第320話 ガレア戦
年が明けた。明けましておめでとう。
年末年始の休みをまったり温泉保養所で過ごしてしまった。ふやけるほど風呂に入ったのだが実際のところふやけなかった。
身も心もリフレッシュした俺はそろそろ西方諸国からガレアを叩き出し、ガレアから救うという建前のため出撃することにした。
情報は2カ月以上遅れているので、俺の見たてでは、西方諸国の3つ目の国はすでにガレアに飲み込まれており、ガレアは4つ目の国に侵入している。
もう少し近くまでガレアに来ていて欲しかったのだが、見積もり以上にガレアの侵攻速度が遅い。というか遅くなってきている。いわゆる攻勢限界点に到達したのだろうか? それならそれで、叩き出すのが容易になるだけだ。
大使殿を通じてフリシアから西方諸国の大まかな街道地図も手に入れており、道中迷うことはなさそうだ。
手に入れた地図はもちろん正確にはみえなかったが、それでも距離的な見当はだいたいつく。
ツェントルムから西方諸国の最西端までの距離を6000キロほどだった。ウーマで9日弱かかる。10日もかからず到達する距離だ。
出撃予定日は1月末日。途中でガレアの情報を拾ったりジャガイモを渡したりすることを考えても留守にするのは長くとも1カ月日。それで片を付ける。
準備ともいえない準備を終え、俺たちを乗せたウーマは予定日の早朝ツェントルムを出発した。
今回の出撃に大使殿も同行したいとのことだったので同行を許した。大使殿の武官ルーカス・シュミットとハンナ・クラインの二名も同行している。文官二名は残念そうな顔をしていたがフリシア公館に責任者不在ではマズいものな。
移動中、料理以外何もすることがなかったので、何となくキューブの中のものを意識の中で見ていたのだが、ライトサーベル化したバトンが気になった。
それでキューブから出して見てみたのだが、あの眩しい七色の光は消えタダのバトンになっていた。
結局何だったのか分からなかったが、どこで何が起こるか分からないバトンなので以前のようにバトン入れに突っ込んで剣帯に吊るしておくことにした。
ウーマでの移動はもちろん順調で、3日目の未明にはフリシアの都フリシアンの例の橋を渡った。
大使殿に
一言もなく通過するのもアレかと思い、これから西に向かってガレアを西の海に蹴落としてくると書簡にしたため、橋を警備していた兵士に王さまに渡してくれるよう手渡しておいた。
ウーマは西進を続けその日の深夜。名目上俺の領地を超えてフリシアの西隣りの国に越境した。
前回の殲滅戦の関係で敵国ではあるが、何の抵抗もないままウーマは街道を西進を続けた。
ヨーネフリッツ国内では以前から街道上はウーマ優先が徹底されているのだが、フリシアでもそんな感じだった。
フリシアの隣りの国ではそういった配慮を期待していなかったが、ウーマを見たとたんに荷馬車も通行人も道から外れるので邪魔にはならなかった。
見方を変えればウーマはとんでもない邪魔ものだったと思う。ただ、街道上の人も馬車も避難民という感じではなかった。
日が上りしばらくしたところでケイちゃんがウーマを降りて道の傍で固まっていた現地人にガレアの侵攻について聞いたところ、そういった話は何も聞いていないとのことだった。
この国にはまだガレアが侵入していないのか、それともそういった話が伝わってきていないのかは不明だ。
そこから先は、数百キロ進むごとにウーマを停止してケイちゃんが身をすくませる現地人にガレアの動向を聞いていった。
夕方、スリットから前方を見たらウーマはその国の王都に近づいたらしく、多数の兵隊たち道をふさいでいるのが見えた。無視して進んでいたら兵隊たちはかなり早い段階で逃げ散ってしまった。
ガレア強し。との情報はあったが、実際は西方諸国弱しではないか?
「逃げるのは仕方ないにしても、逃げ方ってあるんじゃないかな?
