第8話 自然の中では、ジャンクフードも体に良い

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「いってきます・・・」

 そう言って、俺は玄関のドアを開けた。


『ホーム』から出ると、

 目の前にはあの時と同じ、

 平原とその先に森があり、

 反対側には街道と街が見える。



(良かった・・・)


 周りには誰もいないようだ。


 何もない空間にいきなり外枠付きの扉が現れて、

 しかもそこから人が出てきたら、

 たちまち大騒ぎだろう。


『ホーム』と行き来するドアは、

 扉を閉めるとフッと消えた。



(さて・・・)


 俺は森に向かった。


 もちろん、

 食用の獲物を狩るためだ。



 街へ行けば、

 もっと安全に食べ物が手に入るかもしれない。


 お金も、

 女神様がくれた貨幣がある。



 だが、

 まだ俺は異世界の人間と会う気になれなかった。


 海外旅行の観光とはわけが違うのだ。



(剣と魔法のファンタジー世界といえば、

 そう・・・)


 乱暴なゴロツキ、

 横柄な貴族、

 理不尽な無礼うち・・・


 とにかく悪いイメージばかりが、

 俺の頭を駆け巡る。


 もちろん、

 狩りにも危険が伴うのは分かっている。


 だが、

 それでも俺は、



(どうせ傷つくなら、

 物理的なものだけにしたい・・・)

 そのほうがずっとマシだと思うのだ。


 幸い『痛覚』もないし・・・。




 ~~~~~~~~~~~~~


 森の中は静かだった。


 獣道けものみちに入っているはずなのに、

 なかなか魔物の気配を感じない。


 クマさんに出会うこともない・・・。



 何というか、

 拍子抜けだ。


 もっとRPGのエンカウント並みに、

 魔物と遭遇するのかと思いきや・・・、



(あの時のゴブリンは、

 たまたまだったのか・・・)


 異世界に来てすぐ魔物に襲われたせいで、

 どうも実際より物騒なイメージを持ってしまっていたようだ。


 警戒し過ぎだったか・・・。


(こんなに綺麗な森なのに・・・)



 少し安心した俺は、

 そこで休憩をとる事にした。


 草むらの上に腰を下ろし、

 目の前の空間を見つめ、


「『ストレージ』」

 と唱えた。


 途端に、

 目の前にドミノピザ大の黒い渦のようなものが広がる。


 これは亜空間だ。


 俺はその渦に手を入れ、

 中から水筒を


 この水筒は、

『ホーム』の台所にあったのを、

 あらかじめこの亜空間に入れてきたものだ。



 これが、

『ホーム』と同じく女神様からもらった『恩恵ギフト』、


『ストレージ』だ。


 いつでもどこでも、

 この亜空間を開いて物の出し入れができる。


 ドラえもんのポケットみたいな『恩恵ギフト』だ。


 ちなみに中に入れたものは、

 時間の経過が止まり、

 まったく変化がない。


 おやつ用に入れてきたガリガリ君コーラ味も、

『ストレージ』の中で凍ったまま収納されている。



 俺は水筒の水をコップに注ぎ、

 一息に飲み干した。


(美味い・・・)


 身体にしみわたるようだ。


 と、同時に小腹も空いてきた。


 俺は再び、

『ストレージ』を出し、

 中から割りばしとカップヌードルを取り出した。


 カップヌードルは、

 お湯を入れ三分たったところで収納したので、

 既に出来上がりの状態だ。


 閉じた紙蓋から、

 湯気がのぞいている。



「いただきます・・・」

 そう言って、俺は蓋を取った。


 途端に、

 食欲をそそる美味そうなにおいが辺りに立ち込める。


 俺は、

 割りばしを割って麺をすすった。


(美味い・・・!)


 前世でよく、

 夜更かししている深夜に食べたカップ麺・・・。


 あの時よりずっと美味く、

 しかも健康的に感じる。


(『自然の中では、

 ジャンクフードも体に良い』・・・)



 ――一気に食い終わってしまった・・・。


 麺を食べ終え、

 最後に底に沈んだ具のカスをスープと共に飲み干そうとする。



「コッフコッフ・・・」


 突然、

 奇妙な声が聴こえた。


「え!?」


 食事に集中していた俺は、

 驚いて思わずカップを落としてしまった。


 無情にも、

 最後の楽しみだったスープが地面にこぼれる・・・。


 そして、

 においに釣られてきたのか、

 俺の目の前には、

 一匹の巨大な熊がいた。


 俺は思わずつぶやいた・・・。


「クマさんに出遭った・・・」



【残り3590日・・・】





 ♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦



 ??は語る・・・。


「底に沈んだ具のカスをスープと一緒に飲み干す・・・、


 あれこそカップヌードルの醍醐味らしいですね。


 あ、いえ、

 そんな話を聞いただけで私はやった事ありませんけど。


 ええ、本当に・・・。

 

 まあ・・・、

 ほんの少しだけ、

 やってみたくない事もない事でもないですけれど・・・。


 あ、そうそう、

 そういえばですけれど、


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