戦闘詳報199X0525-0526.txt

夜、汽車の中。


横の男は泥のように眠ったまま動かない。


「........」


「........」

無言の時間が流れる。外は真っ暗で、この辺りには家も道もないのか明かりは一切ない。


ただ、人間がいっぱい詰まった列車の中を電灯が、やる気なさそうにぼんやりと照らす。


「....今何時ですか?」

「.....ん、ええと,,,,今ちょうど日付が変わったな。」

「止まったのは...夕方くらいでしたっけ?ならもう7時間以上ここで止まったままなんですね。」

「ん、そうだな。そうゆうことになるな。」

「.....」

「.....」


会話終了。しばらく時間がたった後。前の座席の男はしばらくしてから、



「煙草」



とだけ言って客車から出ていった。


「(はぁ...)」


見渡してみると、皆、階級の上下関係なく、寝息も立てずに眠り込んでいる。


この場に起きているものは少数、いや1名のみだ。



夜はすべてを包み込む。


瞼が重くなったと同時に、微かに加速度を感じた。どうでもよくなってそのまま寝た。


汽車の仕事は走ること。軍人の役目は戦うこと。それだけである。




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帝国東部 2.18金星勲章授与第18機械化歩兵旅団 第23分駐屯地


軍隊生活も3年も繰り返せば起床時間のはるかに前に起きることができる。

すぐに起きた後の支度を終わらせて、コーヒーを入れる。


窓を開けると、朝が部屋を照らす。


さわやかな風が吹き、コーヒーの香りを高める。


この窓からは駐屯地の庭の奥に大きな山脈がそびえたっている。

今年は少し雪が解けるのが遅いな。

そんなこと考えてたら同期のアアアショフが起きてくる。

「ううぁ...おはよう」


「おう、お早うさん、今コーヒー淹れてやるから、待ってろ」

インスタントのコーヒーを入れ、冷蔵庫の牛乳を入れ、砂糖を入れる。

これ、甘すぎる。アアアショフの寝ぼけにガツンと効く特製コーヒー、俺は遠慮しておく。


「お、サンキュー」

2回のんで、うあーとうなり、ようやく起きたようだ。

「そういえば、あと3日で契約満了だな。」

アアアショフがニヤニヤして、自信満々、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに答える。

「そうだ、ええと,,,3年半か、長かったな。」


「うんうん、長いようで短かった。俺もあと1週間でここを出るわけだし、久々に故郷でゆっくりしよう」

「そうだなぁ....長いことかえってないもんなあ、しばらくは家の畑で遊ぶか、仕事の宛てはあるしな」

コーヒーを一気に呷って飲み干すと、アアアショフは嬉しそうに言った。

「ん?なにすんだ?」

「叔父さんがな、鉄道関連の商売やるって言ってたんだ。それを手伝わせてもらうつもりだ。」

アアアショフはお前もやるか?と声をかけた。

当然二つ返事で承諾した。



しばらくすると、起床時間になり、今年入ってきた新入りが慌てて飛び起きるのを横目に我々は朝の点呼のため、宿舎の前へ向かった。



『自由・平和・民主主義三拍子そろった21世紀型国家建設万歳‼』

『偉大な我が国の一番星であられるアアアーラ皇太子殿下万歳‼』


こんな間の抜けたスローガンの前、我々の分隊の定位置に整列する。

横目に、軍の公用車が目に留まる、おおむね大隊長とかの激励だろう。


『全員右へならえ! 直れ! 番号!』

「1!2!3!4!5!....」

「全員異常は」

「ありません!」


班長の確認が終わり、休めの指示がかかる。


『気を付け!』

「第23分駐屯地549名!欠員なし!全員異常なし!」

班長が報告する。


小隊長が演台に上り、話始めるのを、俺たちは敬礼で応える。


「おはよう、今日は大隊長殿からお話がある、しっかり聞くように。」


勲章をジャラジャラ付け、将官の服を来た大隊長が今度は演台に上がる


「あー諸君...我が...動員...決定..祖国...くれ。」


『以上、敬礼』


「えー今大隊長殿よりあったように、我が隊の動員令が、今朝、発せられた。皆、祖国のために努力してくれることを願う。では、0725までに荷物を整え、ここに集合。分隊ごとにトラックに乗車するように、では分かれて爾後の行動に掛かれ」


顔がみるみるうちに青くなんて言い回しは小説などでは使いまわされた表現なのだろうけど、まさしく今のアアアショフは、真っ青。

近づいてみると、より真っ青。

「おい、アアアショフ...ああ、もう。掛ける言葉が見当たらない.....」

頑張ろうとか、そのたぐいの言葉は今の彼には絶望のフレーズでしかないだろう。


『あーあー分隊長は0720に小隊長室集合。以上別れ。』

放送が吐き捨てるように告げる。



「この度は、まあ、なんというか、ご愁傷様といった感じだな、お二人さん。」

声の主は、我らが分隊長。レフ・アアアドマロフ曹長。


やめろ、そんなこと言っちゃったら、ますます真っ青に、あ、倒れたではないか、トドメを指したのは分隊長であって、決して俺ではないことをアリバイとして残しておこう。


アアアショフに駆け寄って、隊長と介抱しようとする。


[EOF]

