第5話 探索者登録

 翌朝中々起きて来ないルナを何とか起こし、軽い朝食をとって外出をする。

 「うぅ゛」と人生初の二日酔いに苦しむルナだったが、洋服屋の前で目を輝かせた。


「あまり高い物は買えないけどルナはそのローブしか持ってないから流石にね」


 レームも服は下着以外ほとんど買う事がない上に、女性物の店など行った事がない為連れて行く店に迷ったが、目を輝かせて喜ぶルナに連れて来て良かったと思う。

 幽体から解放されたルナは服を手に取り「可愛い!」と声を上げレームに「似合う?」と一回一回聞いて来たが、私生活では優柔不断な部分もあるレームは何に対しても「あぁ、いいんじゃないかな」くらいしか言えずに頭を掻いた。


 カゴいっぱいの下着や衣類だったが値段の安い物を選んでくれたようで金額も大きくなくレームは内心ほっとする。

 正直そんなに貯金のない三十八歳なのである。

 その場で着替えて残りは魔法鞄に全て収納して店を出た。

 

「ねぇレーム、見て見て」


 ルナの声に振り返ると年季の入った破れもある魔法鞄マジックバックが、今は白に蝶々の模様が浮かぶ可愛らしいデザインに変わっており、肩掛けから腰に付けるポーチへと形も変化していた。


