異世界サイボーグ〜魔法が全てを支配する世界で、魔力なしの少年がロケットパンチで無双する〜

残飯処理係のメカジキ

第1話「ようこそ、マグナ総合魔法学園へ」

かつて……異世界に転生した男がいた。


 転生した理由なんて彼には分からなかったが、まぁ、第二の人生を歩めるというのならば悪い気はしない、という感覚で異世界での生活を謳歌していた。


 特に彼をこの世界に興味を持たせた元凶は、『魔法』と呼ばれる代物との出会いである。


 どうやら、この世界における地球的な星には、大気中に未知のエネルギーである『魔源』というものが存在しているらしく、生物はこのエネルギーを吸収(生物によって吸収する方法は異なるが、主な吸収源は呼吸)して、自分が使えるように変換を施す(魔力)ことで、放出することができる。この、「放出する」という行為の呼び名が『魔法』というわけだ。


 彼は、異世界転生をした際に、膨大な魔力(変換量が常人より多く、また体内に一定量を保管することが可能。そうすることで、呼吸をしなくても一定量の魔法を打つことができる)を有しており、『固有魔法』等、様々な魔法を使うことができた。

 

 とはいえ、異世界転生をさせられた彼にとって、転生先での目的なんてあるわけもなく、その生涯を世界を旅することに捧げることにした。


 そうして旅を続けること数十年。


 彼は、とある格差に頭を悩ませることになった。


 それは、『魔力』を持つ人間と、『魔力』を持たない人間が存在することだ。お互い、呼吸によって『魔源』は体内に取り込んでいるのだが、『魔力』を持たない人間は、肝心の『変換する』というシステムが欠損しているため、『魔力』を持つことができない。

 もちろん、『魔法』も使うことはできない。


 この差は、この世界において絶対的であり、『魔力』を持たない者の扱いは彼が思っているよりも悲惨だった。


 名のある家からは絶縁されることが多く(なお、家柄や周りの評価を気にしてか、一定の年齢までは育てるケースが多い)、村や町においても、ほぼ奴隷状態。


 一応、表向きとしては、どの国でも『魔力がない人間の扱いを平等に』や、『差別は許さない』という声をあげており、教育機関や国のシステムに一定数の『魔力なしの人材の採用』を実施してはいるが、蓋を開ければ言葉だけというケースが殆どである。


 軍においても、接近戦、遠距離戦において、『魔法』を超える力が存在するわけがなく、『魔力なし』は動く盾(身代わり)としか採用されていないのが世界の現状である。


 そんな世界の状態を知った彼は、『たかだが異世界転生をしただけの男が膨大な魔力と魔法を有しているのにも関わらず、世界には魔力を持たない人達が数多く存在する』という現状を受け止め、自分の存在意義を見つめ直すことにした。


 そして辿り着いた彼の異世界での存在意義こそが、『魔力がない人間を魔力を有する人間と対等になるような存在にまで成長させる』ということであり、その計画名こそが、『AWCプロジェクト』なのである。




♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 『魔法学園都市・スペス』


 この世界において最も広い大陸の東部に位置する、ママチェラーノ王国の南部に開発された魔法研究及び魔法育成を中心とする大都市の名称である。


 その名の通り、あらゆる国から『学生』を集めて育成することを目的としており、ママチェラーノ王国を中心とした周辺の国々の協力の基に創られたという経緯を持っている。


 この『スペス』では、総人口の約7割が『学生』であるのだが、やはり世界から注目されているということもあり、『魔力なしの学生』も一定数(総人口の約3割)存在している。


 また、魔法育成といっても様々な種類があるため、その分学園などの教育機関の数は多くなる。


 その数ある学園の中でも最大の『学生数』を誇る『マグナ総合魔法学園』では、入学式の日を迎えていた。


「おいおい……頼むから静かにしてくれよ……」


 入学式が行われる予定の講堂。演台から離れた最後方の端に位置する席に座る天パ頭の少年の口から、情けない声が漏れた。


 真新しい黒色の制服に身を包んでいる彼は、どうやら必死に自分自身の左手を押さえているらしい。

 側から見れば、かなりの変人に写っているはずなのだが、入学式に胸踊らせる新入生等は、全く気にも止めない。


 そんな彼の左手は、誰もが見ても分かるほどの光沢を放つ金属でできていた。


 義手。とはいえ、魔法を使う者が装着するはずの魔法伝達加工が施されていないことは明らかだった。


 天パ頭の少年と彼の左手が攻防を続けること数分。先程までガタガタと独特の金属音を鳴らしていた義手は、どうやら鳴りを潜めたようで、彼の口からは、「はぁ……」という安堵のため息が漏れた。


