第321話 ガレア戦2


 都市を囲むガレアの陣地にリンガレングを放ち蹂躙していく。

 俺はウーマを陣地に向かって進ませ、ステージの上からウーマが仕留めたアレアの馬の死骸を回収していく。


 30分ほどしてウーマのもとにリンガレングが帰ってきた。

「抵抗する敵は殲滅しました」

「ご苦労。具体的な数字が分かるか?」

「はい。

 殺害した敵兵、2万1315。

 馬匹、1万2150。

 逃亡した敵兵2100。なお、この数字は正確ではありません」

「了解」


 リンガレングはそのままウーマの上に待機させて、ウーマ自体は前方に見える都市に向けて進ませた。


 市街地に入り、しばらく進んだら、ガレア兵とは違う兵隊たちが20人ほどこちらに向かって来たので、彼らが近づいてくるのをウーマを止めて待つことにした。


 声の届くところまでその兵隊たちが近づいてきたところで、こちらの素性を伝えてやった。

「そこの兵隊たち。この俺はきみたちの言う『魔王ライネッケ』、ヨーネフリッツ王国大侯爵エドモンド・ライネッケだ。先ほどきみたちの街を囲んでいたガレアを一掃した。見ていただろ?」

『魔王ライネッケ』の一言で兵隊たちに緊張が走ったように見えた。ガレア兵の死体が無数に散らばっているし、ガレア兵のテントも無残につぶされているのを見れば俺が本物で先ほど言ったことも事実だと認識できただろう。


「きみたちの街の責任者をここに連れてきてくれないか? なるべく早くな。俺がその気になれば、きみたちが考える『魔王』より怖いぞ」

 ひとこと脅してやったら、兵隊たちは回れ右して駆けて行った。


 ウーマの位置はまだ郊外のようなものなのでもう少し市街に入って責任者がやって来るのを待つことにした。


 だいぶ市街に入ったのだが、人の気配はするものの通りには誰もいない。ガレアがいなくなった後にやってきたのが『魔王』なわけで、もっと恐ろしいものがやってきたと思っているかもしれない。


 そうやって5分ほどステージの上で責任者がやって来るのを待っていたら、エリカがステージの上に上がってきた。


「どう?」

「街の責任者を連れてこいと言ってるんだが、まだだ」

「ここの連中、どれくらいガレアに囲まれていたのか分からないけれど、食べ物少ないかもしれないわね」

「そうだな。街の周りには馬の死骸がまだ相当数転がっているからそれを食べればいいんじゃないか?」

「そうね」

「俺もかなりの数の馬を収納してるけどな」

「馬っておいしいの?」

「牛とは違う味だと思うけど、見た目はちょっとだけ似ているから馬だと知らなければ分からないんじゃないか?」

「それもそうね。ツェントルムに帰ったら味見しないとね」

「そうだな」

「その時は、牛と一緒に味見した方がいいわよね」

「そうすれば違いがはっきり分かるものな」

 馬刺しにして食べてみたいが、あまり奇妙なことをしてしまうとさすがのエリカも引きそうだから無難に焼肉かステーキだ。


 生前の女子相手だと今のエリカとの会話のようなものはおそらく成り立たなかったろうな。エリカはいい意味でこの世界の人間だ。


「エド。わたしの顔見てニヤニヤしないでよ。ここはペラしかいないけどどこから人が見ているか分からないんだから」


 意識はなかったが俺の顔は緩んでいたようだ。これから街の責任者に会うわけだから表情筋には気を付けねば。


 ステージの上にエリカが上がってきて5分ほどしたところで通りの向うからこっちに向けて10人ほどの一団が向かってくるのが見えた。


 彼らがウーマの前に来てその中の一人が俺たちに向かって自己紹介した。

「わたしはこのマハイマの太守を務める者です」

「俺はきみたちの言う『魔王ライネッケ』。ヨーネフリッツ王国ライネッケ大侯爵だ。

 ガレアと名乗る異民族が攻め寄せてきたと聞きこうやってきみたちを助けにきて、先ほどこの街を囲んでいたガレアを一掃した。

 街の外に出てもらえればまかると思うが多数の死体が転がっている。腐る前に処分した方がいいぞ。あと馬の死骸も多数転がっているから、それは解体して食べればいい。ガレアにどの程度この街が囲まれていたのかは分からないが食料も不足しているのではないか?」


