第11話 消去法の班決め
「まあ、考えておいてくれよ。それじゃ」
鷹宮はそれだけ告げて自席に戻っていった。
雪姫に用があるならともかく、俺と班を組みたいなんて宣ったのは一体どんな理屈なんだ。
自分でいうのも悲しくなってくるが、俺なんかクラスで浮きまくりの存在だぞ。
「ふーん……」
「なんだよ、千歳」
「あの男、さてはゆーくんを狙ってるな?」
なんでだよ。
疑うような視線を鷹宮の背中に向けた千歳は、あいつに負けず劣らず意味不明なことを宣っていた。
俺を狙うってなんだよ。いや、わかるけど想像したくないんだよ。
「それはないだろ、雪姫ならともかく」
「いやいやいや、ああいうタイプは信用しちゃダメだって! 絶対やらしいこと考えてるよ!」
「そうですね、こればかりは千歳に同意します。あの男……きっと義兄さんを手籠めにしようと……!」
とんだ迷推理だな、おい。
雪姫まで千歳の妄想に乗っかり始めて、二人の中で鷹宮の株がどんどん下落していく。
そもそも俺を手籠めにしかけたのはお前らだろうが。
黙って溜息をつく俺をよそに、千歳たちは鷹宮を変質者だと認定していた。
なんだろうな。
別に鷹宮とは仲良くもないし仲良くなりたいとも思わないが、知らないうちに変質者扱いされているのには流石に同情する。
「義兄さん、本当にあの変質者と班を組むつもりですか?」
「変質者扱いはやめてやれよ……とはいえ、他に選択肢ないだろ」
「えー? やっぱりわたしとゆーくんの二人きりで行くべきだよ! 変質者と一緒なんてダメダメ!」
「だからやめてやれって言ってるだろ、それに班はどう頑張っても五人で組むしかないんだよ!」
俺と雪姫、そして千歳で三人。
鷹宮の申し出を受ければ四人だ。
あと一人適当に見繕えばいいという意味では、確かにあいつの提案も魅力的だ。
だが、なんであいつがわざわざ俺なんかと班を組むことを選んだのかは、周りにとっても謎だったらしい。
クラスメイトたちはこぞって鷹宮の机に集まって、あれこれ好き勝手なことを言っている。
曰く、どうして自分たちと組んでくれないのかだとか、どうして俺なのか、だとか。
「……勝手だなあ。ゆーくんのこと、なんも知らないくせに……!」
「落ち着け、千歳。俺なら平気だ」
「でも……」
「孤高の超人は大衆から理解されないものなのさ」
ツァラトゥストラが山から降りてきたときのようにな。
俺の言葉に納得したのかそうでないのか、千歳は頬を膨らませながら、しゅんと肩を落とす。
そう、鷹宮が言ったことは、あいつ自身になんのメリットもないのだ。
未来のメッシだかペッシだか知らんが、スターダムを駆け上がりたいなら人付き合いは選んでおけよ、全く。
頬杖をついて溜息を吐き出す。
そんな俺に、千歳と雪姫はただなにも言わず寄り添ってくれた。
今はその優しさが、少しだけ嬉しかった。
◇◆◇
はい二人組作ってー、という言葉が苦手なやつはごまんといる。
この指止まれ、と誘われて、その指を掴めないやつも同じだ。
つまりなにが言いたいかというと、班分けにおいて俺たちはそっち側の人間だということだった。
「あと二人、どうしようねー」
「どうにかするしかないでしょう。千歳、こういうの得意じゃないんですか?」
「や、わたしゆーくん以外の人間に興味ないし」
その気になれば友達百人作るのだって夢じゃないコミュ力をゴミ箱にダンクシュートしながら、千歳は雪姫にそう返す。
宝の持ち腐れとはよくいったものだ。
だったらせめて雪姫とも仲良くしてほしいんだが。
「よう、一条! だとどっちかわかりづらいな……祐介!」
俺が本日何度目かわからない溜息をついている間にやってきた鷹宮が、口を開くなり距離を詰めてくる。
こいつは本質的に「陽」の人間なんだな。
人の心に踏み込むことを恐れないし、踏み込みすぎても気にしない。
「あ、変質者」
「変質者が私の義兄さんになんの用ですか」
「……お前のカノジョたちにオレ、なんか悪いことした?」
いきなり変質者扱いされたことに少なからずダメージを受けたのか、鷹宮は俺の肩を両手で掴みながらそう問いかけてくる。
悪いことはしてないと思うぞ。
単に近寄るもの全部を切り付ける、キレたナイフがあの二人だってだけで。
「……彼女とか、そんなんじゃない」
「それにしちゃ随分と仲良いみたいじゃん?」
「千歳は幼馴染で雪姫は義妹だ、それだけだ」
「ふーん……ま、いっか。それより班組もうぜ班!」
なんでそんなに積極的なんだよ。
そう問い返す気力も今はなかった。
ただ、この班決めという面倒な儀式が手早く終わるならそれでいいやと、どこまでも投げやりに俺は鷹宮の言葉を首肯する。
「……わかったよ、ただ千歳と雪姫を変な目で見たら」
「人のカノジョに手ぇ出す趣味はないぜ? オレ、カノジョいるし」
親指を立てて、鷹宮は無駄に爽やかな笑みを浮かべる。
そうか、それを聞いた俺はどんな顔をすればいいか見当もつかんがな。
「ま、とりあえずこれで残り一人ってとこか」
「そうなるな、お前の彼女でも連れてきたらどうだ」
「残念なことに、別のクラスなんだよ」
肩を竦めて、鷹宮は苦笑した。
その彼女がどんな人間かは知らないが、千歳と雪姫の痴話喧嘩に巻き込まれなくてよかったと喜ぶべきなのか悲しむべきなのか。
俺はただ、それを図りかねていた。
「まあ適当に声かけたら集まってくれるかもしれないぜ? ってことで行こうぜ、祐介!」
「待て、俺の手を引っ張るな!」
「おいこるぁー! 人のゆーくんになにしてくれてるんだこるぁー!」
「義兄さん、今すぐその変質者から離れてください!」
「お前らはお前らで人を殺すときみたいな目をするのはやめろ!」
「オレ殺されんの!? やだよ!?」
俺たちはドタバタと四人一塊で教室を駆け回ったが、当然の如くそんな修羅場に入りたいと思う人間はいないわけで。
単純に、最後に残ったクラスメイトと班を組むことが決まった。
そして、最後の最後まで誰とも班を組もうとしなかったそいつは。
「ぐー……すやぁ……」
「なあ祐介、あの子マジで寝てんの?」
「多分な」
「むにゃむにゃ……すやぴ……」
机の上に堂々と低反発枕を置いて、誰の目も気にすることなく居眠りをかましていた。
孤高でいたい陰キャの俺には超絶美少女な許婚が二人もいて、しかも両方と同棲してる件 守次 奏 @kanade_mrtg
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