ウォーターフォール
蘇芳
人間は四から五日の間、水を一滴も飲まなければ生きていけない。
西暦3XXX年。現代の水不足はかなり深刻だ。川の水はなくなって陸地と化し、海は干からびて塩の大地と化した。川や海がないので魚がいない、水がないから植物は育たず、深刻な食糧不足にも陥った。人々は希望を抱いて船を出したこともあったが、水がない以上、船は動くことができず、絶望した。
だが、それでも人類は存続している。なぜか?
それはこの現代における、ある技術が深く関わっていた。
タイムマシンによるタイムトラベルである。
水不足によって食糧不足も起こり、人類は生存のために争い合った。しかし、機械の部品はタダ同然で手に入ったため、或る人がタイムマシンを開発した。
タイムマシンの開発によって、水が豊富だった過去の時代に水を取りに行くことが可能となった。こうして過去の時代から水を得ることによって、人類は存続していた。
人類存続の核となっているのはウォーターフォール、タイムマシンを使って過去に水を取りに行く会社である。今、世界中の水は全て、この会社が管理している。
タイムマシンで過去の様々な水の豊富な場所に行って必要最低限の水をポンプに採る。必要最低限の水というのは、過去が変わらない程度の水の量のことである。水を取り過ぎれば、過去が変わり、未来も変わる可能性があるからだ。どれだけ水を取っていいかは、コンピューターが決める。コンピューターの指示は絶対、少しでも指示通りに動かなければきつい罰則が与えられた。過去の海や川で採取した水は特殊な濾過装置にかけられ、飲める水となり、世界中のその人その人に合わせて必要最低限の水が配給される。配給の管理はウォーターフォールが各自一人一人に支給したコンピューターで行われており、このコンピューターは水の配給制が開始するのに伴って開発された。
「いいか! 今日もしっかり働くように」
その班のリーダーが朝礼でそう言った後、社員各自は船の形に改造したタイムマシンに乗って過去に行く
ある社員もいつも通り、仕事で水を採りにタイムマシンに乗った。だが、その途中でタイムマシンが壊れ、目的地とは全く異なる陸地に着陸した。
山中に不時着したタイムマシンは大破し、ある社員は帰れなくなった。だが、こういうことも想定して、タイムマシンの中には救難信号を送れる装置が入っている。救難信号を送った後、救助を待ってある社員が山中に座り込んだ時だった。
「久しいな、君」
声がしたと同時に茂みから出て来たのは、ウォーターフォールの元社員――
鬼塚が過去に消えたと聞き、社員総出で探したが、結局見つからなかった。諦めてから十年後のこの時、偶然にも鬼塚は見つかった。
ある社員は言う。
「皆さん心配していました。さ、帰りましょう。救難信号を打ちましたので、もうじきここに救助が来ます」
鬼塚は過去の人間じゃない。連れ戻さなければならない。
「いや、私は帰らない。私は、会社の犬でいるより、過去の世界で人間らしく生きることを選んだ」
「ですが、あなたがいることで未来が変わるかもしれません。さ、帰りますよ」
ある社員が力づくで鬼塚を捕まえようと手を伸ばした時、犬がウゥーと唸って牙をむき出した。
「私一人の存在が過去にいても未来は変わらないよ。むしろ、過去にいた方が、生存が確保される」
「? どういう?」
「相変わらず、ウォーターフォールは隠しているのか……」
「? どういう?」
「過去の水がなくなる年はいつか、私は何度も計算した。何度も何度も計算した。すると、ある年に辿りつくんだ」
「ある年?」
「ウォーターフォールが創立した時だよ」
ある社員は鬼塚の言っている意味が分からなかった。すると鬼塚は、衝撃的な事実を言った。
「我々は過去が変わらない必要最低限の水を搾取していると言っているが、実際、少しずつ水は減少している。つまり、過去は変わっているんだ。だけど、あまりにも小さいから未来に影響していないだけ。だがウォーターフォールが創立した年は少しずつ逆行している。要するに、未来が過去の水を搾取すればするほど、過去の水はなくなって、段々早まっているんだ。まだ分からないか? ウオーターフォールこそ水不足の原因で、ウォーターフォールによって過去が変わり、未来も変わる……」
ウォーターフォール 蘇芳 @suou1133
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