第10話 聖剣の秘められた力
「六魔将軍・バルバイドの討伐、感謝いたします。アリサ様、聖剣教会はあなたを正式に勇者として認めます。つきましては魔王討伐に向けての準備やそれに伴う署名と契約、また、出発前行う儀式と各国王への謁見や会談、その他必要な事柄諸々についてご説明いたしますので、明日の早朝聖域にお越しください」
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「って昨日ルベロイが言ってなかったか? なんで森に来たんだよ」
アリサは日が昇るとともにエルスレアを出て、近くの森まで来ていた。当然ルベロイが言っていた時間はとっくに過ぎているが、アリサは構わず道を進んでいた。俺を眺めながらだが。
「はあ……何時間見ても飽きないこの艶、形状……柄の装飾一つ一つまでこだわり抜かれているね……」
「話聞け! 剣身を撫でるな! なんかぞわぞわするんだよそれ!」
「ねえ舐めていい?」
「いいわけないだろ!よだれ垂らすな!」
怖い! いつかこいつに食われるんじゃないか!? なんで剣なのにこんなあり得ない心配しないといけないんだよ!
「ええ~、んー森に来た理由……私、儀式とかそういうの苦手だから勇者になったんだよね。だから、ルベロイ殿には悪いけど逃げてきちゃった」
「勇者ってそんな簡単になれるものなのか?」
「普通は武の才が認められてとかだね。私は全然コネでなったけど」
「すげえコネだなおい」
「まあ色々とタイミングがよかったんだよね。よし、この辺でいいかな~。じゃあそろそろ始めますか」
そう言ってアリサは森の中でおもむろに俺を構える。
「始めるって何をだ?」
「森に来たもう一つの理由。エルスレア周辺ってよく魔物が出るんだよね。だから少しでも狩って、エルスレアに入っていかないようにしようかなって」
なるほど、確かに言われてみるとこちらに殺気を向けている生命の気配がいくつかあるな。
魔物とは魔に侵された生命体のことだ。普通の生き物よりも全般的に凶暴になり、人や建物を見境なく襲う。
エルスレアは現在復興作業中だ。幸運にも人的被害は少なかったが、家屋や施設のほとんどが被害を受けた。故に今のエルスレアに魔物が入ってしまうと、その復興作業が大幅に遅れるのは想像に難くない。
「お前にそんな思いやりを持った心があったなんてな」
「私、シスターなので。それに聖剣さんをもっと振るってみたかったんだよね」
絶対そっちのが主な理由だろ。
「ま、丁度いいか。俺もアリサに伝えなきゃならないことがあったんだ」
「え、なに!? うそ、もしかして……!私まだ心の準備が……!」
「俺の、聖剣の性能についてだ」
「……性能? よく切れて壊れないだけじゃないの?」
「それらもそうだが、災厄を斬る上でもっと重要な力なんだ」
重要と聞いて、アリサはごくりとつばを飲み込んで俺を見つめる。
「俺の中には10個のスキルが備わっている。お前があの魔人に使ったのはその一つ。閃光を伴う斬撃を繰り出す第一のスキル、一つ目の斬撃『
「あれそんな名前だったんだ。ねえねえ、他のは?」
「他のスキルは俺を使っていくうちに段階的に解放される。魔王と戦う直前までに10個全て解放されてるのが望ましいが、まあ7.8個解放されていれば上等だろう」
そもそも俺の中のスキルは聖剣の習熟度によって解放されていく。どれだけ剣の才能を持ったやつでも、俺を持ってすぐに出せるような代物じゃない。……はずなんだがな。
でも、それを伝えると相性がいいからだの心が繋がってるだの絶対変な勘違いされるから言うつもりはないけどな
そんなことを話していると、茂みの中からザッと狼型の魔物が一匹姿を現す。
「ちょうどいい。アリサ、あの魔物に『白閃』を放ってみろ」
いい時に来た。もう一度アリサの技量を見極めるのと、スキルの使い方をマスターしてもらうのにぴったりだ。こいつには早めに強くなってもらわなければ困るからな。
アリサは俺に言われるがまま剣を構える。しかし、アリサは昨日見せた剣を振り敵を斬るような姿勢ではなく、明らかに突くための姿勢を取った。
「いや、多分あいつには突きの方がいいね」
「……は?」
アリサは素早く、かつ最小限の動きで俺を押し出す。切っ先は正確に魔物の眉間を捉え、静かに硬い頭蓋を貫いた。
貫かれた魔物は一瞬ビクッと震え、力が抜けるように動きを止める。アリサが俺を引き抜くと、糸の切れた人形のようにそのまま倒れた。
「ふう……ごめんね、あとでまとめてお祈りするから」
馬鹿な……! 今の高速の突きは『
まさか、この一瞬で習得したのか!?
アリサはまだ他にもいると考え魔物の出てきた方角を注意深く見ていると、後ろから音が聞こえる。振り向く瞬間、背後の茂みから魔物が現れ死角からアリサを襲う!
やばい、流石にこの一撃は避けられないぞ……!
「おっと、そっちか」
魔物の牙を食らう寸前、アリサの体は霧のように溶け、魔物の後ろに姿を現す。
この動きは『
そして、魔物の背後に回ったアリサは白い閃光と共に俺を振るい、魔物の胴体を綺麗に真っ二つにする。
「どう聖剣さん!? 今の良い感じに『白閃』使えたでしょ!」
「……おう、見てたよ」
アリサは『白閃』がうまく使えたことに喜んでいる。だが、俺にとってはそんなことどうでもよかった。
マジかよ……普通3段階目のスキル解放には2年弱かかるんだぞ? それも、息もつかない激戦の中でようやく解放されるものだ。
それを昨日の今日ですぐに解放しやがった……!
「ん? どうしたの聖剣さん」
「……一回上手くいったくらいで喜ぶな。俺の特性はここからだ。俺のスキルは所有者によって変化する。過去の所有者でいうと、『白閃』なら一度の斬撃で100の敵に攻撃したり、鞘から抜かずに斬撃を放ったりするやつもいた」
「へえ~面白そう! 私はどうなるの?」
「どう変化するかは俺にもわからん」
「そっか、じゃあどんどん切ってかないとね!」
そう言って襲い掛かる魔物を次々と斬り伏せていくアリサ。そこには疲れや恐怖が微塵も感じない。
こいつ、俺が思っている以上に逸材なのか……?
……いや、これはポジティブに捉えるべきだ。アリサが俺を誰かに渡すなんて甘い考えは捨てろ。俺がアリサから離れるにはこいつを最速で最強にして、とっとと魔王を斬って再び眠りにつくしかない。
アリサほどの才能があれば、1年もかからないかもしれない。うおお、希望が見えてきたぞ!
よし、そうと決まれば次の目標は決まった。
俺は魔物を狩り続けているアリサに声をかける。
「おいアリサ、今俺たちに最も必要な物が何かわかるか?」
「二人だけの時間?」
「ひっ。……違う! 鞘だよ、俺の鞘!」
……1年かあ、結構あるなぁ。
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