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A:Y

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アアアショフの色が戻る。よかった。

「はあ....」


「大丈夫か?」

「はい、なんとか...」


「よし、全員が装備を整えるのが先決だ。各自、自分の持ち物を点検して、必要な物資を確保しろ。」分隊長の声がいつになく真剣だ。


「了解!」俺たちはすぐに自分たちの個人装備と、個人的な物品を整理する。。


宿舎に戻り、急いで装備を確認する。ヘルメットと銃、うちの分隊の90式歩兵戦闘車みたいなのは別に倉庫にあって、輸送の部隊が持ってきてくれるだろう。


なので実質私物の整理である。


このころになるとアアアショフもすっかり元気を取り戻し、俺とともに手際よく装備を整えていく。

「なあ、アアアロフ、これ要ると思うか?」

「あ、これは...うーん、持っていきたいが無理だろう。壊れるかもしれないし、第一そんなに私物は持っていけないだろ、」

「だよなぁ、まあ、嗜好品くらい支給されるか。」


というわけで、しぶしぶコーヒーセットとインスタントコーヒーは置いていくことにした。


「これは...もっていかないと怒られるだろうなぁ」

アアアショフが指さしたのは、『偉大な歩み』という赤いハードカバーの分厚い本だった。


「政治学習って...もうないよな?」

「おいていこう。」


こんな感じで整理終了。あらかじめ分隊長から巾着袋1つまでと言われていたので、俺は写真アルバム、ウォークマン、好きな音楽テープ5本を持っていくことにした。


アアアショフも同じ感じで、これとインスタントカメラを持っていくらしい。



で、外に出ると、ロクハチ(68式大型トラック)がずらりと並んでいた。

それの52と大きく書かれたやつに乗り込む、幌の中は、ホコリとカビの臭いで、俺たちは咳がしばらく止まなかった。

ガソリンの臭い、エンジンの騒音、それらが変に気分を盛り上げたので、これから行く不安とかはすぐに薄らいでしまった。

「おう、全員いるね、よかった、お前ら逃げるんじゃないかと思ったよ。」

嫌なこと思い出した。

隊長は続ける。

「それで、お前らに通告があるんだが....実は1週間以内に軍を辞めるものはもう残って、契約満了の日まで待たずにお金と軍務証明と退役軍人証を受け取って、帰っていいと通告があった。」


「本当ですか?」

アアアショフが興奮気味に聞く。

「ああ、本当だ、で、どうする。」

アアアショフは悩む、悩んで出した結論は、


「..もういいです、最後の務めをちゃんと果たしてから帰ります。こいつもいますし、俺だけ先に帰るなんてできません。」

アアアショフは俺の首に手を回しながらそう言った。

エンジンの音が強くなった、ロクハチはもうすぐ発進するだろう。

「...そう言うと思ったよ。よし、こうなれば死ぬ気で戦うぞ」

「はい、そうしましょう。」


発進の順番が回ってきたらしく、慣れ親しんだ駐屯地から、門を通って外へ出ていく。



1時間ほど走って、市街地へ、なるほど、ここから蒸気機関車で港へ向かうのだろう。


駅の線路にロクハチがそのまま入って行って、降りろと言われて、おりて駅でまた整列。


入線してきた蒸気機関車に乗り込んで、そのまま港?どこへ行くのかも知らないが、まあどこかへ行く。



椅子に腰かけて、荷物を棚に置き、一息つくと、けたたましく汽笛が鳴り響いて、重い列車が加速していく。


まだ種も撒いてないであろう穀倉地帯を、道路と並走していき、3年すこしの間にだいぶ見慣れた町は遠ざかっていく。




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「..い!起きろよ!朝だぞ!」

「....はっ!?はあ、寝てたよ。」

アアアショフは快活に笑う。

「アアアロフが俺に起こされるなんて、珍しいな。」

「ああ、すこし疲れた。」

汽車はだいぶスピードを上げたようで、時折汽笛が響くのが聞こえる。


「お、見てみろよ!」


アアアショフが指さした先には、海と水平線、そしてさんさんと水面を照らす太陽があった。


「おお!きれいだなあ」

「写真!写真!」

「おおおう、わかった!」

棚からインスタントカメラを取り出し、フィルムを巻いて、構える。

あーもう、違う違う、そうやってとるんじゃあない。貸してみろ、えっ?いきなりカメラ渡すなよ、ええ、ああ、早くとらないと。

何とかシャッターを切れたのだが、うまく映ったかは現像してからのお楽しみだ。


汽車は汽笛とともにトンネルへ入り、景色は遮断される。



顔が窓ガラスに映る。

心なしか普段より自分が鮮明に見えた。


[EOF]


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ある兵士の記録 @aaa-3454

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