第319話 目論見通り。ある悔悟と決意。

[まえがき]

全話で100万字超えていました。本作は全336話(106万字)の予定です。最後までよろしくお願いします。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 11月中旬までトマトが収穫でき、12月に入り夏に植えたジャガイモも収穫できた。特に今回の収穫量は多く大量にキューブに収納することができた。

 今回10トンの種芋を植えたのだが収穫量は100トンだった。そのうちの80トンを西方諸国への供与用の種芋としてキューブに収納した。


 これまでのところ西方諸国のうち2カ国がガレアに飲み込まれ、現在3カ国目がガレアの侵攻を受けているとの情報を大使殿から聞いている。現在と言っても2カ月以上前のことなので実際のところは不明だ。

 また、神聖騎士団2万が西方諸国救援のためにハジャルから出発したとの情報をドリスから得ている。

 神聖騎士団というからには馬に乗った騎士が主体の軍だろうから、ガレアといい戦いができるかも知れないが、騎兵数はガレアの方が多いので、そう簡単ではないだろう。俺の予想では8対2でガレアが勝つと見ている。


「エリカはどう思う?」

「そうねー。騎馬同士の戦いってよく分からないんだけど、普通に考えて、2倍の戦力があれば1対1で戦っているところに残った騎兵が機動力を生かして横合いから突っ込んでいけば2倍の戦力の方はほとんど犠牲を出さずに勝つんじゃないかな?」

 ほう。エリカはランチェスターの2乗法則を経験から導き出したようだ。恐るべしわが領軍本部長。

「今の話だと、1対1で戦っているのが単なる陸兵だったら、騎兵が横合いから突っ込んでいけば騎兵の数が陸兵の半分でも楽勝だから、陸兵にある程度の騎兵を同伴させればいいんじゃないかな?」

 今度はドーラだ。諸兵科連合の概念が生まれている。

 今のところ砲兵がないので歩兵、弓兵、騎兵だ。いずれ大砲も作りたいが、硝石がないんだよな。なんちゃら法とかいう化学反応で作りたいけどまだまだ先の話だし。バイオ的なことまでしたくはないし。

 大砲よりライフルの方が凶悪か。ライフルを持った歩兵に今の時代の兵隊は無力だろうし。

 リンガレングがいれば城の破壊は容易だし。

 何であれ火薬がないことには話にならない。リンガレングが前提ならばそもそもそんな装備は不要なことも事実。

 いまは地道に民生品を研究開発してればいい。


 ガレアの進撃がもう少し続いたところで介入してガレアを西方諸国から叩き出して神聖教会の影響力を地に落としたうえで最後のとどめにハジャルにあいさつに行ってもいいかもしれない。俺たちに喧嘩を売ったことを後悔するんだな。

 宗教弾圧というと、通常信者を弾圧するわけだが、これも宗教弾圧なのかね?



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 こちらは神聖教会の聖地ハジャル。


 ガレアにいいようにあしらわれた御子たちが神聖騎士団員と輜重隊の隊員を一人も連れ帰ることなくハジャルに帰還した。


 彼らに先んじて敗戦の報だけは総大主教の耳に届いている。



「……。申し訳ありません」


「ふー」


 戦闘のあらましを金の御子から聞いた総大主教がため息を漏らした。敗戦の報は敗けたということだけで詳しい情報は入っていない。金の御子からの話を聞けば戦いにすらならずガリアにあしらわれただけで騎士団2万とそれに見合う輜重隊を失っただけだ。


 だからといって叱責しても仕方がない。そもそも集団戦の素人の金の御子を名目上でも総大将とした自分の失態だったことは明らかだ。それくらいの理性と分別は持ち合わせている。そうでなければ神聖教会のトップにまで上り詰めてはいない。


