し開けた場所でその足を止める。
「鞘ってデルア山脈にあるんだよね?」
「そうだな。正確には山の内部にあるダンジョンにだがな。だが、デルア山脈はここからかなり遠いぞ?」
「大丈夫だよ、そこは問題ない」
何が問題ないんだ? 今アリサのカバンには軽い携帯食ぐらいしか入ってないはずだぞ。ここから長距離の移動となると相当準備がいるんじゃないか?
「よし、いくよ~。
そうアリサが叫ぶと少しの魔力の本流と共に空間が歪む。そして、周囲の景色が鬱蒼とした森の中から開けた視界へと一変する。
目の前には、頂上が目視できないほどの大きな山がそびえ立っていた。
「……は?なんだ今の。てか、ここどこだ」
「ここがデルア山脈の麓だよ。あれ、聖剣さん知らないの? 普通の転移魔術だけど」
「……普通のって言われても、俺が前起きていた時代にはこんな魔術なかったぞ」
「へ~そうなんだ」
アリサは平然と返事を返す。……まあ確かに、長距離を時間経過無しで移動できる魔術を覚えているなら、旅を舐めてるような修道士スタイルでも問題なく旅ができるのか。
「で、聖剣さん。鞘はどこにあるの?」
「あ~、内部にダンジョンがあってだな、山脈の中腹にその入り口がある。で、そのダンジョンの最奥に部屋があるんだが、そこに鞘が保管されている。だが気をつけろ。ダンジョンはかなり複雑な作りになっているぞ」
「へえ、聖剣さん結構詳しいんだね」
「そりゃ、な。何しろ昔俺が制作を指揮したダンジョンでな」
懐かしい、前の所有者とその仲間たちで騒ぎながら作ったんだっけな。
「俺の自身作は上から唐突に生えてくるトゲで、そこまではずっと下から生えてたんだが急に上から襲うことで挑戦者の意表を……「最奥って上の方?下の方?どっち?」え、上だけど」
「了解!
アリサの掛け声で再度が空間が歪む。アリサと俺は一瞬にしてダンジョン最奥の部屋の前に移動する。
「……なあ、便利過ぎないか?この魔術」
「便利だよねー」
「便利どころの話じゃない! ダンジョンの意味ないじゃん!」
作るの、結構時間かかったんだけどな……自信作なんだけどな……
「この扉の先に鞘があるの?」
「……うん。そこの差し込むところに俺を差し込んで」
「えいや!」
扉の手前に設置されているいかにも剣を差してくださいと言わんばかりの台座に俺を差し込む。すると、ゴゴゴと扉が音を立てて開く。
部屋は神秘的な雰囲気で包まれており、その中心に煌びやかな装飾の鞘が鎮座されてあった。
アリサは部屋の中に無遠慮に入っていくと思ったが、意外にも一礼をしてから入室する。そして、鞘の前で祈りをささげるべく跪き両の手を合わせる。
「天にまします我らの主よ。光の御心のマルセールよ、我らの道を照らしたまえ。影の御心のアクラムよ、我らの罪を濯ぎたまえ。そして、その美しい光と影が未来永劫交わり、輝き続けるために、今我らが主への代価を祈りとともに捧げます……」
祈りをささげる言葉とその姿勢は、惚れ惚れするほど美しい。ずっとこうだったらいいのに。
だが、俺はもう油断しない。アリサは絶対に鞘を手に持ったあと変なことをする。俺にしたみたいにな!
アリサは十分に祈りをささげると、置かれてある鞘に手をかける。
……来るぞ!
「聖剣の鞘、お借りいたします」
そう言ってアリサは鞘を腰に装着し、俺を中に納める。
え、それで終わり?
「……鞘は舐めないんだな」
思わず口にしてしまう俺。すると、アリサはきょとんとした顔で俺を見る。
「え? あっははー、鞘を舐めるなんてそんな変なことするわけないじゃん。聖剣さんって意外と変なんだね。もしかして、そういう趣味?」
「おま、おまえーーー!!!」
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