第15話 お騒がせしました・・・

 ~~~~~~~~~~~


「それで、

 他の素材についてですが・・・」

 と、受付のレナさんは帳簿らしきものを取り出していった。


 むさ苦しい男どもが魔獣を切り刻む、

 肉と皮と血と、

 そして臓物まみれの解体所の地下で、

 どう見てもお年頃の女子である彼女の存在は、

 ある種の異様な迫力を放っている・・・。


(だから、

 ホラー映画には少女がよく出るんだな・・・)


 などと考えながら、

 俺はレナさんの話を聞いた。



「毛皮は金貨7枚、

 骨は標本用に金貨4枚で引き取らせていただけますか?

 そこから解体費用を引いて・・・、

 金貨10枚のお渡しとなります。

 いかがでしょうか?」


「え・・・?」


 金貨って、

 日本の10万円くらいの額だよな・・・。


 それが10枚という事は・・・、


「100万円・・・!」

 思わず、声に出てしまった。


「はい?

『ヒャクマン・・・エン』?」


「あ、いえ何でも・・・。

 それでお願いします」


 きょとんとするレナさんに、

 俺はあわてて了承の意を示した。



 ~~~~~~~~~~


「もし、

 グリズリーの討伐依頼が出ていれば、

 その討伐代もお渡しできたのですけどね・・・」


「いや、

 もう十分すぎる金額ですよ・・・」


 再び、

 ギルドの受付に戻ってきた俺たちは、

 カウンターで金貨の受け渡しを行うところだ。



「では、

 こちらが代金です。

 お確かめください」


 そう言って、

 レナさんは木のトレイにのせた革袋を出してきた。


 はた目には、

 金貨が入っているとは分からない。


 周りの冒険者に見られないように、

 との配慮だろうか・・・。



「ありがとうございます」


 俺は、

 いろんな意味をこめて、

 礼を言った。


 するとレナさんも、


「こちらこそ、

 ご利用ありがとうございました」

 そう言って、

 微笑んでくれた。


 最初に見せたぎこちないスマイルとは、

 全然違って見えた・・・。



「では、

 失礼します」


「あ、バイトさん」


 一礼して帰ろうとする俺を、

 彼女が呼び止める。


「冒険者登録は、

 随時募集中ですので。

 ご興味がありましたら、

 ぜひお声がけくださいね」


「あ、はい・・・」


 俺はどっちつかずの返しをした。


 そのまま、

 彼女に背を向け出ようとする。



(『冒険者』・・・か)


 何もせず、

 静かに逝きたい今の俺には、

 とても似合わない職業だ。


 そもそも、

 俺に合う仕事なんかあるのか・・・。



 あったとしたら、

 それは・・・


(どうしようもなく意味のない仕事だろうな・・・)


 そんな風に思いながら、

 ギルドを出ようとしたその時、


 出口のスイングドアが、

 外から勢いよく開いた。


「っと・・・」

 俺は反射的に後ろによけた。


 すると、

「ああ?

 邪魔だよ」

 と、入ってきた男が言った。


 その後ろには、

 仲間らしい二人の男女がいる。


 この三人は・・・、



「あ?

 何だよ、

 一昨日のガキじゃねえか」

 と、鎧の男が言った。


 相変わらず、

 こちらを見下した高圧的な態度で・・・。


「またギルドに来たのか?

 まさか、

 俺たちに用事じゃないだろうな?」


「もう話は済んだでしょ?

 それとも、

 何か文句でも言いたいわけ?」


 残りの二人、

 弓の男とローブの女も変わらない・・・。


(そうだ、

 俺は・・・)


 また因縁をつけてきたら、

 やってやろうと思っていた・・・。



 ――だが、


「いえ、

 もう帰ります・・・」

 俺は何もせず、

 彼らに背を向け、

 ギルドを出ようとした。


 俺は今回、

 レナさんや解体屋さん、

 ギルドの人たちに世話になった。


 そのギルドで、

 自分勝手にやってしまうのは、

 何か駄目だと思ったからだ・・・。



 なのに・・・、


「無視すんなよ」


 ドン、と、

 俺は背後から、

 鎧の男に蹴られたようだ。


 重心を崩した俺は、

 横に転び、

 ギルドの床に倒れこんでしまう。


 ギルド中が、

 ザワザワと騒ぎ出す。



 その時、


「あなた方、何してるんですか!」


 受付のレナさんが、

 カウンターを出てこっちにやって来た。


「お客様にからむのはやめてください!

 こんな事・・・、

 冒険者として恥ずかしくないんですか!?」

 そう言って、

 俺をかばうように三人の前に立つ。


「あ?

 新人職員はすっこんでろよ」

 と、鎧の男がレナさんをにらむ。



 それを見て俺は、


(まずい・・・)

 と思った。


 このままでは、

 三人のヘイトが俺から彼女に変わってしまう・・・。


(俺が原因で、

 レナさんに迷惑がかかって・・・)


『自分のせいで、

 世話になった人が苦労する』・・・。


 それは、

 俺にとって、

 大変なストレスを感じるものだ。



 俺は、


「『麻痺魔法パラライズ』」

 と、三人を撃った。


 ジジ・・・と、

 電球の導火線を押しつぶしたような音と共に、

 強烈な痺れが彼らの全身を襲う・・・。


「ぐあっ・・・」


「な・・・」


「きょぺっ・・・」


 三人はそのまま、

 ギルドの床に倒れ、

 そのまま動けずにいる。



「おい、今の・・・」


「あの坊主の魔法か?」


「あの三人が、

 あんなにあっさり・・・」


 などと、

 周りの冒険者たちも騒ぎ出す。


 その様を見たレナさんは、

 驚いたように、


「バイトさん・・・」

 と、俺のほうを見た。



 俺は、


「お騒がせしました・・・」

 と、頭を下げてその場を去る事にした。


 床でもがいている彼ら三人を踏みつけてみせながら・・・。


「てめ・・・」


「この・・・」


「ぎぃっ・・・」


 指一本動かせない彼らは、

 目線だけを俺にぶつけてきた。



(これでいい・・・)


 これで、

 三人の怒りは完全に俺を向いた。


 これで、

 レナさんを巻き込まずにすむ。



(あとはこのまま・・・)


 俺が、

 二度と来なければいい・・・。


 スイングドアを開け外に出る時、

 後ろから、


「バイトさんっ・・・!」

 と、レナさんの呼び止めるような声が聴こえたが、

 俺は振り返らずに、

 そのままギルドを後にした・・・。



【残り3587日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 ??は語る・・・。


「慕っている上の人が、

 自分のミスのせいで仕事が増えたりすると、

 いたたまれない気持ちになりますよね。


 どうか皆さん、

 そんな矮小わいしょうだったあの人のために、

 

 作品の『フォロー』はもちろん、

 下にある☆や『ハートのマーク』も押してください・・・」
























  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る