実休さん

け~らく

ある日の都で

 山城国京の都


「実休殿! 実休殿ぉー!!」

 京の都にある三好家の屋敷に慌てた男の声と足音が響く。

「おや弾正(松永久秀)殿、どうなされました? ささ、こちらへ。慌てぶりからするに昨今洛中で騒がれている辻斬りについて何かありましたか?」

 廊下をバタバタと駆けていた一癖も二癖もありそうな顔つきの男とは対象的に静かな立ち振る舞いの青年が動じる事なく彼を茶室に招き入れた。

「おぉ、実休殿こちらでしたか。いやはや、仰る通りでしてな……例の辻斬りの件について公方様からお達しがありましてな、お知恵を拝借したく」

 騒いでいた男――松永久秀がさほど困っているようには見えないどころか何か企んでいそうな表情と共に座り込む。

「六角家の仲介と我らの妥協で公方様が二条御所に戻られて、ようやく洛中も落ち着きを取り戻してきた矢先にこの辻斬り騒ぎですからね。困ったものです」

 三好実休は溜息をつきつつも慣れた所作で茶を点て始めた。

「全くですな……ところでそれは先日津田(宗達)殿から買い求めたという噂の茶碗ですかな?」

 久秀の目が鋭く光った。

「弾正殿、茶碗を見る目が怖いです。いや、数寄者とはこうあるべきなのでしょうが」

「おおっとこれは失敬、名物となるとついつい年甲斐もなく」

 茶碗を前に無邪気に笑うこの年上の男を見ると実休はいつも思う、この表情を普段からもっと見せれば弟達も多少は心を開くだろうに、と。



「……ふぅ、結構なお点前でした。長居してしまいましたな」

 茶と茶碗を堪能した久秀が立ち上がる。

「お待ちを、例の辻斬りの件、そして公方様からのお達しとやらをまだ聞いておりませぬ」

 実休の言葉を聞き暫し首を傾げた後に合点がいったという表情の久秀。

「おぉ、それがしとした事がいけませんな」

 これは本当に忘れていたなと呆れる実休であったが、居住まいを正すと聞く態勢となった。

「実はですな。洛中にて幾度も民が斬られる事件が起きておりますが、それについて公方様より"御所の大広間に飾られている屏風に描かれた物の怪が夜な夜な抜け出して行っている凶行である。弾正台としてこの物の怪どもを捕らえよ"という事でしてな」

 ほとほと呆れ果てたと言わんばかりな口調の久秀に実休も同意せざるを得ない。

「荒唐無稽な無理難題を出して我らの失態であると喧伝したいのでしょうな。そこで実休殿の知恵をお借りしたく、なんぞ公方様を黙らせる良き策はありませぬか?」

 一転真面目な表情になった久秀に対して実休は思案する。

 ここで策は無いなどと言ってこの男の好きにさせてしまうと屏風を物の怪ごと焼きましょうと言って御所から何から全てを焼き尽くしかねない。

 松永久秀という男は三好家中でも飛び抜けて有能ではあるのだが、野放しにすればとてつもなく危険な男であるのも周知の事実なのだ。どうやら公方はそれがわかっていないらしい。

