第13話 はい・・・

 ~~~~~~~~~~~


「それではバイト様、

 明後日にまたギルドにお越しいただけますか」


 解体所から再びギルド待合室に戻り、

 俺はカウンター越しに、

 レナさんから話を聞いている。


「え、

 今日は肉をもらえないのですか?」

 俺がそう尋ねると、


「申し訳ありません。

 大型の別途解体手間費用や、素材の買い取り価格を計算するために、

 お肉のほうも解体した重量等を記録する必要があるのです」


 というレナさんの答えだが、

 はっきり言ってチンプンカンプンだ。


 そんな俺たちのやり取りを冒険者たちが、

 小声で何か言いながら注視している。



「明後日お越しの際、

 このカードをご提示ください」


 そう言って、

 レナさんはカウンターに、

 俺が門兵から受け取ったようなカードを置いた。


(マックの番号札みたいなものか・・・)



「はい。

 よろしくお願いします」


 俺はお辞儀してカードを受け取り、

 帰ろうと後ろを振り向くと、

 サッと冒険者たちが道を空ける。


「あ、すみません・・・」


 俺は、

 反射的に謝ってしまう。



(ああもう!

 早く出よう・・・!)


 俺は、

『話しかけないで』という雰囲気を全開にして、

 速足で出口に向かう。


 そのせいか、

 声をかける者はいなかった。


 そのまま、

 スイング式のドアを押して外へと出た。


 街の広場と、

 日差しできらめく噴水が、

 俺の緊張を解いていく・・・。


「無事終了・・・」

 そうつぶやいた・・・。


 さてと、

自宅空間ホーム』のドアを出すために、

 どこか人気のない場所を探さないと・・・



 ――と、その時、


「おい、お前」

 と、声がした。


 見ると、

 ギルド建物の陰から、

 三人の男女が現れた。


 剣を帯びた鎧の男。


 弓を背負ったマントの青年。


 そして、

 杖を持った三角帽子にローブの女。



(あれ、

 どこかで見たような・・・)


 そうだ、

 検問で目が合った三人だ。


 ギルドのそばにいるという事は、

 やっぱりここの冒険者なのか・・・?



「話がある。

 ちょっと顔貸せ」

 と、鎧の男が言ってきた。


 どう考えても、

 友好的な態度ではない・・・。


(昭和のヤンキーかよ・・・)



 俺は警戒して、


「どういったご用件でしょうか?」

 と、聞いてみる。


 すると、

 男は気分を害したのか、


「うるせえな。

 いいから、大人しく付いてこればいいんだよ」

 と、恫喝どうかつまがいのセリフを吐いた。



 そのせいで思い出す・・・。


 前世の学生時代、

 上級生の男子生徒に、

 こんな風に凄まれて・・・。


(トイレで腹を殴られたり、

 顔を蹴られたり・・・。

 俺はただ泣き寝入って・・・)


 記憶のフラッシュバックが、

 俺を萎縮させる。



「おい、

 聴いてんのかよ!」


 男がさらに、

 声を荒げる。



 返事ができない・・・。


 声が出ない・・・。


 一体いつからだろう・・・。


 誰かに高圧的に迫られると、

 こんな風になって・・・。


 頭の先がしびれる感覚がして、

 目の前が真っ暗になる・・・。



 ――俺は意識が遠のいて、

 その場に倒れこんでしまったらしい。


 思考が定まらない暗闇の中、

 どこか遠くから声が聴こえる。


「何だよおい?

 真っ青な顔してるぞ、こいつ・・・」


「おい、起きろ!

 俺たちの話を聞け!」


「寝たふりなんかしてるんじゃないわよ!

 さっさと来なさいっての!」


 何か、

 自分の身体が引きずられているようだ・・・。




 ~~~~~~~~~~


 気が付くと、

 俺は路地裏らしき物陰に転がされていて、

 目の前には先ほどの三人がいて、

 こっちを見下ろしている。


 鎧の男が剣を抜いて、

 俺の喉元に突きつけた。


 そのまま、

 三人は言ってきた。


「いいか?

 お前がこの前ほったらかしにした『赤頭鬼レッドキャップ』だけどな?」


「あとで俺たちが始末しておいた。

 だから、

 あれは俺たちが討伐したものだ」


「ギルドにもそう報告してあるんだから。

 今さら余計な事言うんじゃないわよ!」



(・・・・・・)


 もう貧血は起きない。


 ショックのピークは過ぎたようだ。


 だが、

 訳がわからない。


『レッドキャップ』?


 この三人は、

 いったい何の話をしているんだ・・・?


 だが俺は、


「はい・・・」

 と返事をした。


 すると、

 三人は満足げな顔になり、

 男も剣を引いた。


「ならいい。

 ま、お前が俺たちの獲物を横取りしようとした事は堪忍してやるよ」


「そうだな。

 本当なら依頼の邪魔は罰金ものなんだが・・・」


「その素直さに免じて許してあげるわ。

 ――ああ、それと・・・」


 そう言って女は、

 俺の腰に付けたポシェットを開け、


「あなたと話をするために、

 わたし達は魔狼討伐の依頼を中断して来たの。

 手間賃として少しもらっておくわね」

 そう言って、

 中の金を鷲掴わしづかんだ。



 俺はただ、


「はい・・・」

 と、返事をするだけだった・・・。



 そんな俺の態度に、

 他の二人は馬鹿にしたように、


「フン、情けねえガキだ。

 本当にこいつだったのか?」


「どっちでもいいさ。

 こんな雑魚に、

 これ以上かかわる必要はない」


 と言った。



 そして三人は、

 もう話は終わったのか、

 こちらを振り返りもせず、

 表通りへと戻っていった。



「・・・・・・」


 何が何だか分からなかった。


 だが、


「疲れた・・・」


 そしてそれ以上に、

 みじめだった・・・。


 だが、

 泣こうとしても涙は出ない。


 男の剣が軽く刺さっていたのか、

 代わりのように喉元から血が伝った・・・。




【残り3589日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 ??は語る・・・。


「無気力に年を重ねると、

 涙も出なくなるのですね。


 皆さんは最近、

 ちゃんと泣くことができていますか?

 

 どうか泣けない彼を白い目で見たりせず、

 

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