「今回のことは残念ではあったが、ご苦労だった。5人ともしっかり休んで次に備えてくれ」

 そう言うしかなかった。


「ありがとうございます」

 そう言って金の御子は総大主教の前から退出した。


 すでに教会の運営に重大な支障が起きている。今回の遠征でその流れを変えたかったができなかった。このままいけば早晩財政難で何もできなくなってしまう。

 焦りたくはないが、焦らなくてはならない状況だ。


 神聖教会の現在の主な資金源は南方諸国に点在する教会施設なのだが、もともとそれほどの集金力はなく、今の状況で布教活動を強化する余力もない。


 宗教は金だ。とまでは言いたくはないが、実際問題神聖教会に所属する者たちを食べさせていかなければならないし、それは総大主教の義務でもある。


 もしあの忌まわしい魔王ライネッケが再度来寇してハジャルを破壊すれば神聖協会は崩壊することも十分あり得る。


 総大主教はそのことを考えて身震いした。


 後日分かったことだが、魔王ライネッケによるハジャル襲撃は、赤の御子がツェントルムという魔王ライネッケの本拠地に乗り込んでライネッケの殺害を企てたことが引き金だったようだ。

 こちらに明らかな非があったわけだが、あのハジャル襲撃は明らかにやり過ぎであろう。

 こと、ここに至ってはもはや手打ちなどできず、できたとしても教会への批判は高まるだろう。何せ魔王ライネッケをたおせと神聖教会じぶんが使嗾した結果、西方諸国で20万もの兵が失われたわけだから。そのこともありガリアの侵攻に抗する力が大きく削がれたことも事実なのだから。


 打つ手打つ手が裏目に出る。


 蹉跌さてつはどこで始まったのか? ヨーネフリッツのヨルマン2世、当時はまだタダの王子だったが、彼を王につけ、彼を通してヨーネフリッツを牛耳ろうと画策したことが全ての始まりだった。いや、その過程でエドモンド・ライネッケをヨーネフリッツの中央から排除しようとしたことが最大の原因か。

 今から思えば、エドモンド・ライネッケこそ取り込むべき相手だった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 総大主教に西方での敗北の報告を終えた金の御子は宿舎に帰り、白の御子を呼んだ。

「総大主教殿に報告をしてきた。しっかり休んで次に備えろ。とのことだった」

「叱責はなかった。と?」

「なかった。叱責してどうなるわけでもないしな」

「確かに」

「とはいえ、この汚名はすすがなければならないのは確かだ」

「どのように?」

「魔王ライネッケの本拠地に出向いてヤツをたおす」

「可能でしょうか?」

「今まで分かっていることは、ヤツのカラクリグモはおそらくわれらではたおせないということと、ヤツの眷属の中ではペラ・セラフィムというのが別格ということだ」

「つまり?」

「カラクリグモと魔王ライネッケを切り離し、そのすきに魔王を討つ」

「どうやってカラクリグモと魔王を引き離すのですか?」

「それについては、いい手がある。ヤツの根拠地に着いてから話す」

「了解しました。3人には今の話はしないでいいんですか?」

「わたしの方から話すからお前はこの件について3人に何も話すな」

「了解です」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 それから1カ月後。神聖騎士団2万が無傷のままガレアに降伏したとの報がフリシアにもたらされ、さらにその1カ月後、その情報はツェントルムのもとに届けられた。しかしその情報には5人の御子に関する情報は含まれていなかった。


「神聖騎士団って全部でどれくらいいたのかな?」

「確か、3万ほどだったような」

「そのうち2万が降伏だって。しかも無傷のままって。笑っちゃうわよね」

「神聖騎士団がどこかの田舎領主の領兵程度の強さだったのか? それともガレアの兵士が想像以上に強かったのか? それが問題だ」

「エド、リンガレングの前じゃ少々の強さなんて無意味なんだから、問題って程じゃないでしょ?」

「まあな」



[あとがき]

次回作は異世界ファンタジー『魔王になるかも?』の予定です。1日1話投稿になります。内容などは近況ノート(https://kakuyomu.jp/users/wahaha7/news)をご覧ください。

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