 内心溜め息をつきつつも思い付いた対策を久秀に語った。

「ふむぅ、実休殿の策、良き策なれどあの公方様がそれで折れるとは思えませんな、ましてや件の辻斬りは……」

 実休の策を聞いた久秀は理解を示したが懸念もあるようだ。

「確かに……我々が邪魔で邪魔で仕方が無いようですし強引な手を打ってくる可能性もあります」

 暫く二人とも黙って思案するが先に口を開いたのは久秀だった。

「実休殿の策で事が収まれば良し、公方様が納得せず何か仕掛けてくるようであれば……」

 ここで一旦言葉を切り意味深な笑みを浮かべると実休の耳元で続きを囁いた。

「やむを得ませんか、しかし私と弾正殿では手が足りません。どうなさる?」

 策を聞いた実休の指摘に久秀はお任せ下されと怪しく笑うのだった。




「これはこれはお二方よくぞ来て下さいました」

 三好屋敷から出立し御所に着いた二人は幕臣である細川藤孝と沼田祐光の二人に出迎えられた。

「なんのなんの、洛中の民の不安を思えば出来得る限り力を尽くす事こそ我らの役目ですよ」

「おぉ、なんとありがたきお言葉、ささこちらへ」

 実休の言葉を受け嬉しそうに二人を案内しようと祐光が先導するが傍らの細川藤孝は動こうとしない。

「兵部(細川藤孝)殿、どうなされた?」

 怪訝な表情をする祐光に対し申し訳なさそうに藤孝が口を開く。

「私は、お二人ではなく和田(惟政)殿を出迎えるよう公方様から命じられております」

「なんと、公方様は三好家の重鎮たるお二人よりも和田殿を優先せよ、と?」

 信じられないと言った表情の祐光を手で制した実休がにこやかな笑みとともに頷く。

「確か和田殿は公方様の命で濃州(美濃国)や尾州(尾張国)での情報収集を任されていたはずですね」

 その言葉に藤孝が頷くのを確認すると言葉を続ける。

「なれば我らよりも遥かに重要な案件でありましょう。沼田殿、案内をお願い致す」

 納得がいかないといった風情の祐光に先導され控えの間に通された二人はそこでしばらく待つ事となった。

 


「三好豊前守殿、松永弾正少弼殿が参られました」

 大広間で他の幕臣達と機嫌良く話をしていた足利義輝に沼田祐光が二人の来訪を告げた。

「む……来おったか、暫し待たせよ」

 二人の来訪を聞くや義輝が眉間に皺を寄せ一気に機嫌を悪くしたのがその場に居た誰にもわかった。

「……待たせるのですか?」

 すぐ連れてくるように言われると思っていた祐光が訝しむ。

「もう暫くすれば惟政が戻る、三好の奴原と会うのはその話を聞いた後よ」

 この時の義輝の表情は征夷大将軍と呼ぶには些か憚られたと祐光は後に語っている。



 細川藤孝に先導された和田惟政と廊下ですれ違い三好家のニ人が待つ部屋へ戻った祐光は事情を話し畳に額を擦り付けて詫びた。

「三好家の重鎮たるお二方にこの仕打ち、大変申し訳無く」

「いやいや、沼田殿が謝る事ではありませんよ」

「左様左様、刀を振り回す以外には脳の無い公方様のなさる事ですからな」

 あっはっはと大笑いする久秀の脇腹に肘鉄を入れる実休であった。


「さてさて、確か沼田殿は星を読まれると聞き及んでいますが」

 脇腹を抑えて悶絶する久秀を放置して咳払いを挟んだ実休が未だ平伏する祐光に対し口を開く。

「はっ? はい、まだまだ浅学非才の身ではありますが……」

 唐突な話題に面を上げた祐光の表情をじっと観察していた実休がため息をつく。

「沼田殿と本日お会いした時から浮かぬ表情で顔色も悪いのが気に掛かっておりました。何か悪い気配を星から読まれましたか?」

 心底驚いたといった表情の祐光を見て実休が苦笑いを浮かべ沼田殿もまだまだ青いですね、と内心思う。

「それが、その、実はこのまま都、いえ畿内に留まると凶事に遭うと……また大きな戦があるのでしょうか」

 祐光の表情が暗く沈む。

「大丈夫ですよ。三好家が公方様と和睦した以上六角家が畿内に兵を進める理由はありません。河内高屋城を失陥した治朗四郎(畠山高政)殿へ援軍を送る話は出ていますがこちらも大きな戦にはならないでしょう」

 実休の穏やかな言葉に祐光の表情が少し明るくなる。

「されど近頃将軍家の御一門吉良家の分家にあたる今川家の今川治部大輔(義元)殿が兵を集め上洛の機を伺っているという噂もありますな。公方様を廃し自らが征夷大将軍たろうと野心をいだいているとも」

