第22話 ナルネイの野の戦い
ナルネイの野では、激戦が続いていた。
兵たちの力はほぼ互角で、前線は一進一退を繰り返していたが、それはすなわち兵力で劣る方がじり貧になりつつあることを意味していた。
最後方の馬上で戦況を見守るカザロス・ブランウェンは、渋い表情をしていた。
太陽は中天を過ぎようとしている。ゴブリン王チーグの軍勢が、ハサン軍を背後から急襲する段取りの時間はもう過ぎていた。
カザロスの右となりにいるガルフレッド卿は、苦々しく舌打ちをした。
「……やはりゴブリンどもなど、当てにはならぬ」
「焦るな、ガルフレッド卿」
カザロスを挟んで反対側にいるロンディス卿が注意を促した。まだ先の戦いで受けた傷の包帯が、
前線でひときわ大きな歓声が起こった。
レジナルド・ハサンが最前線に出てきたのだ。戦いに打って出たブランウェン公軍の騎士のひとりが、早くも討ち取られたようであった。
ガルフレッド卿は、部下から
「……俺が、あいつを討ち取れば、あとは烏合の衆だ」
そう言って、許可を求めるようにカザロスの方を向いた。
ロンディス卿がかぶりを振るのを視界の
カザロスはガルフレッド卿を見て、うなずいた。戦場の経験は、ガルフレッド卿の方が上だ。彼が感じる流れを止めない方がいいのかも知れない。
ガルフレッド卿は、彼にしては珍しくカザロスにやや柔らかな笑みを浮かべると、馬の腹を蹴った。
「我が兵は、我に続け!」
ひとり猛獣が草食動物の群れに中を行くかのように、レジナルド・ハサンは暴力的な強さで敵陣を切り進んでいた。
そんな中、緑色の三角旗を掲げた一団が、彼に向かってくることに気づいた。
さて、あの旗は誰のものだっただろうか……
ハサンは一瞬考えを巡らせたが、すぐに興味を失った。誰であろうと、眼前の敵は粉砕するのみ。
敵は何らかの口上を唱え、長い歩兵槍を構えて突進してきた。
鋭い槍さばきであったが、彼はその巨体からは想像もつかない身軽さで半身となってその突きをかわした。返す刀で、敵を一刀両断にする。
「ああ……」
ハサンは敵を真っ二つにしたのちに、思い出した。
「ガルフレッド卿、たしかコヴィニオンいちの槍の使い手だったな」
ハサンは剣の血をはらい、ガルフレッド卿の部下たちに向き直った。
ブランウェン公軍随一の武芸の秀でた騎士が、大人と子どもとの勝負にもならず一撃で葬られたことに、ガルフレッド卿の部下たちは驚愕し、動揺しているようであった。
「さて……」
ハサンは残忍な表情を浮かべて舌なめずりした。
「あとは
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