第16話

「よっと……ほっ!…さてどんなもんかな」


壁を登り切り上から大聖堂の中を見下ろす、中には誰もおらず静かな空間が広がっている。

…ここに人が入って行ったのは間違いないんだが、おそらく隠し通路があるんじゃないだろうか。


そんなの簡単にわかっちゃうんだよな、さて何処だ。

入り口側は無し、奥のデカい像の所もないな、後は…いや待てよ像の右側に通路がある?

かなり狭いけど人が通れそうだぞ。


「ここからじゃ、これ以上はわからんな、降りるか」


大聖堂内に侵入し狭い通路がある位置の前まで立つ。

像右横の壁の奥にやっぱり通れる道が見える、ただどうやってその通路に入るのかがまるでわからない。


色々と壁を触れて押し込めたり出来ないか試してみたモノの何も起きずただ時間だけが過ぎていく。


「クッソここに来て手詰まりか、間違いなくここなんだけどなぁ」


どうしたものか、諦めきれない何としてでも奥に行きたいんだけども壁を壊すわけにもいかないしなぁ。

…ん?上がってくる?…………三十人くらい上がってくるな、もしかしてこれを利用すれば入れるのではないだろうかそうと決まれば何処か隠れるのに最適な場所…


「バカでかい像の裏が良いかもな。…うん、悪くない」


ここからならバレずに出てくるところが見れるだろう。

徐々にこちらに向かってくるのを感じながら静かに待つ。

目星をつけていた壁が消えそこから複数の人が出てくる、どうやら俺の考えは正しかった様で…ウェイン?


出てきた人の中にはウェインの姿があり、無表情で虚空を見つめている。

ふらふらとした足取りで大聖堂を去って行ってしまった。

大聖堂に残ってる奴らも出入り口の方を見てるし壁はまだ閉じてない、上がってくる奴がいないのもわかってる今なら入れる!


「よし、侵入完了っと、あ」


俺が入って数秒後壁が閉じ帰れなくなってしまう、まあ、帰りはバレてもいいしどうにもならなかったら壊そう。


「この先に人が三人…」


一本道の薄暗く狭い通路を抜けた先には人一人入れそうな物々しい扉の様な物が見える。

ここから盗み聞きが出来そうだ。


「…………ではどうしますか?速やかに始末するべきかと」

「そうですね、解析スキルが厄介なので今回の遠征で死んでくれるのが良いんですが…あれ、警戒心が強そうなんですよねぇ」

「強い魔物を連れてくるのが良いんじゃない?僕がやろうか?」


二人の知らない男声と一人の女…………カトリーヌの声だ。

誰かを殺す話をしている様だ、やっぱりロクでもないじゃないか。


「困ったものです、ヒグチ様も早く言いなりになっていただかないと」

「その為にもタチバナを殺すのが急務です、タチバナにかなり依存をしてますから依存先がいなくなれば簡単に操れますよ」

「そうですねぇ」

「他の有望株は軒並み完了してんだからさ、早くしてよ仕事遅くなーい」

「黙れ!本当は異界現象を盾に色々誤魔化すつもりだったんだ、だが思ったより」

「強かったって?言い訳ー」


…どうやら話を聞く限りは有望そうな召喚者の大事な人を殺して心に傷を負わせその傷を癒した現地人たちに依存させてコントロールする作戦だったようだ。


「まあ、とにもかくにもこれでお終いです、ねぇそう思いますよね。そこで見てるタチバナ様」

「!?」


バレてた!?狩猟の申し子の効果で隠密は出来ているはずじゃ!

いやそんな事より急いで離れないと。


「っ!」

「まさか聞かれてたとは最初に教えられて時驚いちゃったよ僕」

「おま」

「ばいばーい」


首が…………喉を切られてうまく呼吸が、どうすればいい…

舐めてた、バレる訳がないって慢心してた結果がこれか、調子に乗るもんじゃないな…


「さようなら、タチバナ様。あの世でまたお会いしましょう」


地面に倒れ体は思うように動かず広がっていく血とこちらを嘲笑うかのようなカトリーヌの顔が俺が最後に見た、人生最後の景色だった。

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嘘だらけの異世界で生きていく 999 @kk7

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