 突然真面目な顔をした久秀が口を挟み祐光が「まさか」といった表情で実休を見る。

「本家である吉良家を攻め当主を幽閉しているという話もありますれば……」

 その昔"足利が絶えれば吉良が継ぎ、吉良が絶えれば今川が継ぐ"という言葉が京雀の間で流行ったという話は有名である。三番手である今川家が二番手である吉良家に牙を剥き併呑したとなればその次はどうするか、想像に難くない。

「なんという……」

 この時実休の言葉を聞いて絶句していた祐光はほくそ笑む久秀の表情に気付かなかった。

「となると、管領代(六角義賢)殿がどう動くかも考えねばなりませんな」

 久秀の言葉にキョトンとした表情をした祐光の表情がすぐに強張る。

「東海に尾張、美濃を併呑した今川の兵、どれだけ集まりましょうな。それに対し公方様は三好家を倒してくれると無邪気に喜ぶのか、自分を追い落とす存在が現れたと戦うのか、前者なら話になりませぬが後者を選んだとして……」

 久秀が一旦言葉を切る。

 今川家の上洛に際して誰が誰と戦うのかという話だ。

 公方足利義輝にはろくに手勢が居ない、地理的には近江の六角家が戦う事になるだろうが、畿内の三好家がどう動くのか、後背を気にして海道一の弓取りとまともに戦えるのか。

 六角家に三好家が加われば? その場合三好家になにがしかの見返りが必要だろう、何を約束するのか、そして何度も三好家との約定を反故にしている義輝を三好家は信用するのか。

 奇跡的に畿内の諸勢力が全て合力したとして誰が指揮を取るのか、将軍である義輝か、最大勢力の三好か、矢面に立つ六角か、管領の細川か、誰であっても横の連携など取れるはずもないだろう。

 最悪は、義輝に公方としての器量無しと六角が今川に味方した場合だ。三好が義輝の為に戦い理由なぞ無いのだ、勝ち目なしと見れば阿波に退くだろう。遠路はるばる上洛したとてどうせ大内家のように留守にした国元で何か起きて引き上げるのだ、余計な被害を出す事はない、そして取り残された義輝がどうなるかなど知った事ではないのだ。

 祐光の頭の中ではどれだけ考えても今川治部が上洛した場合義輝に明るい未来はないという事だけは解ってしまった。

 わすかな時間ではあったが、祐光が絶望的な表情を浮かべたのを見て久秀が口を開く。

「そこで和田殿の件よ。今川治部が上洛するとすれば濃州尾州は通り道、今川治部の動向を探らせていたのであろうな。そうなれば管領代殿の事も調べておろう、となれば我らを呼び立てた児戯の如き案件よりも遥かに重要よ。公方様がだけでかような事をするようなで無いのならば、ですがな」