 落ち着いたところで、講堂に設置された時計に目を向ける。


 あと三十分と言ったとこか。


 時間帯的にも、次々と新入生が講堂に流れ込んでくる。


 そんな彼等の制服の色は、白色。


 彼らは、天パ頭の少年が座る後方の席を通り過ぎて、前の方の席へと向かう。


 すれ違い様、ふと嫌味な単語が聞こえてくる。


 「動く盾」


 散々、聞き慣れた単語。


 「動く盾」とは、「魔力がない人間」に対するあだ名みたいなものである。


 白色の制服は「魔力がある人間」のためのもので、黒色の制服は「魔力がない人間」のために用意されたもの。


 今年の新入生は、三百五十二人。


 その内、約四割である百二十三人が黒色の制服に身を包む。


 他校と比べて「魔力がない人間」を学生として迎え入れている割合が多いのは、『マグナ総合魔法学園』が、『魔法学園都市・スペス』の顔とも言われるほどの規模と、他国への知名度を持っているからだ。


 そんな彼らへの教育方針としては、「魔力がある人間」と同じ授業に参加(特に、知識関連)しつつも、独自の教育課程が設けられている。

 クラス分けにおいても分断されることはなく、実践を想定した授業も合同で行われる。


 他にも、施設や資料の利用も許可されてはいるなど、表向きには「魔力がある人間」と、「魔力がない人間」との扱いの差は見られない。


 表向きは……。




♢♦︎♢♦︎♢♦︎


 更に二十五分くらい経過すると、席も次第に空きが少なくなってきた。

 が、未だに天パ頭の少年の隣は埋まる気配がない。


 (これも、黒服の立場を考えたら当然か……)


 なんなら、立っている黒服の新入生もいる。恐らく、お偉いさん方の下につくことで生活が成り立っている立場の人達だ。


 自分が彼等に当てはまっていないのは幸運だな、と、同じ黒服の中でも立場的には恵まれてると自覚しつつも、残り時間を消費するために、『魔法学』の本を開こうとする。


 その瞬間。


「あれ?ミカ?君、ミカエラ・フトュールムか?」


 と、聞き慣れた声が耳に響き、ミカエラと呼ばれた天パ頭の少年は、思わず顔を上げる。


「ア、アレク!?どうしてここに!?」

「ん?そりゃ同い年なんだから、学校に入る年齢も同じはずだろう?むしろ、君がここにいる方がびっくりしたよ。三年も見ないうちに身長が伸びたかい?ミカ」


 笑顔で、ミカエラを見下ろすイケメン。

 彼の名前は、アレクシア・エンヴィ。

 エンヴィ侯爵家の次期当主である。

 座ったまま見上げる形になっているので、推測にはなるのだが、身長は恐らく百八十後半。ミカエラが百八十ニなので、数センチの差で負けている。


 (三年前は僕より小さかったくせに……成長期か?)


 特徴的な青色の髪の毛は相変わらずサラサラしており、淡く美しい碧色の瞳は、再会の嬉しさからか、涙が軽く浮かんでいる。


 その身体は白色だけでなく、所々に金色の模様が入っており、胸には、金色のバッチが輝いている。

 このバッジは、『マグナ総合魔法学園』の存在を知っている者ならば誰もが知っていると言っても過言では無い代物。

 

「なるほど、首席か。相変わらず流石だね、アレクは」

「あぁ、これかい?まぁ、入学試験の内容が私向きだったからね。たまたま取れたってだけだよ。ミカこそ、この学園に入学できるなんて、やるじゃないか」

「まぁ、黒服だからね。白服に比べたら容易だよ」

「一概に黒服だって言ったって、貴族の推薦がない状態で入ったんだろう?なら、相当身体的な実力を買われた筈だよ。おっと、そろそろ入学式が始まるね。隣、失礼するよ」

「え?うん。でも、ここでいいの?」

「ん?当然だろ?三年ぶりの再会だ。知らない人の隣より、幼なじみの隣がいい」

「照れることを言うなよ……」


 軽くため息をこぼすミカエラを他所に、ドカッと隣にアレクが座り込む。

 学年の首席である白服が、黒服の隣に座る。状況としては学年の白服が発狂して理由を問いただしたり、蔑むような目で見てきたりする場面である筈なのだが、幸い、入学式開始五分前の出来事だったので、周りに気づかれずに済んだ。


 (これも計算して話しかけてきたのか……アレクは…)


 彼の地頭の良さから、つい、そんなことを思ってしまう。


 と、同時に講堂の電気が薄暗い色に変わる。

 そろそろ、入学式が始まるみたいだ。


 

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