第16話 じゃ、食べさせてもらいます

 ~~~~~~~~~


 ギルドを出た俺は、

 そのまま街の奥へと入っていった。


 もう、

 すっかり日は沈んで、

 既に商店通りは、

 どこものれんをおろしている。


(明日、

 昼間のうちに寄ってみるか。

 ギルドからも離れているし・・・)


 肉もたっぷり補充できたし、

自宅空間ホーム』には米もたっぷり残っているが、

 冷蔵庫にあった野菜と果物がもうないのだ・・・。


 残っているのは、

 大根の葉っぱとピーマン半個だけで・・・。



(カレーをつくって食べたいな・・・)

 俺はふいに、

 そんな風に思った。


 考えてみれば、

 前世では週に二・三回くらい食べたものだ。


 たいていはボンカレーの類だったが、

 ごくたまに、

 比較的気持ちに余裕のあった日など、

 自分でつくったりもした。


 トマトを入れるのがお気に入りだ。


(ニンジンと玉ねぎ、

 それとトマトか・・・。

 できれば、

 ピクルスもつくってみたいな・・・)

 俺は、

 明かりの消えた商店通りを歩きながら、

 翌日に買うものを思い浮かべていった・・・。



 ~~~~~~~~~~~~


 そのまま夜の街ブラをしていると、

 今度は明るくにぎやかな通りに出た。


 いわゆる飲み屋街だ。


 前世でも、

 金曜日の夜の駅前などで、

 よく見られた景色だ・・・。


 外に席を出している店も多く、

 仕事を終えた感じのおっさん達が、

 楽しそうに杯を重ねている。


 なかには、

 冒険者らしい若者たちも、

 ちらほらと見える。


 女性客もいるにはいるが、

 皆、男の連ればかりだ。


 女性だけの飲みグループは、

 まったくない。



(そういうものか・・・)


 やっぱり、

 日本とは違う。


 その事実が、

 何故か俺を寂しい気持ちにさせる・・・。


 ホームシックというやつだろうか・・・?



「疲れた・・・」

 そうつぶやいてみた。


 考えてみれば、

 今日は他人と色々ありすぎた。


 笑顔も悪意も、

 もう俺には重すぎる・・・。



 ――ああ、

 こんな風にごちゃごちゃ考えてしまうなんて、

 本当に疲れているな・・・。


(今日はもう休もう・・・)


 どこで『自宅空間ホーム』を出そうか。


 俺は、

 人目につかない場所を探そうとした。



「どうしたのボク?

 迷子?」


 ふいに俺は、

 声をかけられた。


 相手は、

 店の給仕らしい、

 三角巾にエプロン姿の女性だった。


 小学生なみの背丈だが、

 雰囲気からして、

 あのレナさんよりも年上だろうか。



「あ、いえ、大丈夫です。

 ブラブラ散歩しているだけで」

 俺がそう言うと、

 女性は、


「ふぅん。

 もし食事がまだなら、

 うちに来ない?

 飲めなくても歓迎だからさ」

 と、目の前の店を指した。


 この街ではほとんど見ない、

 木造建築だ。


 入り口には、

 異世界の文字で『おかえり亭』と彫られた看板が出ている。


 店の外からもなんとなく、

 前世でよく通った食堂と同じ、

 雰囲気を感じる・・・。


「ツケでもいいから。

 ね?」


「いえ、お金はあるので・・・。

 じゃ、

 食べさせてもらいます」


「はぁい、

 一名様ご案内!」


 女性に案内されて店に入る。


(レナさんの時と同じだな・・・)

 と、ギルドで彼女に、

 解体所まで案内された時の事を思い出す・・・。



「いらっしゃい!」


 店に入ると、

 奥の厨房から、

 店主らしいおじさんの声が出迎えた。


 店内は、

 天井に規則正しく吊るしたカンテラの灯りで、

 どこか穏やかに照らされていた。


 木製の床は歩くたびに、

 コツコツと心地よい靴音が鳴り、

 俺はそのまま、

 空いている席に案内される。


 四人掛けのテーブルが六つあり、

 そのうち三つが既に埋まっている。


 客はそれぞれ、

 友人同士らしい三人組の若者、

 夫婦らしい中年の男女、

 白髪のおじいさんと世代に幅がある。


 だが、

 どの席の客も、

 静かに穏やかに、

 食事を楽しんでいるようだ。



「はい、

 これメニューね」


 女性から、

 台紙が木製のメニュー表を受け取る。


 幸い、

 女神さまからもらった知識で、

 メニューの字も問題なく読める。


(ステーキ、

 肉串、

 スペアリブ・・・)


 肉料理が多く、

 魚料理はない。


 どうやら、

 この辺りは海から遠いようだ。



「じゃあ、

 ポトフをパン付きでお願いします」


「はい、ポトフね。

 飲み物は何にする?」


「えっと・・・」


 飲み物は・・・、

 ジュース、

 エール、

 お茶・・・



「果物のフレッシュジュースを」


「はぁい!

 あなた、ポトフとジュースね!」


「あいよ!」


(え・・・)


 俺は一瞬、

 耳を疑った。


『あなた』?


 て、事は・・・、

 この小柄な女性が、

 あの厨房のおじさんの・・・?

 俺のその反応を見て、

 女性は笑って言った。


「ああ、わたしドワーフなの。

 これでも旦那より年上なのよ」

 と。



(『ドワーフ』・・・)


 つまり、

 人間よりも寿命が長い種族、

 でいいのか・・・?


 少し、

 耳が大きいこと以外は、

 小柄な妙齢の女性にしか見えない。


 俺は、

 どう応えたらいいのか分からず、


「すごくお若く見えますね・・・」

 というセリフを絞り出した。


 女性は笑顔で、


「ふふ、ありがと」

 と言って、

 メニューを下げていった。



(疲れた・・・)


 人をほめるのは苦手だ・・・。


 俺は、

 ギシギシと椅子の背もたれに体重を預けた。


 それにしても・・・、


(――人間以外の種族、か・・・)


 俺はまた一つ、

 前世との違いを味わった気がした。


 そういえば、

自宅空間ホーム』の本棚に、

 異世界の種族についての本もあったような・・・。



(帰ったら見てみるか・・・)


 まだ、

 食事も出ていないのに、

 俺は早くも、

自宅空間ホーム』に帰った後の事を考えていた・・・。



【残り3587日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 ??は語る・・・。


「飲み会の最中なのに、

 帰宅後の事を考えちゃう人っていますよね。


 あ、もちろん私は飲み会なんてしませんけど。


 ただ話に聞いたことがあるだけで、ええ。


 どうか皆さん、

 そんな外が苦手すぎるあの人のために、

 

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