第8話 聖剣を要求する!


「すごい……すごいすごい!」



 魔人バルバイドを斬ったアリサは俺を空に掲げて刃の先を眺めている。



「あんなに硬いものを切ったのに、刃こぼれ一つしてない……!」

「当然だ。聖剣だぞ」

「すごーい!」



 アリサは嬉しそうに何度も刃のところを指でなぞる。痛くないの?



「嘘、そんな……ありえない」



 一方、後ろにいたルベロイはあり得ないものを見たような顔で固まっている。



「六魔将軍をたった一撃で……? これが聖剣の力なの……?」


「ルベロイ殿、ランカさんの容体はどうですか」

「あ、えっと……傷の方はもうほとんど治しました。今は体力を消耗しているので目が覚めるのにはもう少しかかりますけど」

「さすがは聖剣教会の大司教殿だ。致命傷足りうる傷も治してみせた」

「いやあ、それほどでも。えへへ……じゃなくてですね!」



 我に返ったようにノリツッコミするルベロイ。ルベロイってこんな奴だったんだな、もっと固いやつだと思ってた。



「勇者アリサ、あなたは我々のことを騙してたんですね」

「騙してたなんて言われましても……」

「あなたは勇者に選ばれてから魔物討伐などで目立った功績をあげていない。それなのに……」

「まあまあルベロイ殿、その話はひとまず後にしましょう。街の人は避難したと言っても取り残されている人もいるかもしれません。そちらの方を優先しないと」


「……そうですね、シスターたちにも連絡して街の方の救助を行います。ですが!後できっちりお話しさせてもらいますからね!」



 そう言ってルベロイは猛ダッシュで瓦礫が散乱する街を駆けていく。



「ふう、これで一息つける」

「おい女!」



 アリサが気を抜いたその時、後ろから乱暴な声が聞こえる。


 振り返ってみると、そこには先ほどまで魔人に腰を抜かしていた男が立っていた。



「聖剣をよこせ、女」


 そして、開口一番にとんでもないことを言ってくる。


「えっと、あなたは?」

「俺か? 俺はアルメア帝国の勇者、キルグレア様だ!」

「はあ、アルメアの勇者でしたか」

「見たところ修道女か? 剣の扱いを知らないだろう。俺が使ってやる」



 キルグレアは当然の権利のように右手を差し出す。相変わらず不遜な態度だ。



「ねえ聖剣さん、聖剣って渡せるの?」

「実のところ、抜くのは素質のある者にしかできないが、扱うだけなら誰にでも可能だ」

「なるほど、所有者が死んでも使命を果たせるようにってことね」

「お前変なとこで理解力が高いな……。まあそうだけど」


 実際過去の災厄では抜いた者ではなく譲渡された者が解決したこともある。


「だからお前が望むなら俺をあいつに渡すこともできる」



 自分で言ってて気づいたが、もしかしてアリサの手から離れるチャンスなのでは?


 いや待て待て、アリサはついさっき魔人を一振りで倒しただろ。今まで幾人もの使い手を見てきたが、アリサほどの逸材はそうそういなかった。

 こいつなら、災厄を簡単に斬ることができるだろう。



 そう、だから俺がこいつの異常性癖を少し我慢すれば大丈夫。



 我慢すれば……



「ほら、早くそれをこっちに渡せ。この俺様が使ってやるって言ってるんだ。光栄に思え」

「そんな、まだ味も知らないのに……!」

「味?」



 …………。



「頼むアリサ!俺をあいつに渡してくれ!」

「聖剣さんまで……」


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