第12話 無気力なだけで無欲ではなし

 ~~~~~~~~~~~~


 ギルド内のざわつきは、

 なかなか収まらない。


 冒険者たちは皆、

 熊の魔獣を出した俺に、

 注目の視線を向けている・・・。



「それで、

 解体のほうは?」


「は、はい!

 えっと・・・」


 俺が質問すると、

 受付の彼女はしどろもどろになってしまった。


 何か、

 申し訳ない気分になってしまう・・・。



 すると、

 その横にいた別の受付が、


「レナ、

 お客様を解体所までご案内して」

 と、彼女に指示してくれた。


 言われた彼女、

 レナさんは、


「は、はい!

 あの、どうぞこちらへ・・・」

 と、カウンターを出て、

 俺を案内する事になった。


 冒険者たちの視線を背に、

 俺は彼女についていった。


 背後から、

 冒険者たちのひそひそ声が聴こえる。



「あれって、

 B級レベルの魔獣だよな・・・」


「あんなガキが、

 一人で仕留めたってのかよ・・・」


「今うちのギルドで、

 あれを倒せる冒険者っているか?」


「あのレッドキャップを倒した三人でも、

 難しいんじゃないのか・・・」




 ――俺は、

 受付のレナさんと共に、

 カウンター横の扉を開け、

 いったん外に出てギルドの裏に回る。


 そこには、

 立方体型の石造りの建物があった。


(鍛冶屋の工房というイメージだな・・・)



 中に入ると、

 ひんやりと涼しい空気が俺を包んだ。


 まるで冷房でも点けているように・・・


 俺は思わず、

 エアコンがないか見回してしまった。


 もちろん、

 そんなものは見当たらない・・・。


(どういうカラクリなんだか・・・)



 そして、

 目の前では解体の担当らしき男たちが、

 もくもくと作業に勤しんでいる。


 出刃包丁のような刃物で、

 次々に角の生えたウサギの皮を剥ぐ者。


 数人がかりで、

 赤いイノシシを地下に運ぶ者。


 馬鹿でかい砥石といしを使って、

 これまたカジキマグロ並に巨大な包丁をいでいる者。


 皆集中しているのか、

 俺たちのほうを見向きもしない。



「すみませ~ん!

 追加で解体をお願いしま~す!」


 職員のレナさんが声をかけると、

 ようやく何人かが目を向けてくれた。



 包丁を砥いでいた男が手を止め、


「魔獣の種類とサイズは?」

 と、俺に向かって聞いてきた。


(さっきは、

 いきなり『収納空間ストレージ』から魔獣を出したから、

 騒ぎになってしまったんだ・・・)


 今度は間違えないように・・・。


「熊の姿をした魔獣で、

 たぶん『グリズリー』という名前です。

 サイズは・・・、

 あのイノシシの三倍くらいかな」


 俺はそう言って、

 地下に運ばれようとしている魔獣を指さした。



(これでよし・・・)


 ちゃんと昨日のうちに、

『魔物図鑑』で名前も調べてきたのだ。


(これなら、

 さっきのように騒ぎになったり・・・)

 しない・・・よな?



 だが、

 騒ぎにはならない代わりに、

 解体の男たちは、

 疑わしげな眼で俺を見てきた。


「それで、

 そのグリズリーはどこにあるんだ?」


「あの、

 とりあえず地下でお願いできますか?

 お見せしたほうが早いと思いますので・・・」


 レナさんのその言葉に、

 男たちが『?』という顔をしている。


(まあ、

 もっともな反応だよな・・・)



 それでも男たちは、

 レナさんに従って、

 一緒に地下へと下りていく。


 部屋の温度が、

 また一つ下がっていくのを感じる。


 ちなみに、

 地下の解体場は、

 一階よりすごかった・・・。


 地下では、

 大型の獲物を専門で解体しているらしく、

 四肢を切り分けられたり、

 皮を剥がされたり、

 腹を裂かれハラワタを引きずりだされたりしている巨大な魔獣たち・・・。


 壁には、

 フックでつるされた巨大な肉のカタマリが並び、

 床には魔獣の血と臓物が飛び散り、

 なかなか凄惨な光景だ・・・。


(今日の食事は野菜だけにしよう・・・)


 口元を抑えながら、

 俺は胃のムカつきをおぼえた・・・オエ~。


 

 だが以外にも、

 レナさんのほうは平気な顔で、


「一番大きなテーブルを空けてください」

 と、男たちに指示してくれている。


 そして、

 俺のほうを向き、


「えっと、お客様・・・」


「あ、バイトです」


「バイト様、ですね。

 このテーブルの上にお願いできますか?」


 そう示してきた。



「はい」


 俺は言われた通り、

収納空間ストレージ』の亜空間から魔獣を出して、

 テーブルの上に置いた。


 同時に、


「うおっ!!」


「すげえ!!」


「マジかよ・・・」


 と、男たちが驚嘆の声を上げる。


 それでも、

 ギルド待合室よりも騒がれずに済んだが・・・。



「それでバイト様、

 解体について、何かご希望はございますか?」


「なるべく、

 綺麗に解体してほしいのです。

 それと、

 肉は食べるために持って帰りたいのですが・・・」


 俺がレナさんにそう言うと、



「言われなくても、

 乱暴には扱わねえよ」


「ああ、

 これは丸ごと毛皮をはがないとな・・・」


「こんな毛並みのいい魔獣なんて、

 見た事ないぜ・・・」


 男たちは、

 その毛皮のつややかさに感動しているようだ。



(『浄化』の魔法をかけておいて良かった~・・・)


 これは、

 食料の補充だけでなく、

 結構な臨時収入になるのでは・・・。


 俺は、

 交番に届けた財布のお礼をもらう時のように、

 ひそかな期待をしたのだった・・・。



【残り3589日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 女神は語る・・・。


「どんなに無気力な人でも、


 予期せぬ収入には、

 高揚する気持ちを抑えられないものですね。


 皆さんだってそうなのですから、


 どうか彼を白い目で見たりせず、

 レビューはもちろん、

 下にある☆や『ハート』も押してくださいね」










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る