許嫁にご飯を奢ったら、お礼におっぱいを揉ませようとしてきた件

二葉ベス

許嫁ってずるいよなぁ

「許嫁、ってさぁ。ずるいよなぁ……」

「は?」


 いつもダル絡みしてくるダチが情けないことを口にしてくる。

 何だよ急に。いや、マジで何だよ急に。いきなりきっしょいことを言うじゃないか。


「許嫁って許嫁だぞ?! だって家族公認で合法的に彼女のおっぱい揉んでいいんだろ?! っかーーーー何だよそれ! お前恵まれすぎだろ、反省しろ!!」

「誰にだよ」

「男子高校生全員にだよ!!!!」


 うっざ。というか面倒くさい。

 なんでそんなことを口にしてごめんなさいしなきゃいけないんだ。


 確かに俺には許嫁がいる。家族が決めた本当に本物の許嫁だ。

 俺が騙されているんじゃないだろうか、ってぐらいには顔もいいしルックスも。まぁ、おっぱいもでかい……。

 でもそんなことは気に留める様子もなく、俺にとってはただただ仲の良い友人で、それ以上でもそれ以下でもない。


 仲がいいのに越したことはないし、嫌々許嫁だの結婚だの言わされた日には俺だって嫌だと思う。

 だから俺も彼女のことを好意的に見ている。ただ。ただそれだけだ。


 だけど最近、妙に距離が近い気がする。

 気のせいかな。自然に肩をくっつけてきたり、手の甲にピトリと触れてきたり。

 こいつ。こいつっ! 俺をドギマギさせてきやがる!


 あーーーホント! マジで!

 あんまり男子高校生の童貞を惑わせないでほしいところだ。

 別に好きとかそういうことじゃない。そういうことじゃないけど、相手は同年代なだけあって、こう……。緊張する。


「なにグダグダしてるの?」

「あ、花咲! ちーっす! 今こいつに土下座させようとしてるとこ!」

「アホくさ。ほら司、帰るよ」

「ういー。んじゃあな」


 花咲の助けがなかったら、危なくこいつに土下座させられるところだった。

 てか、微妙にいいタイミングで入ってくるなぁ。実はタイミング見計らってたろ。


「んで? さっきまで何だべってたの?」

「知りたいか」

「別に。どうせキミら2人の会話って結構どうでもいいの多いし」

「分かる」


 花咲はやっぱり? だなんて言いながら少しご機嫌な様子で笑った。


「あいつが許嫁っていいよな、って感じで嘆いてた」

「あー。彼女いないもんね、あいつ」


 許嫁。許嫁なぁ……。

 ちらりと花咲の横顔を覗き見る。

 確かに顔は整ってる。美人系っていうか、性格も相まってダウナー系の美少女って感じなんだろうなぁ。


 目線を下にやれば横乳。やめよ。バレたら何言われるか分からん。

 でも嫌と言うほど目に入る。おっきい。マジで両手で持てるぐらいにはあるだろ。

 昔はそんなに大きくなかったのに、気付けばこうだ。成長っていうのは恐ろしいものだ。


「別にそんなにいいもんじゃないのにね」

「……まぁそうか。婚約してるって言っても、その時まで仲良くしとけ、ぐらいだもんな」

「割と腐れ縁?」

「分かる」


 他の奴らには腐れ縁でこんな美少女と仲良くなれるわけがないとか、前世でどんだけ善行を積んだんだよとか。散々なことは言われてるけど、今生でも大して美味しい目にはあってないから意味はないのかもしれない。


 もっと言えば他の女子に近づこうとすると、花咲が何故か間に入ってくる。

 二言目には許嫁だからねー! なんて。

 だから女子にはモテないし、知り合いすらできない。


 ホントに、なんで許嫁なんかやってるんだか。

 俺だってもっといい目を見たいよ。


「うーん。……んー」

「どうした?」

「いや? あー、うーん……」


 なんか急にもじもじし始めたというか。

 なんだコイツ。態度が露骨に面倒くさい女になったな。


「なんか奢ってほしいんか?」

「……分かってんじゃん。後でコンビニよろしく」

「はいはい」


 やっぱり。

 花咲がこうやって面倒くさくなったときはおねだりの瞬間だ。

 バイトもしてるし、別にいいんだけどさぁ……。


 ……でも。いつもあげっぱなし、っていうのはムカつくな。

 俺からも何か交渉とかしてみるか? ……うーん。やってみるか。


「……なぁ、花咲」

「ん? なにー?」

「奢るのはいいんだけどさぁ。俺にもなんかくんない?」

「……なに、どうした急に」


 どうしたはないだろ、どうしたは。

 頭おかしいやつみたいに言うなや。


「いっつもお前に何か奢ってばっかだろ? だからそろそろお前もなんか返すべきだろ」

「……そういう考えもあるかー」

「普通そういう考えで奢ってるが?」


 俺に何かねだるのはいいが、その見返りってもんをだなぁ。

 まぁいいか。どうせ何も返ってこないだろうし。


「そっか。……じゃあ、おっぱい揉む?」

「はぁ?!!!!!」


 むせた。花咲が自分の胸を両手で持ち上げてアピールしてきたから。

 許嫁のおっぱいを揉ませようとしてきたからだ。


「げほっ、げほっ!」

「なに、そんなに意外だった? ウケる」

「ウケる、じゃないだろ! お前……! お前さぁ! 自分で何言ってるか分かってんのか?!」


 それは許嫁じゃなくて恋人相手にやらせるやつだろ。

 別に俺たちはそういうんじゃないんだから。


「……嫌ならいいけど」

「そういう嫌とかじゃなくて。お前さぁ……」

「もしかして、あたしが誰彼構わずおっぱい揉ませる変態だとでも思った? そんなんじゃないから」

「そこまでは言ってないけど……。その、いいのか?」


 許嫁、って言っても。別に親の決めた約束だ。

 大してそこに制約みたいなのはない。そこにはビジネスみたいな息苦しさがあるだけ。

 俺は、まぁそう思ってたし。このまま結婚だけして、別居するんじゃないかなとか考えてたんだけど……。


「……まぁ、あたしも。思わないところがないとかは、ないから」

「そ、それって……?」

「許嫁だって言われて、意識しないとでも思う?」


 クールでダウナーな美少女。

 何考えてるか分からないけど、軽率に喋れる腐れ縁。

 そう、思っていたのに……。


 頬に熟すリンゴの色は、俗に言う照れ、という感情なんじゃないだろうか?


「それに、キミだって物欲しそうにおっぱい見てるじゃん」

「それとこれとは話が違うだろ!?」

「バレバレだから。えっち」

「いや。いやいやいやいや!!!」


 冗談じゃない! 俺は。俺はおっぱいに欲情する変態じゃない!

 ……ごめん、流石に否定できねぇわ。


「いつも目線向けてる知ってるから」

「そ、そりゃあ! そんなでっかいものぶら下げてたら気になるだろ!」

「それだけ?」

「へ?」

「それだけなの? って聞いてる」


 ……バカ言え。それを口にしたら、もうアウトだろ。

 結婚したら俺のものになるんだ、とか。そんな最低なこと。


「……えっち」

「うるせぇ」


 むず痒いっていうか、居心地悪いっていうか。

 そんな。そんな当たり前のことを聞きたいのかこいつは。


 気になるだろ、好きなやつのおっぱいとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

許嫁にご飯を奢ったら、お礼におっぱいを揉ませようとしてきた件 二葉ベス @ViViD_besu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