「これが外見変化機能? すごいもんだね」


 レームはまじまじと見ながら感心したように眼を丸くするのであった。 

 その後大通りを進みルナを連れて来たのは探索者ギルドだ。

 レームはいつも通りの左端の受付に並ぶ。

 若い男の探索者の視線をいくつか感じるのはルナの美貌のせいだろうか。


「お早う御座いますレームさん。今日ご案内できるクエストですが...レームさん何かありましたか? すみませんいつもと様子が違う感じがして、では依頼に戻りますが」


 ミナはレームの顔や姿を見て違和感を感じたのか困惑した表情を浮かべたが直ぐに気を取り直し説明に戻る。


「おはようミナ。すまないがクエストよりも先にこの子の登録をお願いしたいのだがいいかい?」


 紙の束から何枚か選ぶミナに物珍しそうに室内を眺めていたルナを呼び紹介する。


「ルナです! 初めまして! 宜しくお願いします!」


「初めましてルナさん。白級受付担当のミナです。宜しくお願いします。それでは一度此方に来て頂けますか?」


「すみません受付変わって下さい」 と他の職員に言付け皆ミナは席を立った。


「なにが始まるの?」


 興味津々のルナにレームは(懐かしいな)と思い浮かべながらルナに説明する。


「簡単な審査と講習を受けるんだ。まぁ行ってみればわかるさ」


 ミナの後をついて行き小部屋に通される。

 部屋に入ると綺麗な薄緑の水晶が真ん中に置かれていた。


「ルナさん。それではこれに触れてもらってもいいですか?」


 ルナはミナに言われた通りに水晶に触れると水晶は淡い光を放ち文字が浮かんだ。

 ミナが持っていたバインダーに水晶に浮かんだ文字を書き写していくが、その顔は徐々に険しい表情に変わる。


「レームさん。ルナさんとお待ちください。少しの間席を外します」


 ミナを見送りルナが心配そうにレームを見てくる。


「私何かしちゃったのかな?」


「この水晶は触れた人の犯罪歴とかスキルを確認する魔道具なんだけどやっぱりこうなったか。なに心配しなくても大丈夫だよ」


 レームの鑑定で「???」の時点でうっすらこうなる気がしていたが、この審査を通らなければ探索者になる事が出来ないので仕方がない。

 ノック音がしてミナが入って来る。


「レームさん、ルナさん。ギルドマスターが呼んでますので来て頂けますか」


 三人は二階に上がった後一つの扉の前で止まり皆がノックをする。

 中から女性の声で「入れ」と聞こえ三人は中に入った。


「久しぶりだなレーム」


「久しぶりだねセシリア、いやギルドマスターと呼んだ方がいいかな」


 紅く長い髪を後ろでまとめ職員の制服に身を包んだ女性が執務室の机に座っていた。

 挨拶を交わす二人はどこかぎこちなく空気が重い。

 ルナは綺麗な人だなと見惚れてしまい呼ばれているのに気付かなかった。


「ルナ。どうかしたのか? この人がレアールの探索者ギルドマスターのセシリアだ」


 ルナは「なんでもない」と取り繕い。


「初めまして! ルナです!」


と自己紹介をする。セシリアは微笑みながら手を差し出した。


「そう固くなる必要はないさ。初めまして、セシリアだ」


 ルナがセシリアの手を両手でしっかりと握るがその手の感触に少し驚いてしまった。


「義手なんだ。驚かせてしまったかな。それではそこに掛けてくれ」


 二人は促されるままにソファーに座り、対面にセシリアが座る。

 皆が三人の前に茶を出して退出した。


「さて、わざわざ来てもらったのは君の水晶の結果について聞きたい事があったからだ。心辺りはあるんだろう? レーム」


 セシリアは確信があるようにレームの瞳を覗き込んだ。


「やはり君には隠し事は出来ないね。少し長くなるけどいいかい?」


「時間ならあるさ」


 

 一通りの説明を終えレームは喉を潤した後一息つく。

 セシリアは険しい顔をしながらなにやら考え込み、ルナは心配そうに二人の顔を交互に見ていた


「まさか『牙鼠の森』にそんな場所があるとはな。確認だがルナ自身は何も記憶はないのだな?」


 神妙に頷くルナにまたもやセシリアは考え込む。


「話は分かった。つまりルナ君は水晶では魂を写す事ができない存在というわけだ。その場所は調査が必要だな。レーム、私をそこに案内出来るか?」


 レームは少し驚いたように、


「ギルドマスターの君が行くのか?」


「百年以上も誰にも発見されなかった迷宮の隠し通路だぞ? 探索者としてはこれ程までに心躍る言葉はあるかい? それとも私とはもう迷宮には入りたくないかい」


 揶揄うように笑いながら話すセシリアの顔はルナには何処か寂しそうに見えた。


「そんなわけないだろう。でもギルドは大丈夫なのか?」


「なに調査だって立派な仕事だろう。数時間席を外してたところでどうこうなる訳でもあるまい。ルナ君、水晶や君自身の事、迷宮の隠し部屋に関しては他言無用で頼む。その代わりではあるが君の登録を認めよう」


ルナの目が大きく見開き


「有難う御座います!」


 と嬉しそうに礼を言った。

 セシリアが呼び鈴を鳴らすと少しして扉がノックされ職員が入って来た。


「君、すまないがこの子を教習に連れていってくれるかい? ルナ、我々は君のような若く有望な新人を心から歓迎する。ようこそ、探索者の世界へ」


「宜しくお願いします!」と元気よく頭を下げルナは職員と一緒に部屋を出て行った。

 二人きりとなった部屋に沈黙が訪れる。


「さてレーム。私に何か言う事があるんじゃないのかい? 君は確か私より三つ程歳が上だったと記憶しているが、随分と若返ったように見える。例の隠し通路で見つけた物は彼女だけではあるまい」


「相変わらず君には隠しごとは出来ないな。とは言え隠すつもりもないしセシリアには全て話すつもりだったさ」


 レームはスキル【鑑定】の事からエリクサー、ルナの魔法鞄の事も全て話した。


「聞いておいてなんだが...私以外にこの事は他言するなよ。迷宮の未踏破区域の発見もそうだがこれは命を狙われかねないぞ」


 少し呆れたような顔をしたセシリアにレームは頭を下げた。

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スキルを貰えなかったおじさん探索者が迷宮を制覇する 蒼彩 @sousai2023

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