三分の電話

古谷はる

電話

僕はこれから、ある人に電話をする。

実を言うと、僕は電話が苦手なのだ。

会話に困ると、ついくだらない嘘をついてしまう。

いもしない上司の愚痴を言ってみたり、彼女いない歴=年齢の僕が結婚をしていると言ってみたり。

そんなくらだない嘘をついていると時々、誰にも信用されなくなってしまうのではないかと、不安になる。

それでも一度ついてしまった嘘は、もう取り返しのつかないところまで来てしまっていた。だから僕は、嘘をつき続けることにした。

仕事柄電話を手放すことは出来ないので、電話をしなければならない時は、3分以内に電話を終わらせることにした。そうすれば、ボロを出さずに電話ができると思った。

しかし、なかなか3分で電話を終わらせるのは難しかった。電話を3分に収めようと努力しても、どうしても3分を越してしまう。3分を越えてからも電話は続き、ボロが出るんじゃないかとヒヤヒヤしながら嘘に嘘を重ねることになる。

このままではダメだと思った僕は、3分で電話を終わらせなければいけない状況を作ることにした。

何かいい方法はないかと考えていると、同僚の机の上にあったカップラーメンが、ふと目に入った。

その瞬間、僕はとても良い方法を思いついた。



それからというもの、僕は電話をかける前に、カップラーメンを作るようになった。

カップラーメンは、お湯を入れてから3分で完成する。それ以上時間が経ってしまうと、麺が伸びてしまう。僕は伸びた麺が本当に大嫌いだった。

カップラーメンを作るようになってからは、3分で電話を終わらせられるようになり、それと同時に、給料が上がった。電話が3分で終えられるようになり、仕事の効率が上がったからだった。



そして今日も僕はカップラーメンに熱湯を注ぎ、メモに書かれた番号に電話をかける。

電話に出た相手に、決まってこれを言う。


「もしもし俺だよ。オレオレ」

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三分の電話 古谷はる @suburisoburi

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