第6話 魔人、相対す
アリサの名乗りを聞くと、魔人は突然笑いだす。
「ふ、ふははははははは! こんな小娘が聖剣を抜いた勇者だと? なんだその持ち方は。基本もなってない素人ではないか! それで聖剣を抜いたなど、片腹痛いわ!」
確かに魔人の言う通りアリサの剣の持ち方はお世辞でも良いと言えない。柄の持ち方が適当だから剣先が揺れている。素人が見よう見まねで持っているって感じが丸出しだ。
「……なあアリサ、お前今まで剣を振るったことは?」
「無いよ。握ったこともあんまりない」
「なんでだよ! そんなに剣が好きなのにおかしいだろ!」
「不思議だよね、私もそう思う。こんなに好きなのに、武器屋に行くといつもお店の人がお前にだけは剣を売りたくないって言うの」
「……ああ~なるほどね」
アリサが剣を持たずに聖域までやって来た理由がよく分かった。俺も武器屋の店主ならこいつにだけは絶対に剣を売りたくないもん。
「それに、スキルを一つも持っていないだと? 馬鹿にするのも大概にしろ」
「は? お前スキル持ってないの!?」
「え、そうだけど」
なんでこいつこんなけろっとしていられるの? 普通に命の危機だよね?
「あなた、誰……?」
後ろにいるランカは突然現れたアリサに反応を示す。その声はかすれていて今にも途切れそうだ。
アリサが振り向くと、ランカは精いっぱいの力で剣先を魔人の方へ向けていた。全身が傷だらけで、もう前もあまり見えていないだろう。
「ランカさん、でしたっけ。ごめんなさい、すぐに加勢できればよかったんですが」
「そんなことより、今すぐ逃げなさい。あの魔人は異常に強い。ここは私が食い止めるから……そして、できればなんだけど後ろにいる男も連れていって」
フラフラになりながらも、ランカは前に立つアリサと後ろの勇者の心配を先にする。
すると、何を思ったのかアリサはランカの持つ剣をするりと奪う。そして、切っ先や剣肌を丁寧に眺める。
お前、ここでも剣を優先するのはさすがに引くぞ……
「使い込まれたいい剣です。あなたのたゆまぬ研鑽の日々と乗り越えてきた難局の数々が手に取るようにわかります」
「あなた、私の剣を……! 返しなさい……!」
「そう、これはあなたの剣だ。ですが、今の傷つき疲弊したあなたなら素人の私でさえ簡単に剣を奪える。何よりも大事にするべき剣を」
「……っ!」
……ん? 何だこの流れ?
アリサは剣をランカの腰にある鞘に納める。
「ランカさん、これはお返しします。大丈夫です。私が逃げる必要も、あなたたちが逃げる必要もありません。あとはこの勇者アリサに任せてください」
「ゆ、うしゃ……」
ランカはそう口にすると、張りつめていた糸が切れたように意識が途切れて倒れる。アリサはランカが地面にぶつからないように優しくキャッチし、そっとその場に寝かせる。
なんかいい感じになってない? なんで?
「ルベロイ殿、回復魔術をお願いします」
「……はい、わかりました」
アリサの呼びかけで隅に隠れていたルベロイは顔を出す。
「くだらん茶番は終わったか?」
「待っててくれたんだ。優しいね」
「なに、せっかく聖剣を持った勇者が現れたというのだ。少しくらいは我も楽しみたいのだ」
魔人は不敵に笑う。
こいつは破壊行為を楽しむ、紛れもない悪。だが、その力は本物だ。エルスレアには俺を抜くことを目的にやって来た勇者は少なくない。そして、勇者は乱立こそしているがその国で有数の強さを誇る者が名乗る称号には変わりない。
その勇者たち複数人をもってしても、こいつの進行を止められずここまでの蛮行を許してしまった。
けれど、アリサは怯むことなく魔人と言葉を交わす。それが勇気から来ているのか単純に狂っているだけなのかの判別はつかないけれど。
「ね、魔人さん。名前はなんて言うの?」
「ふむ、冥途の土産に教えてやろう。我は六魔将軍、鋼鉄の将・バルバイドだ」
「ろ、六魔将軍ですって……!」
バルバイドが言った六魔将軍という単語に、ランカに回復魔術をかけていたルベロイが反応する。
「ルベロイ殿は知ってる感じですか?」
「……六魔将軍は魔人たちの中でもトップクラスの戦闘力を有しています。その強さは人族の最高戦力と同等とも言われています」
「同等? 貴様らは自分たちのことを過大評価するのが得意らしいな。戦えば当然我が圧倒する」
「へえ~」
……なんか、自分で話振っといたくせに興味なさそうだなこいつ。
「話は終わりだ。聖剣は貴様の亡骸から拾おう。さあ、絶望を抱きながら死んでいくといい」
「う~~~~ん。なんかなぁ……」
え、なに、こいつ急に唸りだしたぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます