プロローグ2

 「転生拒否って言われても困るなぁ。君が初めてだよ。そんなわけのわからないこと言い出すの」

 「いや、そう言われても困ります。転生なんてしたくないですし。死んだんだからそれで終わり。それが世の常じゃないんですかね」

 「違うから、転生するんだよ……。はぁ、ちょっとまってて。マニュアル確認してくるから」


 神様はため息混じりに立ち上がると、私の前から姿を消す。

 すぐに戻ってきた。

 手元には辞典並みに厚い本がある。

 さっき言っていたマニュアルとやらだろう。


 「……」

 「転生したくないんですけど」

 「知ってるから。ちょっと黙ってて」


 不機嫌な神様にピシャリと黙らされてしまった。

 イレギュラーが発生すると八つ当たりしてくる弊社の上司みたいですごく嫌だ。なんで死んでもこういうヤツの相手をしなきゃならないのか。機嫌によって態度が変わるヤツが一番嫌いだ。そういうのって大体こっちではどうしようもできないし。ご機嫌取りにも限度があるから最悪。


 「申し訳ないが、転生させないというのは無理らしい」

 「……」

 「マニュアルに転生拒否の場合なんて記載はない。近いのは転生キャンセルというのがあるが、『転生キャンセルはできない。転生させるのに相応しくない人材であった場合はGランクスキルを与え、僻地に転生させ、転生直後に死を与え無かったことにすべし』って書いてあるね。これで良ければしてあげるけれど。こちらとしては本望ではないよ」

 「なんで私が苦しむんですか……」


 そっちの不手際じゃないか。こっちはただ転生したくないだけ。それなのに一度転生して死んでねって……。


 「なら転生してくれ」

 「断ります」

 「そこをなんとか」

 「断る」

 「わかった。転生して、転生先で私の信仰心を高めてくれ。民の信仰心を高めてくれれば天界での私の地位も今以上のものになる」

 「それ私にメリットないですよね」

 「ある」

 「メリットはなんです?」


 とりあえず聞く。私にとってメリットがないと判断したら受け入れないけど。


 「私の地位が上がった暁には君の転生を無かったことにする、と約束しよう。死という苦しみを感じさせずに君の魂を無に返す、と」

 「……地位が上がればできる、と?」

 「可能だ」

 「本当です?」

 「神は嘘吐かない」


 そこまで言うのならやっても良いかなと思う。

 まぁ大体あれだ。

 私に残された選択肢は普通の転生か、転生してすぐに殺されるか、の二択だった。それに一つ私にもメリットのある選択肢が加わった。

 うん、譲歩しても良いかな。これくらいは。ワガママばっかり言っても相手を困らせるだけだし。


 「わかりました。受け入れましょう」

 「助かる……」

 「約束は守ってくださいね」

 「もちろん、それは守ろう。誓約書でも書くかい?」

 「……それは良いです。それよりも神様。名前を教えてください。名前知らなきゃ布教できないです」

 「おっと、自己紹介がまだだったな」


 こほんとわざとらしい咳払い。


 「私の名前はベルネット。一応時を司る。君の国の神話で言うとツクヨミみたいなものだ。まぁあの方は偉大すぎるが……」


 なんというか神にも格差ってあるんだなぁって実感する。


 「伝説は? なにかあるんですか? 教えてください」

 「ない」

 「は?」

 「ないから君が創造してくれ」

 「んな、無茶な……」

 「頼んだぞ。それでは転生させる。約束は必ず果たす。布教頑張ってくれ。あ、スキルはてんこ盛りにしておこう。せめてもの償いだ」

 「いや、ちょ、待って……」


 私の声は届かない。


 光に包まれ、意識を失った。


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転生拒否をした私は世間知らずな神様に仕える こーぼーさつき @SirokawaYasen

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