第4話 魔人襲来
「ま、待ちなさい勇者アリサ!」
シスターの報告を聞いたアリサはルベロイの静止も聞かずに走り出す。スイスイと聖域を抜け、エルスレアへ続く橋へと向かう。
聖域は湖に囲まれており、地上から入るための橋が一本架かっている。エルスレアはその橋の先にあり、聖域に訪れる者たちの宿場町として発展した街だ。
アリサが橋を渡り切ってエルスレアに着いた時、エルスレアの各所で火の手が上がっていた。
そして、この災禍を引き起こした存在は簡単に見つけられる。
「あれが魔人……」
アリサはそうぽつりと呟く。
人間の倍はある体躯に灰色の肌、いわゆる魔人と呼ばれる存在は周囲を蹂躙しながら聖域の方向へ歩いていく。その後ろには挑んで倒れていった兵士や勇者たちの残骸が無残に転がっている。
アリサはとっさに崩れた建物の隙間に身を潜めた。今まさに魔人と戦っている者がいるとわかったからだ。
「せやああああああ! スキル『螺旋双撃』!」
魔人の前に立つ金髪の女性は果敢に剣の一撃を放つ。しかし、魔人はその一撃をあざ笑うかのごとく、こともなく受け止めた。
「嘘でしょ……! 私の『螺旋双撃』で傷一つつかないなんて!」
「ふん、攻撃を二回重ねるスキルか。凡人にしては悪くない」
「な、なんでスキルの効果を知っているの!」
「『
スキルとは一部の生物が生まれた時に与えられる、魔術とは異なる超常の力のことだ。その種類は千差万別だが、スキルを持つ者は持たざる者よりも強いというのがこの世界の常識だ。
「魔人はスキル持ちかぁ。困ったな、さてどうするか」
アリサは魔人と金髪の女性との戦闘の様子を伺っている。金髪の女性は攻撃が効かないとわかっていても攻め続けていた。一方魔人はその攻撃を受けるだけで、反撃をする素振りを見せない。
アリサはそんな様子を伺いながら俺に舌を近づける。っておいおいおい!
「何してんだやめろ! どさくさに紛れて俺を舐めようとするな!」
「え、聖剣が喋った! お得じゃん!」
「なんでまずその言葉が出てくる! 意味が分からん!」
なんなんだマジでこいつは。今までのどの使い手とも違う部類過ぎて理解ができない。嫌悪や拒否よりまず恐怖を感じる。
「もしかして、舐められるの嫌な感じなの?」
「そうだよ!」
「そっか……そっか。ならやめる」
「あ、うん」
意外にもあっさり引くアリサ。常識があるのかないのかわからないから反応に困る。
「代わりに匂い嗅ぐね」
「いいわけないだろ。おい嗅ぐな!」
「すうううううううううう……はあ、落ち着く」
クソ、俺に抵抗するすべがあれば……!
そんな時、背後から急にアリサを呼ぶ声が聞こえる。
「はあ、はあ……ようやく追いつきましたよ、勇者アリサ」
声をかけた主は、大司教ルベロイだった。
アリサが振り返ると、息を切らしたルベロイが汗をだらだら垂らしながら立っていた。いつもは聖域で大司教としての神秘的な姿しか見てないから新鮮な感じだ。
「ルベロイ殿! どうされたんですかそんな汗だくで」
「勇者アリサ、あなたを聖域に連れ戻しに来たんです」
「はあ」
アリサはルベロイの言葉をあまり理解できなかったのか間抜けな表情を浮かべている。だが、ルベロイは有無を言わさずアリサの手首を掴み、聖域の方へ引っ張る。
「ちょっとルベロイ殿!?」
「静かにしてください、魔人に気づかれます」
「なぜ引っ張るのですか! 街はその魔人に襲われているんですよ! 今、目の前で!」
「勇者アリサ、あなたはご自身の立場を理解していない。あなたは……きゃあ!」
「危ない!」
二人の話を遮るように魔人の攻撃の流れ弾が飛来する。流れ弾は近くの倒壊した建物に直撃し、建物は音を立てて崩れていく。
魔人の方を見ると、相対する金髪の女性は先ほどよりもボロボロになっており、意思の力だけでかろうじて立っている状態だとわかる。
前に立つ魔人はつまらなそうな顔をして、大きなため息を吐く。
「なんだ、ちょっと攻撃したらこれか? はぁ、つまらん。そこの腰抜けよりかは見どころがあると思ったが、結局は他の凡百どもと同じだな」
魔人が指をさす先には一人の男が腰を抜かしてへたり込んでいた。ごてごてした鎧を身にまとうその姿から、そいつがアリサの前に来た勇者だとわかる。魔人と戦っている女性もそういえばその勇者の仲間として共に聖域に来ていたな。
「ラ、ランカ早くそいつを倒せ! 勇者の命令だぞ!」
「ゆ、勇者様……」
その男は目の前で奮闘する金髪の女性、ランカに向かって無茶な命令を出す。だが、当のランカは剣先を魔人に向けるのでやっとのようだった。
魔人はその様子を見て不敵な笑みを浮かべる。
「クック……
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