 含みを持たせた言葉に絶望した表情から更に青ざめた祐光を見て気付かれぬように嘆息した実休が立ち上がる。

「では、我々も和田殿の報告を聞きに参りましょう。どんなに早くとも数年は先の話とは言え畿内で大戦が起きるとなればそれ相応の備えが必要になりますからね」



 そして部屋を出て大広間へ向かうも手前の廊下で歩みを止め隣室に入り座り込んだ実休と久秀を祐光が小声で正す。

「大広間へは入られないのですか?」

「当然です。我々が姿を見せれば公方様のご機嫌が悪くなり聞ける話も聞けなくなりましょう」

 実休の答えに天を仰いだ祐光もその場に座る。

「さてさて、どのような話をしてますかな……?」

 三人は声を潜め耳をそばだてた。

「うむ、やはり濃州は関の刀は見事じゃな。近い内に何振りか手に入れたい、惟政の目利き……期待しておるぞ?」

「ははっ!」

 大広間からは義輝の機嫌良さげな声が聞こえてくる。

「今川治部の話ではないようです、ね」

 祐光の落胆した小声を聞いて久秀の口元が緩む。

「まぁまぁ、この後かもしれませんよ」

 実休の言葉にハッとした表情で祐光が顔を上げた。

「(沼田殿、やはり若いですね。歳を重ね経験を積めば一角の武将になる資質はあるでしょうが……)」

 実休が祐光の評価を定めていると大広間から義輝の声が響いた。

「して、惟政よ。尾州にあるという名刀の件はどうなっておる?」

 また刀の話ですな、と久秀が嬉しそうに呟く。

「はっ、それが、その……」

 義輝の問いに惟政が言い淀んだ。

「どうした、何も掴めなかったのか?」

「い、いえ、銘を聞き出す事は出来たのですが……」

 廊下からでは大広間の様子はわからないが惟政の狼狽ぶりは如実に伝わってくる。

「では何を勿体ぶっているのだ、早う申せ」

 義輝の声に苛立ちが含まれてきた。

「公方様のお耳に入れるには、少々はばかられる銘でありまして……申し上げて良いのか、と」

「なんだそれは……構わぬ! 申すが良い」

「ははっ、その、は、はりき、あ、その……」

 惟政の態度に義輝の苛立ちも高まっているのがわかる。

「声が小さい! はっきり申せ!!」

「は、はっ! "張り切り助兵衛"と申すそうです!!」

 惟政の叫びと共に御所に沈黙が訪れるがすぐに義輝の怒声が響き渡った。

「な、なんだと!? 惟政! もう一度申してみよ!!」

「公方様! ご容赦を! 何卒、ご容赦を!!」

 あまりといえばあまりな銘を聞いて絶句する実休と祐光だったが、ふと久秀を見ると顔を真っ赤にして身体を震わせ笑いを堪えている。

「あぁ……弾正殿の手の者の仕業ですか。偽情報を掴ませるだけでなくなんという事を……和田殿も災難ですね。弾正殿、後の事はお任せします」

 大広間からドタンバタンと聞こえる音に紛れて実休が弾正に耳打ちをした。

「この痴れ者めがぁぁぁぁっ!!」

 義輝に蹴り飛ばされた惟政が大広間から廊下を越えて中庭に転がり落ちた。

「何卒! 何卒、ご容赦を!!」

 中庭で砂まみれになったまま平伏する惟政へ更に罵倒を重ねようとする義輝の視界に実休の姿が入ってきた。

「なんじゃ! お主はまだ呼んでおらぬわ!」

 怒気の宿る義輝の視線を平然と受け止めると実休が口を開いた。

「主上より任ぜられた征夷大将軍として遠き尾州の刀の銘と京洛の民とどちらが大事でありましょうや」

 その声は今まで怒鳴り散らしていた義輝の声と比べれば遥かに小さかったが大広間の隅々まで確かに広がっていった。

「ふん、まぁ良かろう」

 未だ砂まみれで平伏している惟政を一顧だにせず上座へ戻る義輝の背後で久秀と祐光が惟政を助け起こし肩を貸して別室へ下がっていった。

「さて、件の屏風とはそちらでありましょうか」

 大広間の中央に座った実休の正面に義輝、左手には細川藤孝が座っており右手側に百鬼夜行を描いた屏風が設置されていた。

「うむ、そうじゃ。弾正からお主ならば捕縛出来るであろうと言われてな」

 ニヤついている義輝の口元に気付かぬふりをして実休が口を開く。

「物の怪の捕縛は可能ですが、流石に屏風の中に潜まれたままでは無理でございます。出来ましたら……」

 義輝の笑みが深まるのを見て、内心ため息をついた実休が言葉を続ける。

「日ノ本に並ぶもの無しと言われる剣技を誇る公方様の剣気にて物の怪共を屏風から追い出して頂きたく存じます。さすれば驚き飛び出てきた物の怪など容易く捕えてご覧に入れましょう」

 深々と頭を下げ義輝の反応を伺う。

「ふっ、なんだかんだと偉そうな事を言って征夷大将軍であるわしの力を借りねばこのような事も成せぬとは情けない……。じゃが、京洛の民の為よ、不甲斐ないお主らの為に力を貸してやろうぞ」