「『魔王ライネッケ』。いや、ライネッケ閣下。ありがとうございます。マハイマの街は閣下の御恩は決して忘れません」

 ほう。恩を忘れないとはいいことを聞いた。

「恩を忘れないと言った言葉をゆめゆめ忘れないようにな」

「もちろんです」

「この街を囲んだガレアは駆逐したが、なにかガレアの情報を持っていないか?」

「ここから王都までのめぼしい街がガレアに囲まれているはずです」

「王都自体は?」

「王都がどうなっているのかは分かりませんが、ガレアの兵とて有限ですからマハイマが囲まれそのほかの街も囲まれていることを考えればすでに陥ちているのではないでしょうか」

 なるほど。

「了解した。

 これから街道を王都に向けて移動しつつガレアに囲まれた街を解放していく」

「よろしくお願いします」


 マハイマの街には今のところそれ以上の用事はなかったので、ウーマをUターンさせて街道に出て西進させた。


 マハイマから2時間ほど進んだ先でマハイマと同じようにガレアに囲まれた街があった。

 同じようにガレアを駆逐して、街の責任者を呼び出し、マハイマの街と同じようなやり取りをした。ただ、王都は既に陥落しているとのことだった。


 陥落した都市の奪還方法のことを全く考えていなかったのだが、野戦部隊が撤退すれば、都市に居座ったとしても周りから攻められれば守り切れないわけだからそのうち撤退するだろう。


 この先にも街道に戻ったところで、夕方になってきたこともでウーマを停止して、その場で一泊することにした。



 翌日早朝。


 1時間ほど西に進んだところ、都市が見えてきたがガレアに囲まれてはいないようだった。すでに陥落したあとなのかと思い、市街地の中にウーマを進めたら、街の人々が通りを出歩いていて、近づいてくるウーマに気づいて逃げ散っていった。平和が戻ってきたようだ。


 2つの都市の包囲陣が文字通り壊滅したことを受けてガレアが撤退したとみていいだろう。この分だとこの国の王都からもガレアは撤退していそうだ。



 街を横断して西進していくと、次の都市が見えてきた。結局その都市も先ほどの都市と同じよう感じだったので、その都市を横断して西に進んでいき、この国の王都が遠望できる丘の上にウーマは到着した。


 エリカと並んでステージの上から眺めたら、王都から西に延びる街道上に西に向けて移動中の騎馬列らしきものとそれに続く歩兵の一団らしきものが見えた。歩兵を連れている以上簡単に追撃できるなおだが。


「追撃して殲滅した方がいいかな?」

「うーん。その辺りは難しい判断よね。今回はかなり逃がしてるじゃない。ここで殲滅してしまうと、必ずわたしたちを恨みに思うわよ」

「ということは降伏勧告?」

「降伏されても困るのよね。うちの兵隊誰もいないわけだから」

「また変な問題が起こってしまったな。

 いつでも連中に追いつけるからみんなで話し合おうか?」

「そうね」


 ウーマをその場に止めて、エリカとウーマの中に入りみんなを会議テーブルに招集して、撤退するガレアにどういう対応をするか意見を聞いてみた。


「撤退中のガレアをいつでも殲滅できるんだけど、みんなどう思う?」

「いままで、見てきた都市はひどいことをされていた様子はないし、軍隊とすればマトモな軍隊なのよね」

「決して彼らは蛮族ではないですね」

「ツェントルムまで連れて帰れない以上、降伏勧告して降伏されても困るんだよな」

「それが問題よね。

 とりあえず、今後侵攻しないという言質を取って見逃すくらいじゃない」

「それができる限界か。

 第3者の俺たちが賠償金を寄こせとも言いづらいしな」

「それしちゃうと街のゴロツキだものね」


「分かった。まずはガレアに追いついてガレアの一番上の者と話をしてみよう」

「それがいいわ」

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