五月の月光浴
Danzig
第1話 五月の月光浴
五月の月光浴
五月はもう、春の名残というよりも、
汗ばむ夏を予感させる頃。
昼間には少し汗ばむ程の陽気
でも、夜になればそれも落ち着き、
まだ春の終わりを感じられる。
春のような寒さもなく、夏のような暑さもなく
夜の匂いと程よい空気が私を包んでくれる
風薫るこの時期は、
深い緑には成り切らない若い草や葉、
淡く漂うような花の香りを乗せた風が
まだ虫の声のない、夜の静けさの中をふいてくる
程よい香りと、程よい静けさ、
そして過ごしやすい夜の温度は、
月光浴にはよい季節だと思う。
こんな季節は、
難しい事は考えず、
芝生に寝転んで月を眺めてみたい。
いつの頃からか、
私は芝生に寝転がるなんて事をしなくなってしまった。
でも、人気のない夜であれば、
子供の頃のように、
ふわりとしたこの時期の芝生に、
思いきり身体を預けて
胸いっぱいに、薫る風を感じたい
そして目の前に広がる
夜空に浮かぶ月の光を感じる。
それが満月であれば、尚更よいだろう。
五月の満月は、
地上に草花が美しく広がる
夜空に咲く一輪の花。
ネイティブ・アメリカンはこの月を
「フラワームーン」
と呼んだ。
きっと、花の咲き誇る大地の上に、
美しい満月を見たのであろう。
日本はこの言葉を
「花の満月」
と訳した。
日本では月はしっとりと眺めるものだが、
はたして海の向こうでは、
どんな感じで月を愛でていたのだろうか。
そんな遠い異国に想いを馳せるのも、
この優しい季節には楽しいと思う
この時期の月光浴は、
月の光と優しい季節に促(うなが)されて、
自分の心が解きほぐれる。
すぅと靄(もや)が晴れるかように、
なんだか素直になれる気がする。
まるで、
包み込むように全てを許してあげれるような、
そんな気持ちにさせてくれる。
それが、ふんわりとしたこの時期の月光浴の味わい方。
でも、そんな優しい時間は、
それほど長く続いてはくれない。
もう少しすると雨の季節が訪れる。
梅雨(ばいう)、
麦雨(ばくう)、
五月雨(さみだれ)。
梅雨(つゆ)にはいろいろな呼び名があるけれど、
この季節が始まってしまえば、
雨の夜は、
月不見月(つきみずづき)の五月闇(さつきやみ)。
月を愛でる時間も少なくなってしまう。
だからこそ、
五月の今のこの月を、存分に味わっていたい。
五月の月光浴
立夏(りっか)を過ぎた、
ほんのわずかな優しい時間
五月の月光浴 Danzig @Danzig999
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます