私はあなたに、恋をしました。
時川 夏目
私はあなたに、恋をしました。
春の暖かな風が肌を撫でる、桜色の春。
私はあなたに、恋をしました。
それはとても胸を高鳴らせて、頬が赤く染まる程に、素晴らしい恋です。
私の中に残る確かな記憶。
視界を埋め尽くす桜の中を歩く、あなたの姿が美しく見えて、私から離れようとしません。
あなたと過ごす日々を考えるだけで、私の心は桜よりも美しく彩られました。
空を生き生きと泳ぎ続ける鯉のように、私たちも泳ぎ続けると思っていました。
新たにあなたと送る日常。
絶対に忘れることは無い、永遠に残る想い出。
蝉が声を空高々に鳴り響かせて、心を穏やかに、けれど騒々しくも聞こえてくる夏。
私は、あなたと見た、空に咲く綺麗な花々を忘れません。
あの時に食べたかき氷は、きっと私たちの楽しいひと時を、溶けて消えてしまうことのないように、凍らせてくれたと思います。
透き通りながらも青く輝く海で、一緒に心を泳がせたのは、とても楽しかったです。
大地に咲き誇る太陽は、暑い私たちの日々を、眩しく思ってしまうくらい、照らしてくれましたね。
ですがその眩しすぎる太陽は、私たちの時間を見えなくするほどに、過ぎ去らせていくものでした。
真っ赤に染まった風景を、二人で、何も喋る事も無く、通り過ぎてしまいましたね。
ひらり、ひらり、残り短い時間を、さらに短く思わせるようにして、舞い散る紅色に満ちた葉が、私たちを悲しくさせたのを、覚えていますか?
口にしたぶどうが、とても酸っぱくて、これが私たちの人生なのかもと、私は感じてしまいました。
世界が真っ白に染まり始めた頃には、私たちはどこにも行くことができませんでしたね。
狭い部屋に鳴る、あの音を、私は忘れません。
とても苦しくなる音は、私とあなたを、引き裂くように鳴り続けましたね。
あなたが、白く染った世界に、色の無い透明な雫を落としたのを、私は忘れません。
私の小さな手を、力強く握ってくれたあなたの、暖かな温もりを忘れません。
あなたが私に優しくしてくれたのを、忘れません。
あなたとの、短くて、とても色鮮やかな日々を、決して忘れません。
最期に、意地悪な質問をさせてください。
――私はあなたに、恋をしました。あなたは私の愛しているに、なんと返してくれますか?
私はあなたに、恋をしました。 時川 夏目 @namidabukuro
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