転生拒否をした私は世間知らずな神様に仕える
こーぼーさつき
プロローグ
プロローグ1
私の最後の記憶。それは元彼に刺されたところであった。
別れてからずっと後をつけられていた。所謂ストーカーである。
引っ越しても、警察に相談しても、解決することはなかった。日に日に命が脅かさているような感覚があった。そして、刺された。
「んぐっ……」
声にならぬ声を漏らす。
腹部から胸元にかけて、猛烈な痛みが襲う。
熱くて、でも冷たくて、身体の節々が麻痺していく感覚がわかる。インフルエンザの一番辛い時よりもキツイ。地面に目線を落とす。黒いアスファルトは紫色に染まっている。
利き手は赤く染まり、そのドロドロとした液体を服で拭う。でも服も汚れているので意味をなさない。
私は本気で気付いた。
これはあれだな、死ぬやつだな、と。
私は本気で悔やんだ。
もっとやれることはあったな、と。
私は本気で恨んだ。
付き合う男は選ぶべぎだ、と。
そして私は本気で嫌った。
男は全員こんなやつなんだ、と。
ゆっくりと意識を手放す。
最期に見た顔があの男ってのだけが思い残すところだ。あぁ親孝行もしてないなぁ。
◇◇◇
「ようこそ、神の世界へ」
「はぁ……」
意識が戻った。
降り立った場所は神々しい世界。ふわふわした感覚が続く。
私の目の前には桃色の長い髪の毛を垂らす美女が立っていた。あまりに輝かしくて目を逸らしたくなるほどに眩しい。
「ここは?」
「神の世界。君たちの世界で言うところの天界になるね」
「天界……」
「そう、天界。どうだい? 驚いただろう?」
非現実的すぎて、ふーんという感想しかない。
フィクションの話だと思っていたのでなおさら。
「で、私はこれからどうなるんですか? 死ぬんですか」
「ふふふ、それは間違いだね。死ぬんじゃないよ、死んだんだよ。君は」
「私死んだんですか。まぁそうですよね」
驚きはしない。
あの状態で生きていましたって流石に無理がある。あんだけ出血して、肉も抉られて、臓器もずたずたにされた。その状態で生きていたって後遺症だらけ。死んでいて当然だ。
「君たちの世界では物語の舞台装置として良く使われる、『転生』をする機会を君にさずけることになった」
「異世界転生ってやつですか」
「話が早いね」
「でもなんで私がなんです? そんなの望んだ覚えないですけど」
「神々から見て、悲惨な死に方をした人間を転生者することにしているんだよ。これは我々のルールだ」
つまり、同情されていると。
なるほど。神にも情というものがあるのですね。
「君の転生する世界は魔法と剣の世界だ。人々は固有スキルを持ち、そのスキルを駆使して生きていく。君にはチートスキルを一つ与えておきたいと思う」
「私にチートスキル……ですか」
「そうだ。人を魅了するスキルでも良い、魔素量を膨大に増やすスキルでも良い、時を止めるスキルだって構わない。相手の魔法を無効化するっていうのを所望したのも過去にはいたな」
「……」
きっとどれもこれも生きていく上で便利なスキルなんだろう。というか、イージーモードになるスキルだ。絶対に。
でも、私は。
「いらないです」
「いらない? せっかくあげるのに。無料だよ?」
「いらないです。というか、転生しません、転生拒否します」
「な、なるほど……って、えぇ!!!!」
神様の吃驚した声がこだました。
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