第3話 狂気の暴竜レジナルド・ハサン

 コヴィニオン王国は、アリグナン山脈のふもとにある小さな王国である。数百年まえに、中央平原の戦乱を逃れてこの地へやってきた人々が建国したといわれている。


 国王は、四つの大公家たいこうけから持ち回りで輩出されるという、独特なしきたりとなっている。それを決める権限を持つのは、元老院と、荘園を持つ二十一名の大騎士たちだ。


 そうやって、権力が集中しすぎない仕組みを築き、長きにわたって細々と国家を運営してきた。


 しかし、その安定を、大きく変革しようという人物が現れた。


 ”狂気の暴竜”の異名をとる大男、レジナルド・ハサンである。


 レジナルド・ハサンは、荘園を持つ大騎士ハサン卿の家に生まれた。子どものころからずば抜けた怪力と剣術の腕を持っており、十歳にしてすでに彼を指導できる剣術師範はいなくなったと言われている。その圧倒的な力は、いつしか彼に大きな野心をもたらすこととなった。すなわち、王を”選ぶ”側ではなく、自分が王になるべきだと考えたのである。


 成長して大人となり、次第にその野望を隠そうとしなくなってきたレジナルド・ハサンに、父のハサン卿は恐怖心を抱いた。そして、長い確執かくしつの末に、レジナルド・ハサンは追放されることとなった。


 しかし、ここからが彼の恐ろしい伝説の始まりであった。


 各地を転々とし、数年の浪人生活で金を貯めた彼は、冒険者の街リノンで傭兵ようへいやとい、軍を組織し始めた。はじめは「まっとうな」冒険者が傭兵の中核を担っていたが、粗暴な彼の噂を聞きつけて各地からならず者たちが集まってきた。盗賊や山賊に、人殺しの犯罪者、さらに、ゴブリン族やオーク族、ホブゴブリン族にダーク・ドワーフ族、トロル族たちも……


 強力な軍を組織し〈傭兵王〉となったレジナルド・ハサンは、里帰りして父や一族を殺害。強引にハサン家の領地を引き継いだ。


 さらに力を増したハサンは、コヴィニオン王国の都エルガリアに進軍。


 そこで起きたことは、彼の名を恐怖でいろどり、永遠に語りつがれるものとなった。


 ハサンは王を殺し、大公家の男たちを殺し、女たちを強引にめまけとした。元老院の大多数を殺戮し、刃向はむかってきた大騎士たちの軍を粉砕ふんさい。生き残った数少ない元老院に、無理矢理彼を”王”と認めさせたのである。


 イザヴェル歴462年の春の出来事である。


 かくて、数百年に及ぶコヴィニオン王国の伝統は破壊され、その血統も汚されたのである。


 だが、ただ一人、大公家の”男子”で生き延びた者がいた。


 それが、カザロス・ブランウェンだった。


 ブランウェン家は、四大大公家のひとつだったのである。


 カザロスは、分家の末子であったものの、コヴィニオン王国の伝統を継承する最後の希望となった。


 かくして、生き残った大騎士たちは、カザロス・ブランウェンを担ぎ、抵抗運動を始めた。


 しかし、人ならざる魔物たちをも配下に置くハサンに、ずっと劣勢が続いていた。


 ラザラ・ポーリンがやって来たのは、そんな折りだったのである。



◆◆◆

関連地図再掲と関連作の時系列:

https://kakuyomu.jp/users/AwajiKoju/news/16818093081007440616



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