第6話 夕暮れが示す分岐点
夕刻、
こんもりとした丘がつづら折りに地平線まで続いており、オレンジ色に輝く丘陵の
夕陽を見つめていると、いつも心が落ち着く。
サントエルマの森の生活は、単純だった。
魔法の知識を勉強し、
けれども、外の世界は単純ではない。
彼女がサントエルマの森で
そしてそれが、まさか彼女の人生に深く関わってくることになろうとは。
父であるガラフ・ポーリンは、〈
父も大人だ――家を捨てて十年近くもたてば、誰かと恋をすることもあるのだろう。この年になって、腹違いとはいえ兄弟がいたという事実もうれしくないわけではない。そして魔法に携わる者としての
ただ、それらの事実は、立て続けに津波のように彼女の心を襲い、右へ左へと
人生は単純ではない。思い通りにいかないことがほとんどだ。
それを学び、大人になるときなのかも知れないという思いもあった。
太陽が、西方の丘の稜線に沈む。空に浮かぶ雲が
奇妙な、けれども心地よさもある感覚だった。
「僕が手紙を送っていなければ、姉さんは今もサントエルマの森の中で研究と瞑想の日々を送っていただろう」
カザロスがおもむろに口を開いた。
「僕が手紙を送ったことを、怒っているかい?」
じっとポーリンを見つめる。
ポーリンは小さく苦笑をうかべた。
「……そうかもね」
そう言ってからかぶりを振る。
「けれども、そうでないかも。こんなに混乱したことは、人生ではじめてかも知れない、カザロス公」
「……カザロスと呼んでくれてかまなわい、例え部下のまえでも」
二対の
弟は、姉を必要としているのだ。おそらく、妹が妹らしからぬがゆえに、よりいっそう。
『家族の問題』
カザロスがそういった意味が、今にしてよく理解できた気がした。
ポーリンは視線を外し、太陽が沈んだあとの西の空を見上げた。太陽は姿を消したはずなのに、空がもっとも強く輝く瞬間。黄金のとき。
彼女の心の居心地悪さが、少しなくなったようだった。
「……けれども、私に『家族』がいたことはうれしいわね、カザロス。そして、アドナがどんな子なのかというのも気になる」
カザロスは苦笑いを浮かべた。
「アドナは、姉さんとはだいぶ違うね……」
その言葉は、不吉な響きを含んでいた。
「ときに聞くけど、カザロス。あなたの戦力は、どれくらいなのかしら?」
「……僕についてくれるのは、七人の
そう言ってからくせのある皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「正直なところ、その半分は“いやいや”僕を支持しているというのが実情さ。僕は、大公家唯一の生き残りというだけで、大公家のなかでは下っ端だったからね」
「なるほど……」
ポーリンは
カザロスは続けた。
「対するハサンたちは、傭兵と山賊崩れのならず者たちを中心として、ゴブリン族、オーク族、ホブゴブリン族、ダーク・ドワーフ族、トロール族らの混成軍、少なく見積もって二千人はいる。少数だが、昨日みた、
「圧倒的に、不利というわけね」
「残念ながら……」
カザロスは大きくため息をついた。
ポーリンは弟に改めて向き直り、鳶色の瞳をのぞき込みながら力強くいった。
「わたしは心を決めました。あなたに、二つのことをしてあげましょう、弟よ」
◆◆◆
カザロス・ブランウェンの挿絵:
https://kakuyomu.jp/users/AwajiKoju/news/16818093081099747455
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