第9話 腹の汚物も問題なし

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 転生する時、

 女神様は俺に言った。


「『痛覚』を失う分、

 他の感覚を鋭くしてあげます」

 と・・・。


 それは五感だけでなく、

 いわゆる第六感も含まれていたようだ。


 その第六感が言っているのだ。


 目の前の熊はヤバイ・・・と。



「コッフコッフ・・・」


 漫画『流れ星銀』にでも登場しそうな、

 巨大で凶悪な赤黒い熊は、

 どう見てもただの野生動物ではない。


(魔物・・・魔獣か?)


 熊の魔獣という事以外、

 名前も力も習性も分からない。


(こんな事なら、

 もっとしっかり『魔物図鑑』を観ておくんだった・・・)


『ちゃんと勉強しないと、

 あとで後悔するわよ』

 なんて、前世でよく耳にしたセリフが頭をよぎる。



「ドルル・・・」


「・・・・・・」


 相手は牙をむいてうなっている。


 膨れ上がる殺気が目に見えるようだ。



(逃げられない・・・やるしかない・・・)


 だが、

 腰のショートソードでの攻撃は危険すぎる。


 相手は四つ足でも、

 既に俺より目線が高い。


 こちらの刃が届く距離は、

 相手の距離でもあるのだ。



「ゴアアーッ!!!!」


 敵は、

 それ以上の思考を許してはくれなかった。


 いきなり前足を振り上げ、

 俺の倍近い背丈になったかと思うと、

 そのままこちらに向かって突っ込んできた!


「うぁっ!」


 間一髪!


 俺は横に跳んでよける。


 敵の振り回した爪は、

 俺がいたすぐ後ろの樹をなぎ倒した。


(なんて破壊力だ・・・!)


 プロレスラーのウエスト並みの太さがあった幹をいとも簡単に・・・。



 これはもう、

 距離を取って『飛び道具』で攻撃するしかない。



(魔法だ・・・)


 俺は、

『ホーム』の部屋で練習した攻撃魔法に懸けた。



(『魔法はイメージ』・・・)


 前世で読んだ、

 ファンタジーものの漫画に出てきたセリフに感化され、

 創り上げたオリジナルの魔法・・・。


(『風魔法エア』で創った弾丸タマを『火炎魔法ファイヤー』で加速させ放つ・・・)


 そう・・・、

 まるで拳銃の弾丸のように・・・。



「ゴアァーッ!!!!」


 再び敵が向かってきた!


 俺は右手で、

 ごっこ遊びでやるようなピストルの形をつくり、

 その指先を敵に向けた。


 そして、


「『バン』」

 と、唱えた。


 瞬間、

 俺の指先から、

 圧縮された空気の弾丸が高速で発射された。


 弾丸はまっすぐ、

 敵の胸元に吸い込まれ、

 背中から突き抜けた。


 敵は、

 突進してきた勢いのまま、

 そのままヘッドスライディングよろしく、

 前のめりに崩れ落ちた。



「ゴ・・・ァ・・・?」


『何が起きたのか?


 何故・・・体が動かないのか?


 何故・・・何も・・・見えない・・・のか?


 何故・・・・・・』


 そのまま敵は・・・、

 魔獣は死んだ。


 おそらく最期の瞬間まで、

 自分が何をされたのか分からないまま・・・。



 ――俺は、

 動かなくなった魔獣に近づき、


「『バン』」


 念のためその眉間に向かって、

 もう一発発射した。


 頭部を撃たれても、

 その体には何の反応もない。


 どうやら、

 ちゃんと死んでいるようだ・・・。



「疲れた・・・」


 一気に気が抜けた俺は、

 そのまま土の上に座り込んでしまった。



 それにしても・・・、


(まさか、

 あんな威力があるとは・・・)


 前世の拳銃をイメージして、

 練り上げた攻撃魔法・・・。



空気銃エアピストル』。



『ホーム』で練習していた時は、

 部屋の壁に傷一つ作れなかったのに・・・。


 まあ、

 その後自分の左手に押し当てて撃った時は、

 手首から上が消し飛んでいたが・・・。


(あの時は、

 回復できて本当に良かったな・・・)


回復魔法ヒール』で無事に再生してくれた左手を見ながら、

 俺はしみじみと思った。



(それにしても・・・)


 チンコと金玉の代わりにもらった、

 この魔法の才能・・・。


(こっちの『銃』のほうが、

 よっぽど役に立つよ・・・)



 ~~~~~~~~~~~~~~~~



「さてと・・・」


 狩りが終わった以上、

 いつまでもここにいる事はない。


 俺は魔獣の死体に向かって、


「『浄化魔法ピュリファイ』」

 と、唱えた。


 たちまち、

 流れ出た血が洗い流され、

 毛皮もまるで、

 シャンプーに加えトリートメントでもしたかのようにツヤツヤになる。



 俺はそのまま、

 今度は体の内部を綺麗にするイメージで、

浄化魔法ピュリファイ』をかける。


(これで、

 中の汚物も消えたはずだ・・・)


 そう、

 ゲロもウンコも老廃物も・・・。


 実際これは、

 自分にかけて実証済みだ。


 その証拠に俺は、

 異世界に来てから一度もトイレに行っていない・・・!



 つまり、

 この『浄化』の魔法があれば、

 実に快適に獲物の解体ができるのだ。


 俺はさっそく、

 ショートソードを抜いて、

 魔獣の解体を・・・


「・・・・・・」


 切り方が分からない・・・。


 いや、

 テキトーに斬ろうと思えばできるかも知れないが・・・。



(死体を雑には扱いたくないよな・・・)


 出来れば、

 肉だけうまく切り取って、

 毛皮はちゃんと綺麗に残して・・・。


「・・・・・・」


 だが、

 俺にそんな技術はない。


 間違いなく、

 スプラッター映画に出てくるような代物が出来上がってしまうだろう・・・。



(やっぱり・・・、

 解体してもらうしかないのか?)


 街へ行って、

 他の誰かに・・・。



【残り3590日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 女神は語る・・・。


「哺乳類の死体を切り刻む・・・、


 専門の方でもない限り抵抗がありますよね。


 銃で撃ち殺すのはできるのに・・・。


 そんな彼を労わる意味もこめて、


 レビューはもちろん、

 どうか下にある

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