 "いやはやそのような事出来ぬよ、参った参った"とうやむやにするならば良し、という実休の案はあまりと言えばあまりの物言いによって叶わなかった。

 結局弾正殿の立てた強硬策になるのか、私もまだまだ未熟だと内心落ち込みつつもそれを表に出さず面を上げる。

「宜しくお願い致します」

「うむ、任せよ」

 そっと嘆息をついた細川藤孝には気付かず、再度頭を下げた実休に背を向けた義輝は一人ほくそ笑む。

「(ふん、そう答えるのは想定済みよ。この屏風を奴めに投げつけるのを合図に潜んでいる信孝ら刺客達が貴様を討ち取る算段になっておるわ)」

 喜色を気取られぬよう気をつけつつ屏風の裏に回った義輝が実休に声を掛ける。

「実休よ、準備は良いな?」

「ははっ」

 実休の返事を受けて義輝が屏風に触れようとした瞬間、三方からダンダンダンと激しい音が鳴り畳が立ち上がった。

「なっ、なんじゃ!? ぬあっ、痛い、何事じゃっ!」

 無防備な義輝に対して立ち上がった畳が押し付けられ、畳の上から蹴りが入る。

「何事じゃ、謀反か! 痛い! 止めよ!」

「ぬん!」

 掛け声とともに一際重い衝撃が畳越しに伝わり義輝が転倒する。

「これ! 今の声、祐光であろう! 止めぬか! 祐光! 祐みぐぇっ!?」

 倒れた所に畳が乗せられ「とうっ!」という掛け声と共に誰かが飛び乗り畳の重量が増した。

「惟政! 今の声! 惟政か! おぬしまで何をするのじゃ! やめっ! やめろぉ!! っあ? 誰じゃ! 袴を脱がそうとしてるのは誰じゃ!? この手際は弾正か! 弾正であるな!!」

「メドチでござる」

 喚き散らす義輝の声とは対照的に淡々とした久秀の声が大広間に響く。

「は? メドチ? なんじゃそれは!?」

 バチーン! と尻を平手で打つ音が大広間に響いた。

「いったいっ! 尻がーーーーっ!? 止めよ、何故征夷大将軍であるワシがこのような、痛いっ!!」

 義輝が叫ぶ度に尻を打つ音が大広間に響く。

「メドチでござる、屏風から抜け出たメドチの仕業にござる」

「訳が分からぬわ! 弾正止めんか! 兵部! 助けよ! 兵部! 藤英! 晴光! 信孝! 晴舎! なぜ助けに来ぬ!! はようなんとかせアッーーーー!!」


 屏風の裏から義輝の汚い悲鳴があがるのを聞き流していた細川藤孝が首を傾げると口を開いた。

「実休殿、メドチとは……?」

 細川藤孝の問い掛けに軽く咳払いをした後、実休が答える。

「確か奥州北部の伝承で"童女の姿で男に近付き油断した所に襲いかかってその男を孕ませる物の怪"の名前がメドチであったかと記憶しています、あの百鬼夜行の屏風に描かれているのかどうかは知りませぬが」

「……なんと面妖な」

 説明を聞き唖然としている藤孝に苦笑を返しつつ真っ白な屏風の裏の騒ぎが静かになったのを契機に実休が立ち上がる。

「さて、夜な夜な洛中を騒がせていた辻斬りは捕獲され仕置きも行われたようですし、百鬼夜行も去って行きました。それがしは下がらせて頂きます」

「……あ、えぇ、わざわざのご足労ありがたく。また何かありましたらお願い致す」

「お互い苦労しますな。それはそうと、奥の控えの間で百鬼夜行に巻き込まれた幕臣バカ共の処置はお任せしましたぞ」

 終始温和だった実休が去り際に見せたあまりにも冷たい瞳に藤孝は背筋を凍らせたのだった。




 御所を出た所で実休は青空を見上げる。

「(兄上、今日も都は相変わらずです……)」

 芥川山城の兄を思いつつも、今後の三好家の舵取りをどうするかとしばらく思案したが吐息を一つ。

「まぁ、慌てずに慌てずに、一休み一休み」


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