第5話 ブランウェン家の宿命

 ブランウェン家は、特別な魔法の力を持つ家系だと言い伝えられている。その力は、祖母から母へ、母から娘へ、ブランウェン家の女子に宿る。ときに男子に魔法の力が伝播でんぱんすることもあるが、あくまでブランウェン家の中心は女性であった。


 コヴィニオン王国は、ブランウェン家の婦女子を守るためにこそ存在しているとさえ言う者もいる。


 しかし近年、ブランウェン家の魔法の力は徐々に衰退していた。それを反映してか、女子の数も少しずつ減り、その血筋の担い手の後継に難渋するようになっていた。


 アドナ・ブランウェン――カザロス・ブランウェンの双子の妹は、ブランウェン家にとって待望の女子であった。


 しかも、たぐいまれなる魔法の力を受け継いでいた……彼女には、ブランウェン家の再興さいこうの期待がかけられていた。


 しかし、それは危険な賭けであることを、多くの人が知ることとなる。


 生まれたときから特別な力を示していたアドナ・ブランウェンであったが、その特別な才能と引き換えなのか、彼女の人間性には、大きな欠落があった。


 アドナ・ブランウェンは、幼いころから狂気にとらわれ、邪悪な道にせられた。「倫理観」や「規則」を理解することができなかった。


 その傾向は、母が病死してからさらに極まった。


 彼女は力を渇望かつぼうした。文字通り、渇いた者が、砂漠で一滴の水を求めてさまようように。そしてその欲求は、魔法のみにとどまらず、政治的な力にも及んだ。


 レジナルド・ハサンをそそのかしたのは、アドナ・ブランウェンだと言われている。


 ハサンの強さは、ならず者たちの強力な軍隊がいることだけではない。それを支える“狂気の魔女“アドナ・ブランウェンの力に寄るところも大きいのである。


 そして今年、アドナは女児を授かった。


 父親が誰かは不明である。しかし、アドナは、生まれたばかりの“ブランウェン家の女子“を、邪悪な儀式に使うのではないかというのがもっぱらの噂でとなっていた。

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