あんな形で逃げちゃ、後で集合するのも難しくなって部隊の再結集に手間取るでしょうに」と、エリカの辛口批評。
ご説ごもっとも。
敵わぬまでも、一当たりするくらいの気持ちは大事だ。ただ逃げ散っていては何の情報も持ち帰れないもの。
とはいえ、先ほどの兵隊たちはリンガレングによってやる気のある兵隊を皆殺しにされたあとの兵隊たちなので一方的な評価は酷だったかもしれない。
敵国とはいえ、無辜の住人を交通事故に巻き込みたくはなかったのでウーマは王都を横断する代わりに王都をバイパスして畑と林を抜けてその先の街道に出た。畑はおそらく麦畑だったと思うが、ウーマの足で踏みつぶされた畑の麦はダメになったと思う。いちおう相手は敵国だし、そのくらいのことは無問題。運が良ければ、麦踏されて元気な麦になるかもしれないし。
翌日。
ウーマは次の国に入って街道上を西進している。
そう言えば、通常なら東に向けて非難する人や荷馬車に遭遇しそうなものだが、今のところそういった連中に遭っていない。
逃げる間もなく街が囲まれてしまうのか? 今ウーマが進んでいるような主要な街道はガレアによって塞がれているのか?
おそらく後者だろうな。逃げるならライネッケ領まで逃げてくれてそのままうちの領民になってくれてもいいんだが、ちょっと遠いよな。
などと考えていたら、ちゃんと街道を避難民らしきものや荷車や荷馬車がウーマ東に向かって街道を進んでくるところに出会った。
彼らはウーマを視認したとたん、街道から外れて逃げようとするのだが、道から外れるところで無理をした荷馬車が車輪を外していた。済まんね。
さらに西進を続けていたら、街道の通行が無くなってきた。
そして昼頃。
敵の斥候と思われる騎兵に遭遇した。ペラに言って処分してもよかったが放っておいた。ウーマのことを多少は知っているかもしれないが、おそらく何も知らないだろう。ということは謎のモンスターが街道を移動していたと斥候は本部?に報告するハズだ。
全力で待ち構えていてくれれば、それはそれでありがたいのだが、果たしてどうなるか?
そこから30分ほど進んでその先に無数のテントが見えてきた。おそらくガレアの滞陣用テントだろう。その先には彼らに包囲された地方の有力都市があるはず。残念なことに大使殿からもらった地図には都市の名まえは書いていなかった。
かれらの陣地には騎乗する兵士の他、多数の兵士がいるのが遠望できたがどうもウーマを待ち構えてくれていないように見える。さっきの斥候はちゃんと仕事していなかった?
いや、ウーマに備えてこちらに向けて横並びになって陣形を作りつつあるようだ。
人の壁でウーマをどうこうできるわけないのだが、ガレアから見ればただの大型モンスターに見えたのだろう。
昨日見た兵隊たちに比べれば雲泥の差があることは確かだ。
今のところガレアの連中に対して恨みはないので、降伏勧告だけはしておこうとペラを伴ってステージの上に上がった。
前方のガレアの横陣の真ん中が開いて、そこからこっちに向けて騎兵の一団が駆けだしてきた。2列縦隊でその数はおそらく100騎。
殻らは股だけで騎乗して左手で手綱と弓を持ち、右手で矢をつがえている。
ウーマの直前まで馬を駆って近づいてきた彼らは左右に分かれざまにステージの上に立った俺とペラに向けて矢を射かけてきた。
彼らの騎射は結構正確だったが、その分簡単にレメンゲンで払い飛ばすことができた。
ペラに至っては手で払いのけていた。
どうも降伏勧告はできそうもなかったので、騎射が一通り終わったところでウーマの斜めになった甲羅の上にリンガレングを出した。
「リンガレング、前方の敵を殲滅しろ」
「マスター、馬はどうします?」
「可哀そうだが、処分しろ。あくまできれいにな」
「了解しました」
ライネッケ領まで連れ帰れるわけでもないので、馬はかわいそうだが始末することにした。馬なら食料の足しになるだろうからあとで死体は拾っておこう。
「そうそう。逃げていく者は放っておいていいからな」
「了解です」
おそらくガレアの連中はこの街道沿いだけでなく広範囲に散らばっていると思うので、俺たちの恐ろしさを教えてやることで撤退を促せると思ったわけだ。
リンガレングがウーマの上から飛び降りて先ほど俺たちに向かって騎射した騎兵に追いつきそして殲滅した。
さらにリンガレングはその先の歩兵の横隊に突っ込んでいき殲滅。さらに進んでこちらに向かってくるガレア兵を追加でたおしながらテント群の中に消えていった。
ガレアの陣地内のテントがドンドン倒れていき、群がる騎兵は馬ごと倒れ、歩兵もその場に倒れていく。
ウーマはゆっくり近づいて行き、俺はステージの上から馬の死体を回収していった。
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