第五話 狐の話でも、どないです?

地べたに体育座り三角座り して、ウットリ狐 見てるウチ。そうしたらほしたら 皿の水 半分ほど飲んだ狐が、ソファーに座り直して言うてくる。


けど そ前に、その姿も超カワイイ感じキャワワやったんやて! 聞いてぇな!


プルプルしとった前足に〈んっ!〉と力 入れて 体 起こして、〈ポフッ〉と横向きでソファーに着地。

後、〈フルフルッ〉って頭 振って、

行儀よう 座ったおっちん したねん。


──そんなんキャワワやん! キャワワ過ぎるやん!


なんやろか、この狐。ウチの心臓 止める気ぃなんか? 伏見からの暗殺者やろか?


──・・・また水 飲まんかな? さっきの動き、スマホで撮影したかったわ。


「ご、ご馳走さまでした」


「なんなん!? もうエェの? まだ喉 渇いてんとちゃう?」


──もっと! もっと飲んでぇや! キャワワな姿、また見せてぇや! 動画で保存させてぇな!


我慢 出来んウチの右手は、ズボンの後ろポケットポッケのスマホに すでに添えられとった。


「いえ、もう大丈夫です」


「え、けど・・・」


「もうエェわ! 話 させんかい!」


食い下がるウチを破葉はようが一喝して、狐に聞きよる。


「そんで? どんなどないな用やねん?」


「はい。実はですね・・・」


破葉はように促されて、狐は神妙な顔つきで語りだしよった。心なしか、タレ目なったような。それもキャワワやわ。そや、写真 取っとこ。


ウチはスマホを取り出して、被写体に向けた。その瞬間、狐は驚いて口を大きくおおきゅう開けよった。


カシャッ!


ウチのスマホの画面には、目ぇも口もイッパイに開けとる狐の姿が。タレ目やないけど、こ姿もカワイイ。ウチは満足してニコニコ顔。


けど そ横で、仁王像みたいな顔しとる奴が。そや、破葉はようやわ。あ、ちなみに吽形うんぎょう像の方やで、口 閉じてる方な。


ゴンッ!


いったぁ! なにすんねん!」


破葉はようがゲンコツ 食らわしよった。思わずウチはスマホを手離して、両手で脳天 押さえた。


「それはこっちのセリフじゃ! なにしとんねん!」


「写真くらいエェやんか! なんや、この狐は人気アイドルなんか? 写真撮影禁止なんか? 著作権に引っ掛かんのんか?」


「そんなモン知るか! とにかく仕事中に遊ぶな! ちゃんと話 聞かんかい!」


スゴいえらい剣幕や、舎弟のクセに。なんやねん、写真1枚くらいエェやんか。


後、スマホは没収。ウチは地べたにまた正座。そんで狐の話を聞く事に。




えと、狐の話を要約すると・・・


《最近 夜中に伏見稲荷大社の敷地内に人の霊が現れて、毎夜 やかましくしゅうするから狐たちが よう寝られやせぇへん。やから、何とか して欲しい》


・・・って言ちゅう相談やった。




ウチは、キャワワな狐に心 奪われてニヤついとった顔を必死に引き締めて、眉間にシワ 寄せて深刻そうな表情 作る。そしてほんで それを狐に見せつけたった。


どんなどない簡単な相談でも、スゴいえらい難儀みたいにみたく振る舞うねん。そんで報酬をちょっとでも高くするんがウチの狙いや。


「・・・それは厄介やね」


「はい。ほとほと困っております」


「けど、夜 寝れへんのやったら、昼 寝たらエェやん」


「それは出来ません。昼はもっと うるさいですから」


「昼にも霊が出るんか?」


「いえ、出ません。しかし昼には観光客が大勢 来ます」


──あ~、そやな。メチャメチャ行くわなぁ、伏見稲荷やもんなぁ。そりゃ寝れんわな。


「で? 霊は何体くらいるん?」


「ハッキリとは分かりませんが、30体は居ると思います。それらが夜中の間、ひっきりなしに来るのです」


「30体!? なんで そんなそないな数が・・・ 。おい、これ ちゃんと調べた方がエェんとちゃうか?」


破葉はようが口 挟んできた。余計な口 挟んできよった。


──いやいや。そんなそない邪魔くさい事 したないねんけど。調査とか、メンドイ メンドイわ。


「あんなぁ、破葉はよう。本格的な調査はウチとアンタの2人やとムリ有るわ。そんなん ようしてられへんて」


「ん、そりゃまぁ、そぉか・・・」


──そやそや。そんなそないな事は、に任せとったらエェねん。


そうしたらほしたら、ウチと破葉はようのやり取り 聞いてた狐が言うてくる。


「え!? 出来れば、その・・・ 調査まで して頂けると助かるのですが・・・。は、苦手でして・・・」


「ウチ、分家やないけど?」


「あ! これは申し訳 有りません! 失礼な言い方を!」


「まぁ、エェけど。せやけどな、さっき 言うた通り、ウチらでは人手が足らんからムリやわ。とりあえずの解決はしたるけど、調査はに頼んでぇな」


「分かりました、お館さまに伝えておきます。それで・・・ 解決は いつ頃に?」



〈お館さま〉言うんは、伏見稲荷大社の総大将の事。九つのしっぽを持っとる、九尾きゅうびの狐や。玉藻前たまものまえ正木狐まさきぎつねなんかは、知ってる人も居はるんちゃいますか? 実は、伏見稲荷大社にも九尾の狐がりますねん。


あ、そや。総大将 言うても、ご祭神の事や有らへんからね。狐の総大将の事やからね。



「まぁ、今晩にも出来るけど?」


「本当ですか!? それは是非!」


「はい、分かったわ。ほな、報酬 決めよか?」


「は、はい・・・」


なんだかなんや一段と緊張した面持ちなった狐。けど、お金に関してウチは容赦する気ぃは有らへん。こっちも生活 懸かってんのやにゃから。


「日中は観光客で ごった返しとるから、作業は夜中にしか出来でけへんなぁ。やったら、こっからタクシーでの往復。夜通しの作業。その他 諸々の費用 考えてっと・・・ 50万やな」


「えぇっ!? ご、50万!?」


また目ぇ見開いて、口も大きくおおきゅう開けた狐。いちいちリアクション カワイイなぁ。けど、ウチはニヤけへん。今は お金の話 しとるんやし。


「せや。50万やわ」


「それは、いくらなんでも・・・ 高すぎるのでは?」


「え~~~? 天下の伏見稲荷大社が、なに ケチくさい事 言うてんの? 〈稲荷は日本全国に3万以上の社 有る〉って言ちゅわれとるやん。50万くらい、集めた賽銭から払えるやろ?」


困っとるんは伏見の方。やから立場はウチが上。せやけどウチは地べたに正座で、狐はソファーの上。けど目線の高さはウチが ちょい上。なんや これ? どっちの立場が上なんか、よう分からんなぁ。


「いや、賽銭は人間の物で、我々の物ではないので・・・」


「いやいや。アンタら 狐がおっての、稲荷やろ? 賽銭から拝借ネコババするくらい、別にエェやん」


「いや、しかし・・・」


それならほんなら 方法は変わるけど、20万で どやろか?」


「方法が変わる、とは?」


「駆除やったら50万。アンタらの睡眠 保証するだけ やったら20万。そういう事やわ」


「えっと・・・ 具体的には どういう事ですか?」


「結界 張って、霊が寄り付かんように すんねん」


「それは、永続的にですか?」


いいやんにゃ。1年間だけやね」


「1年間だけで20万ですか!? それは、割り高 なのでは?」


「そやろか? 駆除しても、また新しい霊が寄ってきたら どないすんの? また駆除せなアカンよ? けど、結界やったら1年間は寄ってんし、〈伏見稲荷大社の中に入られへん〉って なったら、霊も他んトコ 行くかも しらん。どっちがエェか、よう考えてみぃ?」


「ん~・・・ とりあえず、そのお話を持ち帰らせて頂いて宜しいですか?」


「うん、エェよ」


「では、失礼 致します」


「は~い、ほなな~」


ウチはキレイな右手をフリフリして、破葉はようはドア 開ける。ほんで狐は帰ってった。




あれ? 今回は食べ物たべもん飲み物のみもんの紹介 無かったなぁ。けど こういう事も、有りますねん。


グルメを紹介するだけや 有りませんおへんのや。


ほな、また次回。



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緒晴 梵 の 京都 徒然日記。 @JULIA_JULIA

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